番外1908 古き戦士達の為に
「ここまで来たからにはこの子達を両親に会わせてあげたいものね」
「そうですな。気合を入れて参りましょう」
イェルダの言葉にイングウェイ王が答え、更に休憩を挟みつつも遺跡内の調査は続行された。幼い姉妹の幽霊はと言えば――嬉しそうに手を繋いで、仲良くイェルダの後ろをついてくるという、微笑ましい状態だったらしい。
しかし……まだ問題は解決していない。
「とくべつなしれいとう……っていうのが、私達が住むばしょを守っていたの」
「……はやくて、大きくて、こわいのがいるんだ」
というのが少女達の弁だ。詳しく聞いてみれば、居住区画には司令塔となる大型の特別製ゴーレムがいるというのが少女の話から推測できた内容だ。
遺跡内部のゴーレムに関しては既に朽ち果てた残骸も転がっていたが、まだ稼働しているものはその状態問わず、完全破壊されるまで襲い掛かってきた。
装甲は再生するが、脱落したパーツまでは修復されない。片腕がどこかに脱落した個体。上半身で這いずりながら光弾を撃ってくる個体。頭部が紛失しているが近付くと感知して暴れる個体……と、暗い遺跡内部で遭遇したら悪夢めいているというか、大分ホラー感がありそうな状態だったようだが……見た目はともかく、そうした破損個体でも襲い掛かってくると分かっていれば不意を衝かれることもなく、イングウェイ王やイェルダの敵ではない。
発見と同時に速攻で爪撃を叩き込んだり、破損部から内部へと氷を炸裂させたりして、機能停止させていったようだ。
ただ、まだゴーレム達が活きているということは、その司令塔も暴走状態のままで稼働している可能性が高い。居住区画まで踏み込めば、司令塔も含め、まだ稼働するゴーレムとの戦闘は免れえないだろう。
「奥へと探索を進めるに従い、変化も出てきましたね」
ケルネが思い返しながら言う。
破壊されているゴーレムや、それらと戦ったであろう住民の亡骸も多数見つかったそうだ。激戦の痕跡だな……。
外に逃げられた住民がどれほどいたのか。最早知る由もないほど昔の出来事ではあるが……外縁部ではそうしたものもあまり見られなかったということを考えると、無事に脱出できた者がいたとしても、それほど数は多くなかったのだろう。
そして――イングウェイ王達は探索の果てにそれを発見する。
残骸と亡骸、瓦礫が重なった通路だ。その向こうに広々とした空間があるようだった。
「――見つけましたね」
「居住区域ね。様子を見てからいけそうなら調査隊の戦力を結集させて、私とあなたが司令塔を相手取る、という方向で良いわね?」
「そうですな。敵方の残存兵力によっては少しずつ釣り出して、頭数を減らすことも視野に入れますが」
作戦を確認する一行。ゴーレムが殺到してくるような状況なら、ドルイドが木の根を使って通路を遮断しつつ後退するという段取りだ。
「では――行きますよ」
ドルイドのエルフが植物の囮――二足歩行する人参や大根のようなもの複数を作り出して、居住区画に一斉突撃させたそうだ。走っていく囮に対しどれだけのゴーレムが迎撃に動くのか。視界外まで走っていったところで破壊されても制御が途切れるので対応力や戦力が伝わるとのことだ。
それを見る事で残存戦力や敵の感知能力を推測するというわけだ。物陰から様子を窺っていたイングウェイ王達であったが……。
「今――最後の一体が破壊されました。それなりに長く生き延びましたし、火力の集中もそこまでではない……。調査隊の戦力を結集すれば掃討は可能だと思います」
「後は……司令塔の強さ次第か」
そうして作戦は決行されることとなる。司令塔を確認次第即座に最大戦力をぶつけるために、イングウェイ王とイェルダは最前列から一歩引いた位置での突入だ。撤退も考え、居住区画からの出口付近の構造の確認、逃走ルートの確保、後詰めの態勢も整え、準備万端で突っ込んだ。
調査班が突入すると、すぐさま残存するゴーレム達がそれを察知して攻撃を仕掛けてきた。無傷の個体、比較的損傷の少ない個体は近接戦闘へ。損傷の大きな個体は砲台として物陰や高所から光弾を発射してきたという。
それらに獣人達は闘気術を以って対応する。過去の激戦と長い年月を経て、ゴーレムの数は減っているが、それでも多勢に無勢であることは間違いない。だから、司令塔が姿を現すまでにきっちり数を減らす必要があった。イングウェイ王やイェルダも力を温存しながらも要所要所で危険を感じた瞬間に仲間達にフォローに回る。
切り結ぶ音や破壊音と共に闘気と光弾がぶつかり合って爆発し――そしてそれはやってくる。
「司令塔! 頭上に気を付けて!」
イェルダが警告を発して。彼らはそれを目撃した。
司令塔は、兵隊ゴーレムとは素材からして別物であったらしい。銀色の輝きと魔力のラインで煌めく身体。多脚と複数のレンズを頭部に備えたそれは、金属の蜘蛛に似た姿をしていたという。
頭部に魔力が集中し、複眼が火花を散らす。それを見た瞬間、イングウェイ王とイェルダは言葉も交わさず、ほとんど同時に動いた。地上から司令塔のいる方に向かって、強烈な爪撃波を放ったのだ。狙ったのは司令塔本体ではない。居住区画の天井そのものだ。
足場として張り付いていた場所が崩れて、司令塔が落下してくる。頭部から凄まじい光弾が放たれるのがほぼ同時。
「それで充分ではあったわ。足場を破壊して体勢が崩れたせいで光弾はあらぬ方向に飛んで行った」
「私とイェルダが落下する司令塔に向かって突っ込んだのもほぼ同時でしたな」
イェルダとイングウェイ王が当時の状況を語ってくれる。作戦通り、そのまま司令塔との戦闘に突入したそうだ。他の面々も兵隊ゴーレムの掃討そのものよりも二人に横槍が入らないことを優先して動いてくれていたという。
ともあれ、司令塔は空中で身体を翻し、周囲を揺るがしながら着地する。二人はそこに向かって迷わず突っ込んだ。複数の目と槍のような多脚を持つが故に、イングウェイ王、イェルダとの多対一でも司令塔は対応してくる。部隊を制御して動かす能力だけでなく、近接戦闘能力も射撃能力も相当なものであったという。
凄まじい速度で爪が、拳が振るわれ、多脚と切り結んで爪撃波と光弾が交錯する。驚くべきはその装甲の分厚さだった。イングウェイ王の爪撃を食らって、傷はついても破る事ができない。重装甲だからこそ前線に出てきて兵隊達を制御するというコンセプトなのだろう。
傷に向かって攻撃を重ねれば。或いは正面からの破壊も可能だっただろう。
しかし司令塔もその狙いを読んでいるというように一度爪撃を受けた箇所への守りを厚くし、誘いに使ってきたという。調査隊がゴーレムに対して多勢に無勢であるというのは否めない。疲労しないゴーレム達から持久戦や遅延を仕掛けられるのは後から響いてくるだろう。
だから。イングウェイ王は先程司令塔が空中から落ちてくる時に見た、或るものを信じて――イングウェイ王は即断する。賭けに出た、ともいう。これが通用しないなら、撤退戦に移行することも視野に入れて。
「イェルダ殿――!」
イェルダに簡潔に作戦を説明し――そしてイェルダは疑問を差し挟まず、それに見事に応えて見せた。攻防の中で機を見て、凍気を最大限に噴出。下方から司令塔をひっくり返すように氷柱を形成して宙に舞いあげて見せる。
「おおおおぉおッ!!」
そこに。闘気を噴き上げ、咆哮を上げたイングウェイ王が突っ込んだという。狙いは、司令塔の胴体下部に突き刺さったままの、槍状の武器――!
過去の、住民達との戦闘で突き刺さったものが、そのまま装甲修復に巻き込まれる形で埋め込まれるように残ったものだろう。居住区画に来るまでの間に、遺跡の住民達が使っていた武器は何度か目にしていた。だからこそ、即断することが出来たとも言える。
完璧なタイミングで渾身の一撃を槍の柄に向かって叩き込む。槍ごと砕き、装甲の内側へとイングウェイ王の爪が潜り込む。そこから更に闘気の砲弾が内側から放たれるように炸裂した。
外側からの装甲は完璧だったのかも知れない。しかし、流石に内部からの破壊は想定していない。胴体部の中から白光が走り、蜘蛛足が吹き飛び、内部のコアが破損する。
それで――兵隊ゴーレム達は機能を停止していったのだという。
「――あれが落下してくる時に視界に入ったのはほんの一瞬の事だったけれど、突き刺さったままの槍の柄に気付いた事……そして戦いの中で作戦を組み立てたのは本当に見事な手並みだったわね」
「あまり詳しく説明をせずにイェルダが信じてくれたからこそとも言える」
「信頼できるというのは、それまでの探索で、分かっていたことですので」
イングウェイ王のそんな返答に、イェルダは少し照れたように頬を赤らめてそっぽを向いて……みんなもそんな二人のやり取りに、表情を緩めるのであった。
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