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番外1861 送信塔の近況と伯爵家の迎え

「いやあ、収穫量も多くて嬉しい事です。米の調理方法や利用方法についても色々試してみましたが美味しい上に便利ですね……!」

「作る物も作り方も、今までになかったものなので自分達で上手くできるか不安はあったんですがね。お話を受けて良かった!」


 視察に向かった先の農民達が笑顔で迎え、稲作やノーブルリーフ農法について答えてくれた。


 米や稲の調理法、利用法については色々だが、まあ俺が思いついたり思い出せたりするものについては余さず伝えている。

 保存に関する話。精米の仕方。玄米と白米の栄養と味の違い。普通に煮炊きする方法から、餅や煎餅にする方法。ポン菓子、米粉の使い方。発酵食品と酒造等々……発酵と酒造に関しては、他にも準備が必要なのでまだまだといったところだが。


「お米を使った品々も領内では人の口伝てに噂が広まっていますね。まだ軌道に乗り始めたばかりで、領の外まで、とはいきませんが」


 アシュレイが現状についてそう話をする。


「麦と同じで、籾の状態だと長期間の保存がきくというのは素晴らしいわね。貯蔵しておけば、いざという時の備えにもなるし」

「そうだね。あまり年数が経つと味も落ちるけれど、それでも利用方法はあるし、そうなる前に古いものから処分していけばいい」


 ローズマリーと共にそんな風に言うと、視察という事で集まっている農民達も感心したように頷いていた。

 劣化を防ぐための貯蔵庫も、刻印術式や魔道具でその効果をかなり高める事ができる。低温にして温度と湿度を一定に保つことで保存状態が良くなり、カビや害虫の防除にもなる、と良い事づくめだ。刻印術式で環境を維持するのならローコストで済むという寸法である。


「収穫後の藁も小麦と同じように利用できますし、使い勝手が良いですね」


 ミシェルが資料や試供品を見ながら言った。

 飼料、肥料に建材、藁靴、草鞋(わらじ)に蓑や笠のような雨具や防寒具、日よけの品々。籠のような入れ物、藁縄……。いや……こうしてみると本当に利用方法が多いな。それだけ生活に密接していて使い勝手が良いから利用方法も多岐に渡ったのだろうけれど。


 これらは編み方等も含め、用途に応じて最適化されたものを迷宮核でシミュレートし、紙に図解と解説入りで纏めた上で、実際に編み上げた現物も用意している。まあ……編み上げたと言っても光球の術式と木魔法で成型して作っただけなのだが。


 ともあれ、蓑については雨具や防寒具として中々の効果だ。少し重量があって嵩張るから動きにくくはあるが保温や通気性にも優れているというのは利点だな。




 そんな調子で農民達と話をして稲作の現状やこれからの事について話をした後、シルン伯爵家に戻って過ごした。

 ケンネルも、アシュレイやエリオット、カミラ、ヴェルナーを迎えられて目に見えて上機嫌だった。


「いやあ……実に可愛らしい。エリオット様とカミラ様に似て、美丈夫に育って下さるかと」


 ヴェルナーを腕に抱かさせてもらい、表情がかなり緩んでいて。そんな姿にアシュレイやエリオット、カミラから穏やかな笑みを向けられているケンネルである。


 ケンネルは普段はかなり厳格な性格でもあるので、ああして表情を緩めたり、涙脆くなっているところを見せるのはこの場にいる面々に心を許しているからこそではあるな。ケンネルにしてみればヴェルナーは孫のような存在でもあるし。


 とまあ……そんな調子で伯爵家のリビングで談笑したり、先代シルン男爵夫妻の墓参りに出かけたりといった時間を過ごさせてもらった。


 シルン伯爵家の墓所は管理が行き届いていて綺麗なものだ。墓所の周りに小さな花も咲いていて、陽当たりの良い墓所は静謐ながらも穏やかな雰囲気がある。


「父上と母上にこうしてカミラとヴェルナーが健やかでいてくれる事が報告できる事を、嬉しく思っています」

「どうか私達を見守っていて下さいませ」


 エリオットとカミラが墓石越しに冥府に想いが届くようにと、語り掛けるようにして言う。エリオットの腕に抱かれたヴェルナーは安心しているのか、嬉しそうな声を上げてエリオットの顔に向かって手を伸ばし、父親の表情を綻ばせていた。


「想いもきちんと届いていると思うわ」


 というのは母さんの言葉だ。冥精でもある母さんが言うだけに説得力がある。

 アシュレイも目を細めて頷き……母さんの言葉が正しいというのを示すように墓所にも穏やかな魔力が広がっていた。

 穏やかな日差しと魔力の中で、俺達も先代シルン男爵夫妻の墓所に祈りを捧げたのであった。




 シルン伯爵家での滞在を終えて――俺達はケンネルやミシェル達、ノーブルリーフ達に見送られながらガートナー伯爵領に向かって出発する。


 シリウス号が浮上すると、ケンネル達は勿論、領民達も大きく手を振って見送ってくれる。オルトナが立ち上がって手を振ってくれる姿には頬が緩んでしまうところがあるが。

 みんなで甲板から手を振り返しつつ、ゆっくりと浮上して進んでいった。


 道中、魔力送信塔にも立ち寄るが、こちらも異常はなし、といったところだ。

 ヴェルドガルやシルヴァトリア、シルン伯爵領から派遣されてきた武官、月から派遣されている武官や人員が合同で警備に当たっているが、特に問題や軋轢もなく交流を深めている、とのことで。


「同盟各国の中から選ばれて任命された方々だけあって高潔な方々が多いですな。練度も高く、私どもも武人として身が引き締まる思いです」

「確かに。こうして送信塔の守りを任されることを光栄なことと思っていますよ。それに……シルン伯爵領に訪れる際も領民の皆さんが毎回温かく迎えて下さるので感謝しております」


 ヴェルドガル王国から派遣されている竜騎士や月から派遣されている武官が現状について教えてくれる。森の見回りや魔力溜まりの状況調査等々も協力してくれるとのことで、冒険者とも互いに好印象。シルン伯爵領でも助かっているという報告も受けている。


「ん。仲良くやってくれているみたいで良い事だね。俺達としても安心できる」

「ふふ。月と地上を結びつける象徴でもあるし、文字通りの架け橋でもあるものね。これからも期待しているわ」

「はっ……! 勿体ないお言葉に御座います!」


 俺の言葉にクラウディアがそう応じると……特に月の面々のテンションが非常に上がっていた。尊き姫君だからな。

 そうやって魔力送信塔にも立ち寄って現状について聞いたりしてから……シルン伯爵領からガートナー伯爵領間の森を移動していく。


 このあたりは何度も移動しているから、森林の間に伸びる街道を行き交う冒険者や行商人、狩人といった顔ぶれにも見覚えのある面々が多い。


 低空、低速で街道沿いに移動しているということもあり、近くまで行くとみんな手を振って見送ってくれる。操船席から水晶球を通して船体に干渉。光で合図を送って反応するとみんな一様に嬉しそうな反応を示していた。


「みんな良い反応ね」


 リュートを奏でながらイルムヒルトがモニターを見てそんな感想を口にする。

 空から見る森の紅葉も綺麗で天気も良く……長閑な旅である。そうやって移動していくと、やがてガートナー伯爵領の直轄地が見えてくる。


 母さんの家の前にはガートナー伯爵家の馬車が停まっていて、俺達の訪問を待っていた。

 シリウス号で近づいていくと武官達と共にダリルが顔を出して手を振って迎えてくれる。


「これは境界公。父の名代としてお迎えにあがりました」

「これはダリル卿。お二方もありがとうございます」


 ゆっくりと降下させてタラップを降りてからそんなやり取りを交わし……それからにかっと笑って見せると向こうも頷いて砕けた笑みを見せ、武官達も一礼して応じてくれた。

 さてさて。では、父さんのところに顔を出してくるとしよう。

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[良い点] 獣、葉っぱに合法ハッパを譲り受け窟を作り畜ペンを招き入れる
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