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番外1878 水晶に映る

 候補者達のお披露目が終わってからは暫くの間、楽師達が勇壮な音楽を奏でて歌姫もその歌声を響かせたりしていた。


 現在進行形で問答が続いているのだろう。

 その間は俺達もマウラから獣王継承戦にまつわる話を聞いたり、軽く食事をとったりしていた。獣王国の用意してくれた料理や飲み物、果物はどれも美味で、音楽も相まって始まるのを心待ちにしてはいたが焦れるということもなく、退屈もせずに時間は過ぎていったと思う。


「問答については詳しくお話できないのですが、獣王国の国内の諸問題に関する見識を問い、それに対する返答と候補者達のこれまでの行動と照らし合わせ、獣王たる資格があるのかを見極めるもの、と聞いています」

「中々大変そうね。行動を照らし合わせるということは、候補者達への調査もしている、ということになるのかしら?」


 アドリアーナ姫が尋ねると、マウラが首肯する。


「その通りです。これまでの実績、功績、行動を見定め、それがただ獣王になりたいがための見せかけではないのか。問答の内容と矛盾はないのかを探るわけですね。答える側は勿論、問いかける側、情報や報告をあげてくる側も大樹に宣誓を行い、真摯に臨む神聖なもの、ということですよ」

「契約魔法や誓約魔法に近しい効果もありそうですね」

「その辺については詳しく存じ上げないのですが、そのような何かもあるようですね。特定の人物を陥れようと不正を行った氏族長や関係者が見つかったことも過去にあります」


 なるほどな。してみると、ベルクフリッツは本当に最初から力や脅しといった恐怖によるもので獣王としての立場を簒奪するつもりだったわけだ。仙術を使った強化は強力なものだったから、絶対に不可能だったとは言わないが……ある程度進められたとしてもあちこちから候補者を含めた猛者達に反旗を翻され、多くの獣人氏族達から反発を受けるのは確実だろう。

 結局並行世界ではイングウェイが獣王になっていたわけだから、どこかで破綻して征伐されたのだろう。


 とはいえ、被害が大きくなる前にベルクフリッツを潰せて良かったというのは間違いない。動乱など国内外の誰も望んでいないからな。


 そうやって問答についての話をマウラとしていると、王城からイグナード王と氏族長達が連れ立ってやってくる。


「問答が終わったようですね。結果を伝えにいらっしゃったようです」

「候補者達に獣王の資格があるかどうか、ということですね」

「はい」


 マウラの言葉にグレイスが尋ねると、その言葉を首肯する。

 イグナード王達が歓声に迎えられ、舞台の上に立つ。声が収まるのを待ってから笑顔を見せた。


「まずは問答の結果を伝えよう! 此度の問答では資格を失う者は一人としていなかった……! これは、我が国とここに集まっている者達にとって、大変喜ばしいことと言えよう!」


 機嫌が良さそうなイグナード王である。そんな言葉に、応援に来ていた獣人達が大いに沸き立つ。

 獣王候補者達の評判、性格が見せかけのものではない、というのがはっきりしたわけだからな。氏族長達、問答に関わった面々の中にも獅子身中の虫はいないということでもある。


 イグナード王の治世が長く、平和が続いていたからな。緩みもそれなりにあったのだろうが、それもベルクフリッツの一件で内通していた者も失脚し、氏族長達も自身の身を引き締め直したところがあるようだ。


 資格を失う者がいなかったというのは……当事者である候補者達は勿論、イグナード王と氏族長達、それに応援や見定めのために集まった国民達にとっても朗報と言えるだろう。


 同盟や……継承戦を見学にきた俺達にとってもだな。誰が獣王となったとしてもいずれも人格者。エインフェウスの未来は明るく、これから始まる継承戦自体も見所のあるものになりそうだ。


「では、これより試合の組み合わせを決定していくとしよう。素晴らしい戦いになることを願っている」


 イグナード王が観客達の反応を見て表情を綻ばせてそう言って。舞台の上に大きな水晶が運ばれてくる。起動した後に触れることで絵柄が映し出される魔道具ということだ。


「試合を決める方法にしても何か盛り上がりのある演出を、ということで何代か前に導入された魔道具と聞いています。仕組み自体は簡単ですが、契約魔法等で防護はきっちりしているそうですよ」


 そうマウラの解説が入る。楽師達が場を盛り上げ、観客達も沸き立っているな。イグナード王が魔道具を起動し、候補者の内一人が、促されて水晶に触れに行く。


 まずは非戦闘型の氏族の候補者達から順番に水晶に触れていく。すると……水晶柱が輝きを放ち、内部に翼を広げた大鷲の映像が浮かび上がる。


「ああして、浮かび上がった獣によって組み合わせを決めるそうです。起動させる時に人数等を設定し、その後に触れていくことで同じ獣が出ると組み合わせが決まるという仕組みになっています。どの順番で戦うかも、同じ獣が先に出た順に戦い、そこからは1戦目と2戦目、3戦目と4戦目の勝ち残り同士が……という形になりますね」

「良いですね。祭典としての側面を考えるとかなり盛り上がりそうです」


 ああした躍動感のある動物の絵柄は、戦いの期待感を盛り上げるのにも一役買っているのではないだろうか。

 俺の感想にマウラは嬉しそうに尻尾を振りながら頷いていた。


 ともあれ、最初は非戦闘型の氏族からということで、候補者達は順番に水晶に触れて絵柄を映し出していく。熊、大鹿、鰐、鼬……と様々な絵柄があるようだが、どれも迫力や躍動感のある映像だ。


「ん。ちなみに、参加人数が奇数の場合は?」

「その時は、同じ獣が3人に割り当てられて表示されるそうです。その3人で改めて魔道具を用いて、一人が2回戦目で当たる形に決めるわけですね」


 幸運ならシードになる、というわけか。その辺りで有利不利が出ないよう、一試合が終わるたびに候補者達の体力や魔力は術式やポーションで全快にしてもらうという話だ。


「体力と怪我の回復もそうですが、候補者同士では他の方々の戦いを見ることもできません。組み合わせで早い段階で強豪同士が当たると、どうしても戦い方や手札を見せなくてはならなくなりますから」

「なるほど……」


 初見殺しで勝ち進む戦法も有効、ということか。とはいえ、実戦を想定するなら戦場では初見同士の戦いになるというのは至って普通のことだ。

 正面切っての一対一の戦い。術理を以って放たれた技であるならば、不意を衝かれたり対応できない方が悪いとも言える。


 消耗を考える必要もなく、出し惜しみをする必要もない、ということでもあるな。一戦一戦に全力を以って望むことができるというわけだ。


 その内に同じ絵柄も映し出されて、最初の組み合わせが決まる瞬間がやってきた。観客が沸き立ち、決まった候補者達もお互いへと視線を向けて、それぞれに気合を入れ直しているようだ。闘気や魔力をそれぞれに纏い、戦意も十分といった様子である。


 一人一人組み合わせが決まっていく。非戦闘型の氏族の組み合わせが決まると、続いてはイングウェイ達の戦闘型氏族の番だ。


 改めてイグナード王が魔道具を起動し直して参加人数の設定を行ったのだろう。そこから順番に抽選が行われていく。


 イングウェイも水晶に触れて……狼の絵柄を出していた。


「自分の氏族と同じ絵柄とは幸先の良い事です」


 笑って拳に闘気を宿しているイングウェイであるが……既に狼の絵柄を出している候補者が先にいる。これで戦闘型氏族のトーナメントにおける第1戦目はイングウェイということで決まりだ。


「さて。これで武闘派氏族では栄えある緒戦ということになるのですな。よろしくお願いしますぞ」

「こちらこそ、イングウェイ殿。これぞ武門に生きる者としての花道よ」


 イングウェイも緒戦の候補者――大柄な熊獣人の候補者と視線が合うと、そう言って互いに不敵に笑う。

 反応を見る限りでは気負い過ぎず戦意も十分といった様子だ。ここまででは、俺が注目している面々はばらばらの獣を引いている。とりあえず一回戦での激突はなさそうではあるが、どんな順番になるにせよ勝ち上がればぶつかり合うことになるだろう。……さて。どうなることか。

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[一言] >動乱など国内外の誰も望んでいないからな ロイ、ザディアス、カハール、オーガスト、ベルクフリッツ、ショウエン、ディアドーラマスティエル、ザナエルク、アダルベルト、ゼノビア、ベルムレクス、マス…
[良い点] しかし獣省かれ選出外
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