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番外1885 氷爪イェルダ

 人の形質が多く出ているイェルダは、耳と尻尾の部分に獣人氏族の特徴が良く出ている、シーラと同じタイプだ。

 白黒の豹柄斑点模様。丸みを帯びた三角の耳と太く長い尻尾が特徴的だな。


「儂やイェルダに限らず猫科で猛獣と呼ばれる獣人は武闘派氏族として分類されているが……猫獣人は得手不得手に個人差があって割とまちまちでな」


 イグナード王が教えてくれる。


「今司会進行役を担っている猫氏族の文官の方も、というわけですか」

「そうですな。シーラ殿は実力的にエインフェウスの基準で言うなら武闘派ということになりますが」

「ん。私はどっちかというと本業は前衛ではないけれど、高く評価してもらえるのは嬉しい」


 シーラがウラシールの言葉にふんふんと頷いて応じる。

 そうだな。シーラの場合は……そもそも本業がシーフやスカウトということになるし、魔法の武器防具も併用しての戦い方だから、エインフェウスにおける純然たる武闘派とは少し違うのだが……俊敏で器用、反射神経や五感が並外れている上に闘気も併用する等々、軽戦士として見た時にその実力も相当なものというのは間違いない。


 まあ、同じ猫の獣人でもあまり戦いに才能を示さないものがいる、というわけだ。


 イェルダの場合は氏族もそうだし後半戦に出ている事から、武闘派に属すると見られているのが分かる。人の形質が多く出ているタイプだが、さて。獣人度の高い面々と違って爪撃は使えないだろうが無手で闘気や魔力を併用して、どれほどの実力を発揮するのかは気になるところだ。


 俺の場合、初見で実力を見る基準は立ち居振る舞いの隙の無さ、生命力や魔力反応からなる闘気や魔力の研鑽具合であって、戦い方や相性といったものまでは分からない。重心の置き方、身体の構造や作り方で察しが付く場合もないわけではないが。


 対するは鷹の獣人。こちらは獣の形質が強く出た鳥人といった風体だ。ハーピー族の男衆に近いが、あちらはハーピーの女衆の鳥部分を逆転させたような姿なのに対し、獣人度の高い鳥獣人はほぼ鳥だが腕の形が違うという特徴を持っているな。


 頭部は鳥。腕と鳥の羽根が一体化。二足歩行に更に適した鉤爪の足。身体を覆う羽毛や尾羽……といった具合だ。翼腕に関しては飾りではなく、翼と手、両方の役割をしっかり果たす。飛べるし物を掴んだり道具を用いたりといった事も問題なくできるというわけだ。


 イグナード王と氏族長の話からすると、やはり羽弾あたりを使ってくるのだろうか。



 そうして話をしつつ舞台上にやってきた二人を観察している内に準備もできたようだ。

 両者は四肢に闘気や魔力を纏い、戦意も十二分といった様子である。向かい合い、ピリピリとした緊張感を纏いながら、互いの様子を油断なく窺う。


「それでは第二試合……始めッ!」


 そうして――文官が試合の始まりを伝え、イグナード王が合図を送ると銅鑼の音と共に試合が始まったのであった。


 突っかけたのはイェルダ。一足飛びに凄まじい速度で間合いを潰すその動きは、相当な脚力を有しているのが分かる。寸前で飛び退るように上空に舞ったのは鳥獣人ヴァルルーガだ。闘気を纏った掌をまるで爪撃のように振るうイェルダ。空を切ったその軌跡に、煌めきが残る。


 前評判に聞いていた通りだ。イェルダ個人の魔力資質を闘気術や格闘術に混ぜた独自の技を使うという。軌跡から魔力反応。その正体は――。


「低温――」

「氷か……?」


 イルムヒルトが興味深そうに目を見開き、エリオットも顎に手をやって呟く。その正体はイルムヒルトの温度感知能力やエリオットの経験が看破した。煌めきは低温で空気中の水分が凝固したものか。それともイェルダ自身が生み出した氷か。


「氷の技を使う、というのは確かに、色々と腑に落ちる点が多いですね」

「私のものより正統派でしょう。かなりの低温に見えます」


 アシュレイとエスナトゥーラもそんな風に言って納得したように頷き合っている。ユキヒョウか……。北方の出身で極地での活動に強い、という話だったな。確かに来歴からしてもそうした資質を備えているのはおかしな話ではない。


 エスナトゥーラの能力については……覚醒能力は一見氷や低温に見えるがその実はエネルギーを奪う、という特性だ。その結果として凍らせているように見えるだけで、能力の一端でしかない。


 だから、正統派の氷や低温の能力というのは確かにそうだ。


 そのイェルダと言えば――ヴァルルーガと機動戦を繰り広げていた。飛来するヴァルルーガに向かって地面すれすれを疾駆するように踏み込んでいき、すれ違いざまに爪撃を繰り出す。そう。爪撃だ。イェルダの指先には氷の爪が形成されていた。あれは戦いの中、自身の能力で作り出したもの。そして、後半戦ではああした術も反則とはならない。


 対するヴァルルーガの武器は……やはり翼弾と鉤爪だ。飛んでいる間、拳技が繰り出されることはあまり無いようではあるが、時折地面に降りて翼にも闘気を纏い、攻撃や防御に用いている。羽根一枚一枚が十分な威力を備えているのと同様、闘気を宿らせた翼は斬撃のような性質があるらしく、侮れない威力だ。翼弾とは比べ物にならない威力を秘めているのか、イェルダが防御のために展開する氷の盾や手甲に亀裂を刻んでいる。纏う氷を闘気併用で強化していなければ、肉まで裂ける威力ではないだろうか。


 両者共に機動力には自信があるのだろう。一瞬の交差で闘気のぶつかり合う火花を散らし、すぐさま反転して互いに向かって飛び込む。

 闘気を宿した羽の弾丸を撃ち込みながら飛来し、鉤爪や翼での攻撃を繰り出すヴァルルーガに対し、イェルダは一直線を踏み込んで氷の爪で羽弾を打ち落として切り結ぶ。


 ヒット&アウェイの戦いではあるが、ヴァルルーガの飛び道具もあって攻防の密度は非常に高い。変速射撃による同時着弾や同じ軌道の連射、位置予測による偏差射撃が混じっていて、ヴァルルーガの射撃能力もハイレベルであることが伺えるが……それら一つ一つにきっちりと対応しているのは動体視力や反射神経が優れているのか。


 遠距離で攻撃手段を持っているからと、ヴァルルーガが有利とは限らない。闘気を宿らせなければ有効打にならない以上、使えば使う程消耗するからだ。しかし、鳥は高空を飛ぶために生来寒さには強く、鳥獣人も同様の傾向がある。イェルダの低温も単純には通じない。そして、氷爪も展開し続けるには闘気ないし魔力を消耗するだろう。


 それでもお互い飛ばしているように見えるのは、持久戦を考えていないからか。ヴァルルーガは鳥獣人だから打たれ強いわけではないし、一方で翼の斬撃がまともに決まればそれで勝負が決まってしまうだけの殺傷力を秘めている。

 であれば実力や戦術。或いはちょっとしたミス。そういったものが勝敗を分ける事になるか。


 遠距離戦では埒が明かないと判断したのか。ヴァルルーガの動きが少し変わる。疾駆するイェルダと並走するように飛行し、翼と鉤爪を以って切り結ぶ展開となった。


 弾け飛ぶ干渉の火花と氷の欠片。煌めきの中で細かな衝突が幾度も起こる。互いに動き回りながらの高速の攻防。瞬き一つの間に幾度もの攻撃を交える。至近戦でも翼弾が飛び交い、氷を纏っていない部位、目といった箇所に向かって放たれる。それを回避し、受けながらも踏み込んで爪撃を繰り出す。


 一見激戦。しかしイェルダの動きは――果敢に攻め込んでいるように見えて、その実防御に主眼を置いているように見える。常に安全マージンを残しながらも突っかけているように見せかけているというのか。であるなら何か……狙いがある、か?


 突き込まれる鉤爪の一撃を展開した氷の手甲で受け止める。イェルダの空いた腕に煌めく凍気が宿った。


「むっ!?」


 ヴァルルーガが警戒の声を漏らし、舞い上がる。しかし離脱しきるそれよりも速く――。


 掬い上げられるような一撃が、低温の波となって放たれていた。ここまでの戦いで、初めて見せた技。収束されておらず、威力は高くない。しかし範囲は広く、そして効果は劇的だった。


「何だと!?」


 ヴァルルーガの動きが崩れる。凍気の波を浴びた翼の一部が凍り付いて、舞い上がってからの方向転換がうまく出来ない。


「過冷却……!」


 初歩的な水魔法と過冷却の組み合わせ。冷やした水の礫を混ぜて一瞬で凍結させている。氷や低温への理解度が高い証明だろう。


 イェルダが大跳躍を見せた。一気にヴァルルーガのいる高度まで飛び上がって見せたかと思うと闘気の火花を散らす凄まじい威力の回し蹴りを見舞う。


「ぐ、おぉおっ!?」


 翼腕を交差させて闘気の集中による防御。しかし空中で踏ん張れるはずもなく、凍り付いた片翼で体勢を立て直せるわけもない。ほぼ水平にぶっ飛んだヴァルルーガは舞台から蹴り出され、結界壁に激突して地面に叩き落とされた。


「そこまで! 勝者イェルダ!」


 ほぼ舞台中央からの場外負け。いや、場外まで吹き飛ばなくてもあの蹴りを受けてしまっては戦闘続行も不可能だろう。生命反応に問題はないが、受けたダメージはかなり大きいのか、ヴァルルーガは治療を受けるまで立ち上がることが出来ずにいたのであった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] >「低温――」 >「氷か……?」 戦闘「旦那様、水瓶座は駄目ですからね」 てお「な、何も連想して無いってば」視線を合わせられない >闘気を宿した羽の弾丸 戦闘…
[良い点] 獣、対猫用秘密兵器猫じゃらしを先着十名様にプレゼントし烏賊焼きに変えていった
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