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番外1859 幼竜の旅路

 出発までの一泊という事でエリオット達も仮想街へ招待することとなった。フォレスタニア城内にある仮想訓練設備からも仮想街に入る事ができるので、宿泊しながらすぐに向かうことが出来る。


「あの街は良いわね……堪能させてもらっているわ」

「そうですね。各国の方々と、実に有意義な話が出来ます」


 廊下を歩きながらロゼッタとルシールは仮想街での出来事を語っていた。同業者と話をしたり、彼らが持ち込んだ資料を見ることで新しい知識や知見を得る事が出来るとのことで……それらの情報を血析鏡で実証して確かめるといったこともできるロゼッタ達としてはとても日々が充実しているそうだ。

知らなかった治療法。新しい薬草や薬。そういったものの知識を得られたと二人ともご満悦といった様子で色々語ってくれた。


「お二方がそこまで仰るとなると、楽しみになりますね」

「そうだね。私も今は領主としての立場があるが武人の端くれと自負している。他国の強者との交流は願ってもない」


 カミラの言葉に笑って答えるエリオットである。カミラもまた剣術に関しては中々の腕前であるからエリオットの言葉に楽しそうに頷いている。

 まあ、仮想街での訓練だと怪我の心配等もいらないからな。安全に模擬戦ができるというのはある。


 とはいえ、今日はのんびりと仮想街を案内して回る程度ではあるが。エリオットとカミラに関して言うなら、エントランスタワーへ行かずとも気軽にフォレスタニア城から仮想街に入っても良いから今後好きな時に活用してもらえたらといったところだ。


 エリオットとカミラはヴェルナーをあやしながらも風景や街並みを満喫していた。

 仮想街の利用者も何人か見かけている。何人かで連れ立って店を覗きにきており、自室カスタマイズ用の家具を物色して盛り上がっているようだ。

ドワーフとパペティア族だな。意気投合しているようで……本当に種族的に相性がいいというか話題が合うというか。まあ、ルーンガルドと魔界間の交流が進んでいるのは良い事だ。




 そんな調子でエリオット達を交えて仮想街を散策して回り……一夜が明ける。

 エリオット達も「執務から離れてゆっくり羽根を伸ばすことができました」とのことで、カミラ、ヴェルナーと親子仲睦まじい印象だ。


「エリオット兄様達はいつも仲が良さそうなので私としても嬉しいです」

「そうだね。アシュレイとしては思い入れもあるだろうし」


 そんなエリオット達を見てアシュレイもにこにこと上機嫌な様子で大変結構なことである。


「それを言うなら、私も境界公家の和気藹々とした様子を見るのは楽しいな」

「ふふ。奥方様達も姉妹のような距離感ですからね」

「ん。実際楽しい」


 エリオットとカミラの反応に、俺の背中から抱き着いてくるシーラである。うむ。

 頭の上に顎を乗せているような恰好のシーラに、俺も腕を上げてその髪をそっと撫でると耳と尻尾を反応させていて。こちらも機嫌が良さそうである。


 そんな調子で朝からみんなとハグしたりとスキンシップを行い……和やかな一日のスタートとなった。


 旅の準備はできているので、出発まではスムーズなものだ。

 今回は道中転移港を使わず、シリウス号に乗っての移動である。人化の術を使ったヴィンクルに色々見てもらうという目的もそうだし、のんびりと帰郷までの旅情を楽しもうというのもある。


「それでは、お帰りをお待ちしています」

「ああ。何かあったら遠慮しないで連絡を入れて欲しい。まあ……中継映像でも時々様子を見せてもらうけれど」


 エントランスタワーはまだ動き出して日が浅いしな。レドゲニオスやイグレット達も意欲的によくやってくれているからそこまで心配はしていないがサポートはしっかりとしてやりたい。


「はっ。皆も安心でしょう」


 そんな風にしてセシリアやゲオルグを始めとした城のみんなが見送りに出てくれる。


「行ってらっしゃいヴィンクルちゃん!」

「楽しんできて下さいね」

「ああ。行ってくる」


 ヴィンクルもユイやサティレスに笑顔で見送られているな。


「アルファも、ヴィンクル殿のことをよろしく頼む。と言ってもヴィンクル殿に限っては滅多なこともないだろうが」


 アルクスに言われて、にやりと口の端に牙を見せて頷くアルファである。

 そんな風にして俺達はみんなに見送られてフォレスタニア城を出発したのであった。




 リンドブルムに大型フロートポッドを造船所まで運んでもらい、シリウス号に載せたら点呼を取って出発だ。


「旅に出るには良い日和ね」


 母さんもシリウス号の甲板から空を見上げて笑みを見せる。程よく涼しく、かといって肌寒くもなく、爽やかな秋晴れといった日である。母さんもガートナー伯爵領の家に向かうという事で楽しみにしてくれているようで。


「秋らしくて良い日だね。空からなら紅葉も楽しめそうだし」

「そうねえ。道中も楽しみだわ」


 そんな話をしながらも点呼を終わらせ、シリウス号に乗り込んだら出発である。浮上してゆっくりとシルン伯爵領の方角に向かって進んでいく。

 予想通りというか。空から見た景色はあちこちに紅葉で色付いた森が見えて見事なものだった。


「本当、良い景色ですね」

「シリウス号で動いて良かったわ」


 そう言って盛り上がっているグレイスとイルムヒルトである。外部モニターを子供達にも見せたりして楽しそうだ。ヴィンクルも……そっとオリヴィアの頬を撫でたりしていた。


「……柔らかい」


 そんな風に言って、小さく微笑むヴィンクルである。グレイスもそんなヴィンクルの様子に穏やかな笑みを見せた。確かに、人化の術を使った方が子供達の柔らかさや温かさといったものを実感しやすいだろう。

 自分の鱗は堅いし鋭い部分もあるからと、ヴィンクルは子供達との触れ合いには積極的ではなかったようだ。人の身体での力加減にも慣れてきてようやく、といった様子なので、子供達の事を大切にしてくれているのだ。


 人化の術を使っていない時も尻尾の動きであやしたりはしてくれていたから、こうして触れ合えるようになったのはヴィンクルにとっても嬉しい事なのだろう。


 人化の術で新しくできるようになった事と言えば、歌もそうだ。イルムヒルトがリュートを奏で……ヴィンクルも交えてみんなで一緒に歌を歌ったりしながらシルン伯爵領へと向かって移動していく。


「歌も……人化の術じゃないとできない事だな」


 何らかの手ごたえを感じたのか、ヴィンクルはそう言って頷いたりしていた。イルムヒルトやクラウディアから発声の方法や音階を習ったりして。すぐに上達していたのは身体操作能力や感覚に優れているヴィンクルならではという気がする。


 そんなヴィンクルの様子を、水晶板の中継によってユイ達も楽しそうに見守っていた。


 そうしてシリウス号はシルン伯爵領に向かって進んでいく。やや遅めの速度でお茶や歌を楽しみながらも低空を飛行していくと……昼前には領地が見えてきた。


 領民達もシリウス号がやってくると大きく手を振って迎えてくれる。ケンネル達も気付いて顔を出してくれているな。

 シルン伯爵家の近くにシリウス号を停泊させると早速ケンネルやミシェルがやってくる。ミシェルの祖父、フリッツも顔を出しているな。


「おお。お待ちしておりましたぞ。時間も昼前ということでしたが良い頃合いですな」


 と、ケンネルが笑顔で出迎えてくれる。


「移動距離と速度から逆算して動いていますからね。空の旅なので何もなければ順調に到着するという次第です」

「なるほど。ささ、屋敷の中へどうぞ。昼食を用意してお待ちしておりました」


 では……まずは食事を楽しませてもらってからシルン伯爵領を見て回ったりして、のんびりと楽しませてもらう事にしよう。

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[良い点] 獣廊下の絨毯を受け身しながら進む
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