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番外1914 イグナード公の指南

 イグナード公は、それから数日の間フォレスタニアやタームウィルズ観光をしたりしながら、のんびりと過ごしていた。

 メルヴィン公と話していた通り、新しい事を始めてみるということで、タームウィルズの海にも出かけて釣りをしたり、フォレスタニアの大図書館で本を読んだりといったこともしているイグナード公である。


「ん。釣りは良い」


 というシーラと共にみんなで一緒に海釣りに出かけたりもした。以前にみんなと海水浴で足を運んだ秘密の岩場スポットに木魔法で作った即席の船を浮かべ、そこでのんびりと海釣りを楽しんだり素潜りを楽しんだりといった具合だ。


 秋口なのであまり泳ぐには向かない季節ではあるが、四大精霊王の祝福もあるしな。ティールも釣りの邪魔にならないぐらいの距離で楽しそうに海を泳いだりしていた。魚群を少し遠巻きにこっちに動かして釣りやすくしたりと……さらっとやっていたのは流石群れで狩りをするマギアペンギンといったところか。


 コルリスとアンバーは海水に仰向けに浮かんで水面を漂ったりしていたが……あれはあれで楽しんでいるのだろう。


 釣りが上手いのはやはりシーラだな。イグナード公へもシーラから「釣ろうとしている魚の性質や大きさを知ることが大事」「潮の満ち引きで釣れやすくなったりする時がある」と、いくつかのコツを教えてくれる。


「ん。釣ろうとしている魚に合わせて釣り針や餌の大きさも変える。季節ごとに美味しい魚、狙いたい魚は変わるから、そこで狙いたいものを絞る」

「ほうほう」


 シーラの解説に真剣に耳を傾けていたイグナード公であるが、割と釣果を上げていた。

 ティールのアシストもあるのだろうが、イグナード公自身の感覚の鋭さや勘の良さ等もあるだろう。


 そうしてみんなで釣り上げた魚や貝、烏賊等を新鮮なうちに即席の竈で調理し、焼いたりして食べたりもした。魚の串焼きや醤油で網焼きにした貝や烏賊といった簡単なものだが香ばしい匂いが食欲をそそる。


「これは良いな。新鮮な海の幸を楽しめるのも醍醐味か」


 イグナード公は上機嫌そうに烏賊焼きを口に運んで笑みを見せる。シーラも隣で魚を食べながらうんうんと頷いていた。

 エインフェウスの森都には海はないので湖や川での釣りになるが……まあ、イグナード公としても楽しみが一つ増えたのであれば良い事だ。現役の獣王だとあまり大っぴらに釣りに出かけたりという機会も作れなかっただろうし。


 そんな調子で食後には潮干狩りもして、獲れた貝や蟹を夕食に使ったりと、海遊びを満喫させてもらった。


 フォレスタニアの大図書館では――新しい趣味のヒントになるかも知れないということで、色々なジャンルの本を幅広く読んでいたようだ。


 音楽や絵画、彫刻といった芸術関連。手工芸、建築、園芸。冶金技術に魔法技術等々の技術書。料理本。歴史書や戦記、寓話。


「色々な本があるから読書自体を目的としても飽きる事なく楽しめそうだな」


 とイグナード公は語っていたが。確かに、読書自体を楽しみにするというのも有りだろう。イグナード公は武人ではあるが、名君と呼ばれるだけあって武門一辺倒というわけではないからな。読書から興味が湧いたことを実践してみたりと、色々楽しんでいるようだ。


 そうした数日の休養の後で、ユイやヴィンクル、サティレスを相手に闘気術の指南もしてくれた。みんなも一緒にそれを聞かせてもらって闘気術の勉強もさせてもらっている。


「最初は細かく操作できないのは仕方のない事だ。完成形を思い描き、段々と闘気操作の精度を上げていくわけだな。だからこそ実戦においてどのような技が有効なのか。どのような場面で使うのかをしかと考えておかねばならぬが……その点、先人が造り上げた技というのは完成形を見る事もできるわけだし、有用性も確立されている分、模倣もしやすいし間違いがないというのはある」


 闘気術の研鑽の仕方についてイグナード公が解説してくれる。そんなイグナード公の講義に、ユイとヴィンクル、サティレスといった面々は素直にふんふんと頷いて耳を傾けていた。良い生徒だな。イグナード公もそうした反応に表情を綻ばせている。


「闘気なのに特殊な効果を持っている場合はどうなのでしょう」


 サティレスが尋ねると、イグナード公は顎に手をやって言う。


「こちらは心の在り様か生き方。或いはそうしたところから来る精神性に由来するもの。そうしたものに加え、闘気の習熟と精神の集中が必要となる、とされておるな。エインフェウスでも記録に残っている確かな実例というのはそう多くはないが……例えばグレイス殿はそうだろう」


 その言葉に、みんなの視線がグレイスに集まる。


「私の場合は種族的なものも多分にあるような気もしますが……そうですね。心の在り方というのでしたら、私の望んでいた形にすることが出来たとは思っています。この身に宿る吸血鬼の力をきちんと御せるようにと……ずっと思っていましたから」


 と、胸のあたりに手をやり、俺を見て微笑むグレイスである。俺も目を細めて頷く。

 グレイスにとって、吸血鬼の血やそこからくる衝動は忌まわしいものでもあったが……その一方でまだ俺が小さかった頃に母さんが亡くなり……俺を守るための力ともなった。その力で戦いを潜り抜け、最初の吸血鬼であるメイナードの在り方を知った今では、グレイスにとっての誇りか。

 大切な人は、誰一人として傷つけず、その力で護ってきたのだから。


 そんなグレイスの様子に、母さんもにこにことしているな。


 特殊な性質を宿した闘気技というと、ラザロの水鏡もそうだ。……あれは当時戦っていたベリスティオやそれに付き従う魔人達から守るための剣、という印象だな。精神的なものが闘気にも宿るというのなら、そうした想いが剣に宿ったのかも知れない。

 後世でも伝説的な騎士と呼ばれているが、それはそうした精神性に伴うような高潔な人物だからこそだろう。


 特殊な闘気術について話を聞いたユイ達はと言えば、色々と考えているようだった。


「うん……。とても強い想いが必要なんだね」

「切実とも言える願いか。平和な今に生きて、そこまでの強い想いを見出すのは中々難しい事だとは思うが……譲れない想いというのは我にもある」

「そうしたものが形を成した結果、というのは覚えておきます」


 ユイとヴィンクルの言葉に、サティレスも目を閉じて言う。ヴィンクルは俺やクラウディアの方にも少し視線を向けてきたが……譲れない想いというのは……ティエーラやコルティエーラ、クラウディア。俺との戦いに絡んだ事だろう。


「うんっ。独自の闘気技を考えるのは、やっぱり強くなってからかな」


 ユイが納得いったというように元気よく言う。


「そうだね。ヴェルドガルやエインフェウスの闘気技を見ても分かるけれど、実戦的なものが多いから。反復練習もして闘気操作の精度を高める必要があるから、試行錯誤ややり直しも利きにくいだろうし」

「うむ。急ぐものでもあるまい。ゆっくりと極めていけばよい」


 そんな言葉に笑みを見せるユイと、真面目な表情で頷くヴィンクル、サティレスである。

 まあ、こうしてイグナード公だけでなく、ゲンライ老やレイメイにも指導を受けられる環境だしな。ユイの場合は闘気術、魔法、仙術、陰陽道と色々知識を得ているが、総じて恵まれている環境というのは間違いないので、今後の守護者面々の成長に期待したいところだ。


 そうして、座学が終われば実践ということで、イグナード公の指導を受けながら闘気の扱いを学んだりするヴィンクル達であった。

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[良い点] 獣浮んだ状態ながら尻尾で釣りをしていた
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