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番外1893 準決勝に向けて

 継承戦は続いていく。

 結果から言うのなら、二回戦の第二試合はレグノスの勝利、第三試合はシュヴァレフ、第四試合はフォリムがそれぞれ勝ち進むこととなった。


 この辺は実力のある者が順当に勝ったというか、番狂わせは起こらなかった、という印象だな。勿論、他の候補者達も実力者ではあるのだが、やはり予想した五名の実力が頭一つ二つ抜けている。


 レグノスは恒温の種族との差異を活かした変則的な格闘術。シュヴァレフは全体的なハイスタンダードさと闘気術。フォリムは木精霊憑依による底上げによる戦法が目立ったというのは前と変わらない。

 いずれもその辺りが長所であり、武器としている部分なのだろう。


 手加減や温存をする意味があまりないシステムだし、加減して負けてしまっては目も当てられない。油断していたらどうなるか分からない、というのもある。

 相手もやはりきっちりとした実力を持っているし、何より継承者として皆に見られている手前というのもあるな。温存はともかく手抜きと受け取られても獣王となった時の品位に不都合がある。


「レグノスさんと、シュヴァレフさんの両名については2戦目も見せてもらって、もう少し特色というのがはっきりした気がします」

「お二方とも、戦いの流れの中で自身の得意とする展開に持ち込んだ形ですね」


 俺の言葉に、グレイスが頷く。

 ただ、その内情は二人の間で少し異なっているな。


 レグノスの場合は異質な反応速度と瞬発力、動きの変則さ、強靭な尾を攻防だけでなく体捌きにも使うことによる手数の多さで自分のペースに持ち込んで相手を封殺する。


 シュヴァレフは――教導官としての実力もさることながら、強者を相手にした場数の多さを土台とする押し引き、駆け引きの上手さから来るものだ。

 そういった駆け引きで相手の実力を発揮させず、自身の強みはしっかりと押し付けて畳みかけるという戦いを得意としているわけだ。

 レグノスを相手取るにはしっかりとした対応が必要だし、シュヴァレフは技量の面で拮抗するところまでもっていかなければならない。


「フォリムさんは見せていない手札も多そうですが……契約精霊は第一試合と同じでしたね」

「そうだね。やっぱり候補者との試合で十全に戦える能力を持つ精霊となると、手札としてそう多くはならないとは思う」


 というよりも、力を借りる精霊で戦法が変わる関係上、フォリムが最も頼りにしているのがあの木精霊ということになる……だろうか?


「もう一つ。彼女の場合は前の試合と大きな違いがある。最初の試合で一度呼び出して憑依しているから、精霊が活性化しているのかな? 第二回戦での召喚と憑依は第一回戦に比してかなり速かった」


 というと、マルレーンもこくこくと同意していた。

 あれならば最初にラッシュを掛けられてそのまま負けてしまう、ということもなさそうだ。シュヴァレフはスピード面でも優れているので、その辺でフォリムが後手に回ってしまう可能性もある、と見ていたのだが……勝負の行方が分からないというのは利害関係無しに観戦している側としては面白いし大変結構なことだ。


 してみると、フォリムにとっての懸念材料は最初の試合での召喚だったということになる。確か……精霊の憑依は長時間だったり高頻度だったりするとシンクロしすぎる事によるデメリットもあったはずだが……継承戦の試合時間、回数を考えるとメリットの方が勝る。打ってつけと言っても良い。


「精霊憑依の性質と併せて考えると、第二試合以降は十全に戦えるようになった、と言うべきかも知れないわね」


 クラウディアが目を閉じて思案しながら言う。


「この場合、継承戦に合わせてコンディションを考えるというのは、自分だけでなく精霊の状態も、となります。最初の試合の前段階で精霊を活性化させていなかったのは、その辺りも加味してのものですな」


 ウラシールが解説してくれる。精霊憑依の使い手ならばその辺の機微も分かるが……この辺は俺やマルレーンも含めてみんなも専門外だったりするので、ウラシールの見解は参考になるな。


 そうやってみんなで第二回戦の内容を振り返りつつ待っていると、やがて候補者と舞台の準備も整ったらしい。「これより第三試合……準決勝が始まります!」と、猫獣人の文官が声を上げて、観客達も大歓声で応えていた。


 準決勝第一試合はイングウェイ対レグノス、第二試合はシュヴァレフ対フォリムだ。


 盛り上がる観客同様、楽師達の奏でる音楽も絶好調といった様子だ。舞台修繕の間、候補者達の試合内容を振り返ってテンションを上げていた舞台周辺の空気を更に温めている。


 王城に続く道から案内されてイングウェイとレグノスがやってくると、大歓声がそれを迎えた。

 二人の生命反応は全身から輝かんばかりで……イングウェイは一回戦での凍気によるダメージも完全に抜けているようだ。


 これならば両者万全の形での戦いになるだろう。


「イングウェイか。魔物退治で共に戦った時以来だが……お前が力を付けるためにヴェルドガル王国に赴いたと聞き、我もこの日の為に鍛え直してきた。こうして大舞台で見えるのは心が躍るようだ」

「ふっふ。イェルダ殿もそうでしたが……こうして相手に恵まれるというのは、戦士の端くれとして幸福なことですな。持てる力の全てを以てお相手しましょう」


 レグノスもイングウェイと面識があるらしく、そんなやり取りを交わしている。しかもイェルダと同様、イングウェイの話に触発されていると来た。お互いにやりと笑って戦意も十分だ。


 思えば、ベルクフリッツの事は獣王国内でもかなり話題になっただろうしな。


 あの事件後に俺達もイングウェイと面識を持ったわけだが……。ヴェルドガル王国の話が出ればエインフェウスでも名前の知られているイングウェイが迷宮に修行に向かったという話題も一緒に出るか。イングウェイと面識があろうがなかろうが候補者達は触発されて修行に熱が入っている、と見るべきかも知れない。


 ともあれ、森都住まいのフォリムも当然イングウェイと面識があるだろうし……後はシュヴァレフか。教導官として有名なようだし、こちらも面識があるかどうかはともかく、お互いの事は知っている、というのは有るだろう。継承戦に出てくるぐらいならば、エインフェウスの将来を考えている面々だしな。


「イングウェイさんも顔が広いですね」

「強者と評判の者がいる場所にあちこち赴いているようだからな。レグノスが言っているのは、大鯰退治の時とは別件であろうが」


 イグナード王が笑って応じる。なるほどな。大鯰の時はレグノス単身が討伐したのだと、リザードマンの氏族長が教えてくれる。



 そうして……二人は位置について一礼する。傍目で見ているだけでも、生命反応が輝きを増しているのが分かる。

 闘気が漲って両者の四肢から火花を散らしている。レグノスは静かな印象だったが、イングウェイと対峙したその表情は――まあ実に楽しそうなことだ。牙を覗かせてにやりと好戦的な笑みを見せている。イングウェイも同様だ。強者との戦いが楽しくして仕方ないといった様子であった。


 イグナード王が開始の合図を出す為に立ち上がり、観客達も開幕の展開を見逃すまいと緊張感が高まっていく。


「それでは――準決勝第一試合……始めッ!」


 そうして銅鑼が打ち鳴らされて、準決勝が始まる。真っ向。開幕と同時に爆発的な速度で踏み込んだイングウェイとレグノスが、舞台中央で激突するのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] >まあ実に楽しそうなことだ。 戦闘「旦那様、戦闘欲が漏れてますよ」コソコソ てお「おっと、いかんいかん」
[良い点] 獣、観客が熱中しすぎて売り上げ緩む
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