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番外1919 普段とは異なる装いで

 それから数日をかけて、イングウェイ王と元候補者の面々はフォレスタニア観光を満喫していった。

 幻影劇にもハマったようで。一日一作ずつ鑑賞していったが日々の楽しみにしてくれていたようだ。劇場に向かう際や帰り際、今日はどんな話なのか。あの話のこの部分が良かったという話題で盛り上がりを見せる。その際のテンションも高くて受けが良かったと分かるな。


「二度、三度と見ても気付ける物が多いというのもあるな。細かい部分にも工夫が見られて、お陰で楽しませてもらっている」

「なるほど……。どの方向を見ても、という事ですか」

「座る場所によっても、だな」

「奥が深いわ……」


 リピーターとしても楽しんでいるというイングウェイ王の言葉に、レグノスが感心したように唸り、イェルダが顎に手をやって目を閉じながら言った。


「作るのに当たって文献に当たって時代考証もしていますからね。幻影劇の中で語っていない部分も、資料から得られた知識や実際に起こったことを反映している部分はあります」


 例えば側近の活躍。名前は残っていないが主君を守る為に奮闘した兵士達の様子。当時の暮らしぶりや文化。そういったものをメイン以外の部分で描いているので、特定の登場人物を追ってみれば活躍が描かれて見所を用意していたりするし、幻影劇で興味を持って知識を得てから見てみれば、また新しい発見ができたりするわけだ。


「それはまた、奥が深そうですね。調べてからまた見てみるのも楽しそうです」


 フォリムがそう言うとシュヴァレフが応じる。


「ああ。それに、幻影劇を見ていると血湧き肉躍るというか……。戦いや訓練で身体を動かしたくなるな」

「分かります。幻影劇の中での戦いにしても、こう、自分も参戦したくなるような状況が多いですよね」


 ケルネも微笑みを浮かべ、エインフェウスの面々が頷いていた。まあ、そうだな。熱いシチュエーションというか、例えばドラフデニア王の三部作にしても、物語の山場に合わせて決戦を挟んだりしているし、聖王と草原の王の戦いにしてもそうだ。


 各国の歴史を扱っているものなので、気に入ったり興味を持ってもらえたならば喜ばしいことだ。エインフェウスの将来の重鎮達ということで、同盟各国の親善にも繋がるしな。




 そんな調子で――幻影劇に関してはどれも好評だった。滞在中に再び足を運んだり、図書館で調べてみたいと言ってくれるぐらいには気に入ってもらえたようだ。


 それに幻影劇の戦いに触発されてか、迷宮に出かけたり、ヴィンクルやユイ達との訓練にも参加してくれた。まあ、満喫しているようで何よりだ。ヴィンクル達も楽しそうに戦闘技術の向上を図っているしな。元候補者達も空中戦装備の使い方等をユイやサティレスから学んで、互いに有意義な時間となっているようである。


 仮想街に関しても随分と面白がってくれた。


「イェルダは――ユキヒョウ氏族の獣の度合いを変えてきたのか。似合っているな」

「ふふ。少しこういう姿にも憧れていた時もありましたので。そういう陛下も人の度合いが増えていらっしゃいますね」

「親戚の姿を参考にね。奇遇なことではあるが、普段の姿とは逆になったわけだ。中々面白いな」


 仮想街に入ったところで全員集合。アバターに関しては獣人氏族ということで、皆色々いじってきている。イェルダは人の部分が多い、シーラと同じタイプの獣人なのだが、獣度をいじってイングウェイ王と似たタイプのユキヒョウ氏族の獣人の姿を取っていた。


 反対にイングウェイ王は人の度合いが多い姿。銀髪だが、普段は被毛がふさふさしている印象をそのまま反映するかのように少し長めでワイルドな印象のある髪型だ。人の部分の容姿は――精悍な顔付きだが、親戚の姿を参考にしているということなら、もしもこちらのタイプの獣人だったらと考えた時の精度は高いと思っていいのかも知れない。


 うん。気が合うというのは良い事だ。楽しそうに話をしていて、二人は中々良い雰囲気である。そんなイングウェイ王とイェルダの姿に、みんなも穏やかに見守っているといった印象だ。


 フォリムは――ローブ姿から軽戦士というか、冒険者風の出で立ちに。契約精霊であるドライアドも仮想街に一緒に連れてきているが、こちらはフォリムに似た魔術師風の服装になっているな。


「少し冒険者に憧れていたのです」


 と、ドライアドと笑みを向け合うフォリムである。ドライアドもにこにこして楽しそうだ。


 レグノスは――鱗の色と模様を変えているな。ん……。顔の形も、か? 赤の鱗で少しドラゴニュートやドラゴニアンに寄せていて、これはこれで火竜風というか、格好良い姿だと思う。その辺を伝えると「竜の姿はリザードマンにとっては理想なのです」と教えてもらえた。


 シュヴァレフは盗賊風だろうか。「普段絶対にしないだろう姿にしていけば意外性があって良さそうだと思った」とのことだ。案外サービス精神豊富な性格なのかも知れない。教導も厳しいが面倒見がいいという評判だしな。


 ケルネは――普段ぴんと立っている耳がロップイヤーになっているな。兎獣人ではあるが服装に色々工夫を凝らしてきたようで、華やかでセンスが良い。小柄な兎獣人の姿は見ていて周囲の面々も表情を緩めていた。




 他の元候補者の面々も、思い思いにアバターを変えてきて、満喫してくれているようであった。

 ひとしきりロビーで各々の姿を見て盛り上がり、それから仮想街の街中へと向かう。仮想空間のリアルさに驚きつつも、仮想空間内部での訓練を楽しみにしていたようだ。


 何分、仮想街なら多少無茶をしても問題ないからな。好きなように訓練できるということもあって、主に空中戦装備で限界ぎりぎりの動きをして空中機動の訓練を行いたいと考えていたようだ。


 失敗して落下しても怪我しないからな。場数を踏んで不慣れな魔道具操作に慣れつつ限界を探ることができるというのは大きい。


 踏み外したら地面に落ちるまでに体勢を立て直して再度シールドを足場にするか、レビテーションの魔道具を発動させて落下速度を制御するか、はたまたエアブラストで蹴り足とは違う方向に離脱するか。落ちる速度を変化させたり、シールドを蹴るような動作だけ見せてフェイントを入れることでも回避には繋がるから、いずれが最適解かは状況によるが、存分に試すことができるのだ。


 実戦では前に見せた動きとは違う動きを見せるのも幻惑効果が高いから手札が多い方が良いというのも間違いない。


 そうした動きの実演をして見せれば、各々自分の身に着けている体術や技術と合わせて動きを考えながら空中機動の訓練に励んでいた。


「皆の創意工夫の仕方は流石だね」

「他の方達の考え方や発想というのは新しい発見がありますね」


 俺の言葉にグレイスが元候補者達の動きを見て感心したように頷く。


「そうだね。エインフェウス式と言っても流派はあるんだろうけど、訓練一つとっても頷ける部分が多いね」


 俺の場合は色々なものが混ざっているからな……。平行世界自分由来の、シルヴァトリア式がベースになって、そこにBFOでの景久の試行錯誤や他プレイヤー達の工夫が上乗せされてアレンジされている。シルヴァトリアの、魔法近接戦闘技術がベースにあっても正式な武術を学んだ……というには色々おかしな方向に進んでいる。


「ん。良い刺激になる。私ももっと空中の動きを増やしたい」

「訓練、頑張ります」


 うんうんと頷くシーラと、気合を入れているエレナである。

 エインフェウス式の武術は長年かけて獣人用に最適化された技術体系でもあるから、その訓練の仕方、考え方というのは大いに参考になる。


 ともあれ、元々自分達で修業を積んで獣王継承戦に臨んだ面々だ。技術面は相当なものだし、一度コツを掴んでしまえば上達までは大分早そうに感じるな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] >また新しい発見ができたりするわけだ。 戦闘「訓練シーンで形意拳、八極拳、詠春拳、太極拳の型を練習してますね。 酔八仙拳をそろそろ追加ですか?」 てお「覚えて…
[良い点] 獣、影絵操りながら吹き出しに 「からあげ美味しく作るならもみもみ~」 なお、猫耳の前で披露中
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