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番外1877 理念と共に

「普段は森都においてドルイドとして働き、ウラシール様の補佐をしております、フォリムと申します。初めてお目にかかる方々は、どうぞよろしくお願いしますね」


 フォリムがそう言ってにこやかに挨拶をすると大きな拍手が起こった。


 彼女については普段王都とその近辺で働いているそうな。エルフのドルイドということで精霊の感応能力を使って木々の管理を行っているわけだな。

 エルフの例で言うと、アウリアの場合は純精霊使いの術師。フォリムの場合は精霊術をベースにしたドルイドなので同じ精霊に関わるエルフの術師でも保有する技術体系が違う。


 ドルイドも精霊との感応、交信を行う事が多い職ではあるのだが、これは森での戦いや自然を維持、保護する力に特化している。アウリアの場合は満遍なくどんな状況にも対応できるジェネラリスト。

 ドルイドは森林内部での活動に特化したスペシャリスト、といったところか。その上で近接戦闘もいけるということなので、ドルイドが神官や僧系統ということを踏まえれば神官戦士や僧兵に近い存在だと言えよう。


「ウラシール様の補佐……つまりエルフ族においては氏族長に次いでの立場でもあります。ドルイドでありますが、武芸もしっかりと修めていますよ。勿論、そうした戦いの技術もエルフやドルイドとしての力に上乗せしたもの、ということだそうです」

「ん。中々多芸」


 マウラの説明にシーラが頷く。


「ドルイドはエインフェウスの都やそこに住まう人々にとってはかなり重要な仕事になるのでしょうね」

「はい。森の木々の管理は王都の住環境や衛生環境、食糧生産等にも直結していますから」


 マウラが俺の言葉を首肯する。

 こうした、エインフェウスの森林一体型の都市に最低一人はドルイドが配置されているということだ。

 精霊と交信し魔力を与えることで継続的な木々の修復や植物育成促進、土作りに水や空気の浄化、降雨等々が可能だ。また、精霊と普段から交信している関係で彼らとの仲も良いので、森の異変にいち早く気付く事ができる。精霊の方から異常を伝えてきたりしてくれることを期待できる。


 その異常というのも精霊達の視点で問題となる事情への異常限定のものではあるが、精霊が異常を察知するほどというのは大事になるケースが多い。限定的ではあるが結果的に国防や災害対策としての役割も一部果たせる、ということになるだろう。


 そんなフォリムは普段から細やかな仕事をしているそうで、エインフェウスの上層部からも信頼が厚いということだ。他の都市にいるドルイド達に対しても教導をするような立場なので、実質的にエインフェウスのドルイドのトップに立っている人物とみて間違いない。そんな重鎮のエルフが近接戦闘も修めているあたりがエインフェウスのお国柄という印象はあるが。


 そんなわけで人柄、行動からフォリムの王都での人気も高いのが観客達の反応から窺える。応援の声が氏族問わずあちこちから上がっていた。


 それから何人か間を置き、イェルダも舞台に姿を見せる。


「イェルダよ。北方の出身ではあるけれど、発掘や調査等であちこちに出向いているの。今日は……そうね。あちこちからあたしの知り合いの顔も見えるみたいだから、駆けつけてくれたことはとても嬉しく思っているわ。ありがとう、みんな」


 そう言って笑顔を見せるイェルダである。そんな反応に沸き立つ観客達。イェルダの応援団も多岐に渡る氏族が多いようだ。しかも出身地もばらけているあたり、イングウェイと同じくあちこちに出向いて信頼を得ている人物なようだな。


「イェルダさんはエインフェウスの中での最北の出身ですね。極地に非常に強く、極寒の地や北方山岳地帯で冒険者として活動しています。魔力溜まりや秘境の調査。危険な遺跡の探索。文献の解読等々……実力もありますが、学者肌の人物と耳にしています。その為、非戦闘員の氏族、冒険者、学者畑や魔術師の方々にも人気があり、幅広い人々から支持を受けていらっしゃいます」

「候補者としては中々異色に聞こえるわね。冒険者活動をしている人物というのは、王を目指す気風という印象ではないけれど……」


 ローズマリーが少し意外そうな表情で言う。


「孤児たちの支援をしているのだと伺っていますよ。その為、学問や芸術関連に理解を示し、教育や後進の育成に熱心なのだとか。そういう点ではやはり国を良くしたいという志のある方というわけですね」

「なるほど……。そういうことならば理解できるわ」

「獣王や国の重鎮を目指す理由があるというわけね」


 マウラの返答に、ローズマリーやクラウディアは納得したというように頷いた。

 そして……俺の注目している面々の中では、最後にイングウェイが舞台上に現れる。こちらも盛大な歓声に迎えられており、こちらも幅広い層に受け入れられて人気があることが伺える。


「イングウェイと申します。こうして温かな歓声で迎えていただけることを、嬉しく思います」


 そう言ってイングウェイは丁寧に一礼する。


「イングウェイ殿! お久しぶりです!」

「イングウェイさーん! 応援してますよー!」


 他の候補者を応援していた面々からもそういった声がかかっているな。エインフェウス全域を遍歴して人助けと武者修行の旅をしていたイングウェイならではのみんなの反応と言えるだろう。


 俺達も拍手して迎えると、イングウェイも笑顔を見せていた。


 老若男女、氏族問わずの人気があるようで。この辺はイングウェイの人望の厚さが窺える。


「他の候補者の応援に駆け付けている面々もああした反応をしたということは、他の候補者の方々ともイングウェイさんが知り合いということになりますか」

「そうですね。今日来ている候補者の内何人かは、イングウェイさんとも面識がありますし、獣王継承戦での再会を約束したとも聞いておりますよ」


 なるほどな……。


「武者修行の旅なら、各地の実力者と会っているのも納得ね」

「うん。人助けや魔物退治もしながらの旅だったみたいだし。観客の反応も見る限り、他の候補者と共闘したりもしたんじゃないかな」


 イルムヒルトの言葉に頷く。

 イングウェイ自身はあまり功績や武勇伝を自ら誇るようなタイプでもないからな。獣王を目指して武者修行の旅をした、というようにしか語ってはいないが……まあその辺りの事情は気になるので機会があったら聞いてみたいところだ。


 そうしてイングウェイも挨拶と紹介を終えて、王城へと問答を行うために向かっていった。

 残った候補者達も一人一人舞台上にやってきて、続けて挨拶と紹介が進められていく。武闘派氏族だけでなく非戦闘員型の氏族も何人か参加しており……彼らもこの後試合をするのだろう。非戦闘型氏族は彼ら同士でのトーナメント戦という形になるそうな。


「あくまでも試合ですので、相手の殺害及び、目突き等の急所への攻撃は禁じられています。そうした攻撃を故意に行うと、卑劣な振る舞いという扱いで敗北し、欠格扱いになってしまいます。規則に基づいて戦闘の続行が不能と判断された場合や敗北を自ら認めた場合に勝敗が決します」


 故意かどうかは契約魔法で判断が行われるそうだ。非戦闘員型は魔法を使う者も多いのだが……非戦闘型の氏族同士の試合で魔法戦を行う場合、術式ではなく純粋な魔力弾による戦いという事になるそうである。戦闘型氏族の場合はそういった縛りもないそうだが。


「継承戦に出てくる方達は、みんな獣王国にとっては大事な方々ということですね」

「将来の重鎮ですからね……。規則による事故防止は大事なことかと」

「治癒術班もしっかり控えているようだから、安心ね」


 マウラの解説にアシュレイやエレナ、ロゼッタが頷く。

 正々堂々とした戦いということで、獣王継承戦は理念が大事、ということだな。

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[良い点] 月と交信し水晶を与えることで継続的なセーラーの修復や鉱石育成促進をする獣
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