番外1916 獣人一行の来訪と共に
「こうして無事にイングウェイ王を迎えられ、嬉しく思う」
「同盟に名を連ねる者として、新しいエインフェウスの王の誕生を喜ばしく思います」
馬車の車列は王城内――練兵場前の迎賓館までやってくる。そうして、ジョサイア王と共に各国の面々がイングウェイ王達に歓迎の言葉を伝えた。
騎士団、魔術師隊、楽士隊も歓待の準備万端といった様子で待っていて。そのまま一行は王の塔側へと通された。みんな将来的にはエインフェウスの重鎮見込みといったところだしな。各国の王達も元候補者の面々とは面識を持っておきたいのだろう。
というわけで王の塔の観覧用のバルコニーがある一室に移動し、まず王達とお互いの軽い自己紹介となる。
流石に元候補者達も、これだけの顔触れが揃っているとやや緊張気味ではあるか。
「境界公からお話を聞いて、皆さんに会えるのを楽しみにしていました」
そう言って微笑むオーレリア女王である。そんな調子で各国の王達も挨拶をしていったが……獣王継承戦のことを話に聞いているので、総じて元候補者面々に好感を持っている印象があるな。
それも終わったところで、歓待の催しとなる。
バルコニーにジョサイア王とイングウェイ王が共に出て共に姿を見せると、同盟各国の護衛や招待客が大きな拍手を送る。
招待客については、国内外の貴族や護衛といった関係者の他、アウリアやペネロープといった顔触れになるな。
そうした招待客を前に、歓声を受けながら前に出たジョサイア王が頃合いを見計らい、身振りと共に声を上げる。
「よく集まってくれた! 皆も聞き及んでいよう! 今日は同盟に名を連ねるエインフェウス王国より、若き獣王が来訪してくれた……! エインフェウス王国にとっても、我ら同盟にとっても喜ばしいことだ。前獣王であるイグナード公の拓いた道筋もまた、素晴らしい出来事であったが、そこから更に共に歩みを前に進めることができることを、誠に嬉しく思う!」
ジョサイア王が声を響かせると歓声が巻き起こった。それが落ち着くのを見計らい、ジョサイア王はイングウェイ王に視線を送って場を譲る。
「こうして温かく迎えられ、大変嬉しく思っている! 皆の中には私と面識のある者もいるが――沢山の者に支えられ力を与えられ、こうして獣王として即位することができた! 私もまた同盟や外交の方針については、イグナード公と考えを同じくしている。今後も同盟の一員として絆を深めていけたらこれに勝ることはない」
そう言ってイングウェイ王が笑みを見せると、再び大きな拍手と歓声が響く。
そうしてイングウェイ王が再びジョサイア王に譲り、祝いの催しを行うための口上を紡げば、楽士達の勇壮な音色と共に待機していた騎士団達が動き出すのであった。
騎士団と魔術師隊の催し物は、かなり練度が上がって洗練されている。
一糸乱れぬ空中での統制を見せる竜騎士達の挙動。その動きに、完璧に呼吸を合わせる魔術師隊の魔法の発動による演出。催し物ではあるが、実戦に即して応用できる部分が随所に見られるのだ。この辺りは――成立が空中戦装備への習熟と共に、ヴァルロス達との戦いを想定した訓練だった、というのがあるな。
武術や魔法の技術的なものを伴う内容であったため、元候補者の面々からしても目を見張るものだったようだ。
「あれだけ統率の取れた動きが取れる飛竜と地竜か。軍として見るならば、相当なものだろうな」
「対魔人を想定した結果、ということでしょうか」
シュヴァレフとフォリムが感心したように頷き合う。
「やはり、エインフェウスの外を見る事は大事なことだな。イングウェイ陛下もマジックシールドを用いていたが、今後は魔道具等も用いて使いこなせるようにならねば」
と、腕組みしながら言うレグノスである。
「音楽も良いですね。国外の音楽というのは初めてですが……気に入りました」
こちらはケルネの言だ。そうした元候補者達の言葉にイングウェイ王もうんうんと首を縦に動かしていて、満足そうに見える。
運ばれてきた料理も食べながら、そうやって王城での歓待の時間は過ぎていったのであった。
歓待の後は謁見の間がある主城を見に行くなど、セオレムの敷地内の見学も行った。
フラヴィア王妃とイェルダ、フォリム、ケルネといった面々も仲良くなっていたようだ。女性陣はまあ、エインフェウスにいた時もグレイス達とも話が弾んでいたからな。そこからフラヴィア王妃とも話をしやすい下地があったというべきだろうか。
そんなフラヴィア王妃を見て表情を綻ばせていたジョサイア王である。こうした交友関係が増えるのは喜ばしいのだろう。
そんなわけでエインフェウスから来訪している一行は見学の後はセオレムで一泊し、迎賓館にて各国の面々とも交流を行っていた。
「うむ! 精霊に好かれておるようで何よりじゃな……!」
「それはアウリア様もですね。契約精霊は風の精霊ですか」
と、お互いの契約精霊を召喚し合って楽しそうに笑い合うアウリアとフォリムである。アウリアの契約精霊は風の中位精霊。アウリア自身も風魔法に資質が向いているという話ではあるかな。色々満遍なく使えるらしいが。
アウリアに召喚されたシルフはと言えば、フォリムの召喚したドライアドとお辞儀をし合ったりしていた。お互いカーテシーの挨拶をしているあたり、人慣れしている精霊だというのが良くわかる。精霊達同士、楽しそうに笑みを向け合い、アウリアとフォリムも表情を緩ませていた。まあ、エルフ同士、精霊同士で仲が良くて結構なことである。
そんな調子で交流が終わり、一晩経ってから。エインフェウスの面々は街中の視察をしながらフォレスタニアに向かった。
細かな施設の観光は滞在しながら行っていくので個別には見ていくわけではないが、各区画の特色を見ながら解説し、街並みを眺めてからフォレスタニアに移動といった具合だ。
内陸部に住んでいる面々は海を見るのも初めてという事で、港に行った際もかなり喜んでいた。イェルダやシュヴァレフあたりは冒険者や軍人としてあちこち訪れているので海も見たことがあるようだが。
「綺麗な海ですね。水精霊だけでなく、他の精霊達も活気がありますし、良い場所です」
フォリムがにっこりと笑う。多種多様な精霊達が元気で賑やか、という評価だ。確かに、大森林の方も精霊は多いし活気があるが、その種類にはタームウィルズよりも偏りがあるな。その面で言うとこっちの方が色々な種類の精霊達が満遍なくいるというのはそうだ。活気があるというのは……ティエーラや四大精霊王、テフラといった高位精霊が出入りしているからだったりするが。
そんなわけで小さなサラマンダーあたりも割と豊富に街中を他の精霊と仲良く歩いていたり漂っていたりするのだ。火精霊が街中にいるからと、別に荒ぶっているわけではないので火災が増えたりはしないというのも安心ではある。
精霊達の活気という点で言うならフォレスタニアも相当だったりするが。こちらも満遍なく色々な種の精霊達がいるが、湖があるという事で水精霊が比較的多いかな。
そんなフォレスタニアに降りてきた元候補者達はと言えば、湖の様子に歓声を上げていた。
「ああ……。綺麗な場所ね」
「森都も湖があるし、私も好きだ」
そう言って微笑むイェルダと静かに頷くイングウェイ王だ。
王城と同じ、浮石エレベーターや喜んだりしつつもフォレスタニアの街中を移動し、湖の中からマギアペンギンや海の民からフリッパーや手を振られて、一行は表情を緩めて手を振り返しつつも城へと向かう。動く歩道も中々に受けがよく、俺としても作って良かったというところだ。
今日の夜辺りからは劇場に出かけたり火精霊温泉に足を運んでもらったりするので、楽しんで行ってもらえたら良いな。