表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2660/2811

番外1869 秋の森都

 一際大きな巨木と、その近くの湖。ほとりに建てられた城。あれがエインフェウスの森の都だ。

 湖のあたりは見通しも良い。近付くと旗を振って誘導している犬型の獣人兵の姿が見えた。旗と一緒に尻尾も大きく振られていたりする。歓迎してくれているのが目に見えるのは良い事だ。


 木々の合間からも多数の住民や王都を訪問してきている面々の姿が見える。様々な氏族の獣人達にエルフ、ドワーフと相変わらずバリエーションが豊かな国だ。

 耳と尻尾だけが獣型のシーラに近い感じの獣人から、もっと獣の要素が強い獣人、その中間ぐらいと、見た目にも賑やかだな。纏っている衣服等々、共通の文化様式が感じられる部分もあるが。


 ともあれ、木々の間に見える獣人達は笑顔でシリウス号に手を振ってきたりこちらを見上げて楽しそうに談笑していたりと、誘導の獣人兵以外の面々も歓迎してくれているようだ。武芸者風、武人風の面々が多いのはやはり、獣王継承戦の影響だろう。


 城の前の広場にも大きな舞台が組まれているな。あの場所で催しや試合を行うのだろう。


 そうした光景を傍目に眺めつつ獣人兵の誘導に従って更にシリウス号を進めていけば、イグナード王も近くの樹上に作られた広場に姿を見せる。


『飛行船から、この樹上に作った広場に降りてくることができるようにしてな』

『エインフェウス式の船着き場というわけですね』


 通信機でやりとりしてそちらに船を近づける。


 樹上の船着き場とは中々面白い。木組みの足場で樹上の広場を作り、飛行船から直接乗り降りできるようにしたというわけだ。

 そのまま飛行船の高度を降ろせば台座に着陸させて停泊中の魔力節約も可能、といった具合だな。城や転移門からの利便性も良好で、湖に面しているので眺めも結構なものだ。

 城前の舞台も船着き場から眺めることができるし、城からよりも近い位置で観戦や演説等ができそうだな。


 シリウス号を桟橋につけてタラップを降ろす。船が停止したのを見計らうようにイグナード王とシルヴァトリアの面々。それから何人かの氏族長が姿を見せてくれた。エルフの氏族長ウラシールを始め、前の訪問で知り合った顔触れもいるな。

 安全確認が終わったら早速みんなで船着き場に向かう。


「おお。よく来たな! まずは誕生日おめでとうといったところか」

「こんにちは。元気そうで何よりだわ」


 タラップを降りて顔を合わせるとにやっと笑って迎えてくれるイグナード王やアドリアーナ姫である。


「ありがとうございます。こうして温かく迎えていただけて、嬉しく思います」

「ご家族も皆も元気そうで喜ばしい事ですな。若木が育つのは素晴らしいことです」


 子供達を見て目を細めるウラシールや獣人の氏族長達。そんな氏族長達にも礼や再会、初対面の挨拶を伝えていく。それが終わったのを見計らってイグナード王が言った。


「では……まずは城に案内するとしようか。船着き場にも滞在用の設備を整えているが、やはり城の方が警備という面では優れているからな」

「よろしくお願いします」


 というわけでイグナード王達と共に城に移動する。着替え等の手荷物を城に預けておく、というわけだ。シリウス号からはアルファ達が顔を出して留守番を買って出てくれるとのことだ。


「ありがとう。じゃあ留守番を頼む。ずっと留守番っていうのもなんだし、交替で動けるようにしておこう」


 そう言うとアルファがにやりと笑い、アピラシア達もこくんと頷いた。


「ちなみに獣王継承戦前だからな。次代の候補者との接触には現状制限がある」

「テオドール様達は外部からのお客人ですし、我らとの問答の内容もご存じありませんからな。案内役と共に彼らに挨拶する程度なら問題ありませんぞ。城への立ち入りも制限中ですので呼ぶことはできませんが」


 イグナード王とウラシールが言う。


「なるほど。では、後で都の見学がてら彼らのところに顔を出してきます」

「そうですな。我らとしても同盟の重要性を重視しておりますので、次の世代とテオドール公の繋ぎがあるのは歓迎しておりますので」


 イングウェイ達に挨拶をしたければ後で俺達だけで挨拶に行く必要があるというわけだな。これは氏族長と候補者の問答があるので公正を期す必要があるからだろう。その気がなくても情報が漏れたり漏洩を疑われたりということもあるしな。


 とりあえずは挨拶だけでもしてこよう。もっとしっかりとした交流がしたければ継承戦が終わってからのんびり時間をとればいいだけなので。


「私達は部外者ではありませんが……候補者以外なら一先ず顔を合わせる事もできそうです」

「そうね。顔を見せてきましょう」

「そうだな。二人の知り合いには連絡を入れておいた。案内役のマウラにも伝えておいたから手間取ることはないだろう」


 オルディアとレギーナのやり取りにイグナード王が言うと二人は嬉しそうに笑って頷く。


 そんなわけで王城に到着すると、待ってくれていた案内役を紹介される。


「マウラと申します」


 そう挨拶してくるのは犬の特徴を持つ獣人の女官だ。獣の特徴が多いタイプだが……何というか、柴犬に似ているな。

 柔和そうな印象で、案内役に選ばれたのも納得である。


 マウラにこちらも挨拶をして、まずは城の部屋に案内してもらった。案内されたのは広々とした客室だ。寝台も大きくて、俺達の滞在を前提にした部屋のようだ。バルコニーもあって湖を一望することができる、眺めのいい部屋だった。


「良いお部屋ですね」

「調度品の趣味も良いね」


 イグナード王の趣味なのか獣王国の気風なのか。質実剛健でしっかりとした作りの家具が多い。派手さはないが、丁寧に作られているのが分かる。まあ、安心して使えるのは良い事だ。


 案内してきたマウラも俺達の反応が喜ばしいのか尻尾を大きく振っているな。

 そんなわけで手荷物を置いてから再び城のホールに戻ってくる。イグナード王がそこで待っていて、街を移動する際の護衛役も紹介してくれた。


 マウラと共に外出時のサポート役を担ってくれるというわけだ。護衛の武官達にも自己紹介や挨拶をしてから早速街中へ出発である。


 森の都は枝葉が広がっているので、空からは様子が見えにくいところはある。地上を歩いて移動することで見えてくるものもあるだろう。


 秋のエインフェウスは……高い巨木の葉が色付いていて、想像していた以上に見事なものだった。赤や黄色の色彩に彩られた天蓋が頭上に広がっていて、木漏れ日も差し込んできて綺麗なものだ。


 そして人通りもやはり多い。上空から見ただけでは分からなかったが木々の間にも樹上の橋や足場の上にも沢山の獣人やエルフ、ドワーフといった面々がいる。

 以前来た時よりも遥かに人が多いのは、やはり獣王継承戦を控えているからだろう。


 武芸の心得がありそうな物腰の面々が目立つが、行商や観光も多いようだ。あちこちで露店を開いていたり、旅人風の衣服を身に着けた者達が談笑していたり、賑やかなことになっているな。


 俺の訪問は事前に周知されているということで、俺達が街中を行くとあちこちから挨拶してきたり、子供達から手を振ったりしてもらえた。


 まず向かった先は――候補者達の継承戦中の宿舎だ。オルディアとレギーナの候補者以外の知り合いについては接触に制限がないから時間も使えるしな。


 さてさて。候補者達の滞在している宿舎は、王城から少し距離があるもののしっかりと管理されている場所らしい。


 一つ一つの宿舎が一本の樹に割り当てられており、樹上に家が作られているので、人の出入りを把握するのが容易。柵で囲われた敷地内外をエインフェウスの武官達がきっちりと警護している。獣王継承戦が可能な限り公正に行われるようにしているというわけだ。


 イングウェイを始めとした面々もここに滞在しているとのことで。では、挨拶をしてくるとしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 獣は、一見全身土竜その物だが実は歯と爪が土竜では無くてパチモンだ しかも二足歩行が素で石よりも魚貝類が好み
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ