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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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257 王城での密談

「そなたが循環錬気を使える理由は納得がいった。今後見込みがあるとすれば、それは古き血統から出てくる魔術師だろうとは言われておったからな」
「……古き血統とは、何なのです?」
「シルヴァトリア王家と同じく、ベリオンドーラの魔術師達を祖にする家系と言い伝えられておる」

 エベルバート王は目を閉じると、語って聞かせてくれる。

「循環錬気を使える者が数を減らしていたこと、幾つかの貴重な術式が散逸して失われたことから、それらを守り伝えていこうとベリオンドーラに系譜を持つ者達が集められというわけだ」

 ベリオンドーラに近しい家系に優れた魔術師が現れやすいというのは、ある程度分かっていたことらしい。だからそれらの家系の間で縁談を結び……魔人と戦った魔術師集団を復古させようとしたのだろう。故に古き血統というわけだ。そして彼らを慕う魔術師志望の者達も集まり、これが後に賢者の学連となっていくと。

 ……このあたり、ヴェルドガル王家に近いな。
 魔人との戦いで循環を使える魔術師が数を減らしたり、技術が失われた。或いは混血で先細りになってしまったから、近い者を集めて血統の純度を高めようとしたわけだ。その長老と呼ばれる者達が古き血統の家長達……ということになるか。

「封印の巫女というのは?」
「古き血統の中でも特別な娘が襲名するそうだ。……由来について詳しい部分は定かではないが……彼らは今、事情があって話を聞ける状態でもなくてな。賢者の学連の学長ヴォルハイムらが、事態打開の研究している部分はあるのだが、成果は芳しくない」

 ヴォルハイム。賢者の学連の内紛当時の副学長だ。……この分だと、記憶解放の術式を持つ魔術師を追っていることはエベルバート王には報告していないな。
 ともかく封印の巫女のことも含めて、そのあたりは長老達に聞くしかないようだ。本題となる話を進めていこう。

「実は……今回シルヴァトリアに来た理由としては、賢者の学連の内紛に端を発した騒動も絡んでいるのです」

 そこで、ステファニア姫がシルヴァトリアにやってきた理由を切り出す。きな臭さを感じ取ったか、エベルバート王の表情に緊張感が増した。

「まずは……メルヴィン陛下からの親書に目を通しては頂けないでしょうか?」

 ステファニア姫がメルヴィン王の書状をエベルバート王に差し出す。エベルバート王は封蝋を確認し、親書に目を通していく。読み進めるに従い、その表情が険しいものになっていった。
 親書の内容についてだが、まず魔人絡みで今までに分かった部分が書かれている。
 ヴェルドガルに向かってくる魔人集団の目的や、古文書を解読して分かったこと。そしてそこから推察された仮説――つまりベリオンドーラに魔人がいるかも知れないという可能性。
 それにザディアス絡みの事件についても書かれている。山賊騒動、ガートナー伯爵領への襲撃、その背景としてジルボルト侯爵家に対する脅迫があったこと、脅迫した者の正体が魔人であったこと。全てだ。

 エベルバート王からしてみればベリオンドーラに魔人達がいるかも知れないという情報もだろうが、ジルボルト侯爵家への脅迫についてザディアスが関わっているかも知れないという部分は相当な衝撃だろう。
 これでエベルバート王がザディアス側の肩を持つような行動に出るならば……まあ、その時はこちらも割り切った動きをしなければならない。

「これは……真か」

 エベルバート王は頭痛を堪えるように額に手をやる。

「こちらとしても誰が糸を引いているのか全容までは掴めていない部分が多かったので……どういう形で、誰にどこまでお伝えすればいいのか迷っている部分はありました」
「……であろうな。前回来た使者も本題はそれであったのだろうが……。この状況で余が病床に臥せているなどと言われれば、警戒もしよう」

 エベルバート王は割と正確にこちらの動きと事情を把握してくれたようだ。

「必要であれば、魔法審問も受けます」

 と伝えるが、エベルバート王は首を横に振った。

「そのような対応はあまりにも恥知らずというものであろう。裏付けはこちらで取るのが筋というものだ。この場合は……親書の中にあった策に乗せてもらうのが良いのだろうな」

 親書の中にある策……つまり石膏像を使い、シルヴァトリア国内でアルヴェリンデの情報を集めるように通達するという奴だ。

「ジルボルト侯爵は今現在、こちらに向かっております。侯爵からも直接話を聞いてはいただけませんか? 話の裏付けになるはずと、精霊テフラも同行しています」
「高位精霊の同行とは……」

 エベルバート王は些か引き攣ったような笑みを浮かべると、侍女を呼んでジルボルト侯爵がやってきたら全員を奥へ通すようにと言い付ける。

「ジルボルト侯爵のなさったことについてはどうかご寛恕を」
「……その話が本当であるならば、領主としてはやむなきことであろう。そもそもが……病床にて佞臣(ねいしん)の跳梁を許した余の不明である」

 ……跳梁か。恐らくエベルバート王に報告をする役がいるのだろうが……そいつはザディアスと通じている可能性が高いな。王城内にいる内通者については警戒しなければならないだろう。



「ジルボルト侯爵が参りました」

 と、女官が報告してくる。

「うむ。ここに通すように」

 エベルバート王が頷くと、ジルボルト侯爵とエリオット、それからテフラが現れる。それぞれフードを被っている。護衛としてシーラが同行してきた。
 彼らが城まで乗ってきた馬車には、ここまでの護衛としてラヴィーネとイグニスが乗っているはずだ。流石に王城内を闊歩できる面々ではないので馬車に乗ったまま留守番である。

 アンブラムは……相変わらず影武者役である。ジルボルト侯爵の格好をして窓際に姿を見せてみたり、エリオットに姿を変えて宿で待機させてみたりと、偽装工作に余念がない。基本的には所在を攪乱する役を引き受けているわけだ。
 エルマー達に危険を知らせて、別邸の地下へ避難誘導する役にもなるけれど。

「よくぞ来た、ジルボルト侯爵。精霊テフラ殿。そしてベネディクト卿。いや。今はエリオット卿であったな」

 ジルボルト侯爵を待つ間に、エリオットの事情も全て話をしてある。エリオットは名を呼ばれ、仮面を脱いで跪いた。テフラもフードを脱いで素顔を晒す。
 アシュレイの髪の色も脱染色剤で戻してある。エリオットと見比べ、テフラの姿を見やり、エベルバート王は嘆息した。

「そなた達には余の不明により苦労を掛けた」
「勿体ないお言葉です」

 エベルバート王にジルボルト侯爵とエリオットがそれぞれ答える。

「ジルボルト侯爵の無実を証言する為に同行したのだが……」

 と、少し不安そうにテフラが首を傾げる。

「……信じよう。余とて魔術師の端くれ。精霊を他の存在と見誤ったりはせぬし、テフラ山に住まう高位精霊の話も聞き及んでおる」

 エベルバート王の言葉に、テフラが満足げな笑みを浮かべた。

「こちらが証拠の品になります」

 石膏像とカエクスジェムを入れた木箱を差し出す。木箱の中を見たエベルバート王は眉を顰める。

「……これらを用いてザディアスに揺さぶりをかけねばなるまいな。勘付かれて体勢を整えられる前に呼び出さねばならん」
「誰が通じているか分かりません。メルヴィン陛下への報告も必要になる部分もありますから、許されるものであれば僕達もその場に立ち会いたく存じます」

 と、申し出てみる。エベルバート王は俺の言葉に、少し思案を巡らせた後で尋ねてくる。

「……そうか。ヴェルドガルは魔人殺しを擁しているとは聞いていたが……そなたか?」

 循環錬気を用いることのできる魔術師となれば、そういう推論をされるのも自然なことではあるか。

「はい」
「……では、恥を忍んで言おう。そなた達に立ち会いを頼みたい」
「アドリアーナ殿下の、身の安全も確保したく思います」

 ステファニア姫が言う。

「アドリアーナ?」
「監視の目を向けられているそうです。私達に警戒を促してきました」
「あい分かった。――誰かあるか。アドリアーナをここに呼ぶように」

 エベルバート王の言葉に、女官が畏まってアドリアーナ姫を呼びに行く。エベルバート王の呼び出しとなれば、監視がいたとしても彼女を制止できないだろうしな。アドリアーナ姫の安全確保は必要なことだ。

 程無くして、アドリアーナ姫が王城の奥に現れた。ステファニア姫の友達ということだったが……見た目は何というか……王女という肩書きに相応しい、深窓の令嬢といった風情である。中身はまた違うのだろうが。

「……父上……そのお姿は――」
「うむ。此度の治療が上手くいったということだな」

 アドリアーナ姫はエベルバート王の姿に目を丸くしていた。

「それは何よりでございます。兄の不審な動きを報告できなかったこと、お許しください」
「よい。余が勘付けばあれも実力行使に出る可能性があった」

 そうだな……。エベルバート王は病床で動けなかったから、追い詰められたらエベルバート王を暗殺して病死などと言って、事情を知る者を粛清して回るなんてことも有り得たはずだ。
 アドリアーナ姫は秘密を抱えていたし、王位継承者のライバルとして警戒されていたから身動きが取れなかった部分はあるだろう。

「ステフ……ありがとう」
「いいえ、アドリアーナ。あなたも無事で良かったわ」

 アドリアーナ姫はステファニア姫に向き直ると、手を取って再会を喜び合う。

「ザディアスは……王城にいないと?」

 その横では、女官から報告を受けたエベルバート王が眉を顰めていた。

「学連に向かうと仰っていたそうです。夕刻のステファニア殿下を歓迎する晩餐の席にて、是非ステファニア殿下に披露したいものがあると」
「……そうか。予定より早く治療が終わったゆえ、そちらもステファニア姫を歓待するために早めに王城へ戻るようにと伝えよ」
「はっ」

 すぐさま戻るようにとまで言えないのは、ザディアスに警戒させてしまうからだろう。
 ……ステファニア姫に見せたいものね。危険を察して口実として抜け出したのでなければ……何かしらの研究成果でも見せようと言うつもりだろうか。
 奴の性格から考えると――俺の演武に対する返礼として、晩餐の席で何かしら自分の武威を示せる物を見せつけようという腹かも知れない。晩餐の席に呼ばれた諸侯に対しての示威にもなるからだ。

 ともあれ事態は動き出した。
 敵側の戦力としてはザディアスと学長ヴォルハイム。それに黒騎士連中といったところか。魔法研究の産物だとか協力する魔人などがいる可能性を含めて色々と想定しているが……さて。
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