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番外1857 獣王国との縁

 ヴィンクルはと言えば、早速ユイ達とタームウィルズやフォレスタニアの街に出かけていた。街での散策や買い食いの他に、湖の上を飛行したり火精温泉や劇場に足を運んだりと、人の姿であちこちに足を延ばし、色々と体験を積んでいる。

 ユイにしてもヴィンクルにしても、見た目はまだ幼さが残るので二人だけで行動させるとトラブルを招く可能性もあるが、そこはそれ。


 シオン達同年代で既に関係者だと知られている面々、ラヴィーネ、コルリスやアンバーといった使い魔組やバロール、ティアーズといった面々を同行させたり、家紋入りの馬車を使ってもらう事で境界公家関連の人物と理解してもらえる。これで概ねのトラブルは避ける事ができるはずだ。

 幻術の魔道具で、少しだけ見た目も変えているし問題はあるまい。


「魔力があまり含まれていないものでも味付け次第で美味しい、と思う。そのあたりは気に入った」


 どうやら味の感じ方は大分違うらしい。ヴィンクルは屋台の串焼きを食べながらそんな風に言っていた。幻影劇場にしても人型の種族を基本対象として作られたものだから、五感全てでこれらを体験できるのは面白いし分析にも役立つ、とのことで。まあ、満喫しているようで何よりだ。


 迷宮中枢部に泊まり込みをしていた間の書類確認等の仕事もこなしていたが……泊まり込みも4日程の事であまり書類も溜まっておらず、これらも諸々順調だ。


 仮想街については……そうだな。こちらは動き出したばかりということもあり、各方面活気がある。

 講義室では教授達が講義を行って各国の講師、学徒がそれを聞きに来たり、会議室で研究者同士の議論を深めたり。

 職人達で交流して互いの技術を見せ合い、練兵場や水路での訓練も行われる等々……要人の警護が少なくなった分、同時にダイブできる人数も増え……色々な分野での交流が並行して進められているようだ。

 人が集まれば色々と問題も出てくるのだろうが、各方面盛り上がっていて滑り出しは上々といったところか。


 工房でも浮遊盾の完成度を高めたり、各国に配備するための仮想街の端末を増やしたりと色々作業を進めながら日々を過ごしていたが……夏も過ぎ、段々と秋の季節が深まってくる。


 季節が秋となると毎年俺の誕生日に合わせての里帰りを計画しているのだが……今年はその後に獣王継承戦も行われるという事で、イグナード王から招待も受けている。


『獣王継承戦は秋口で作物等の収穫が一段落し、憂いの無くなった頃合いで行われるというわけだな』


 通信室にてイグナード王と会話を交わす。エインフェウスはヴェルドガル王国より北の国だから、収穫時期もこちらより少し早いようだ。

 例年なら収穫後の祝い等が行われるので、それを兼ねているところもあるらしい。獣王継承戦に関わらない一般人は、継承の行方自体で盛り上がるというわけだ。


「収穫祭を兼ねてのものなら、エインフェウス国内はかなり盛り上がりそうですね」

『うむ。国民性というのか、触発されての非公式の武術大会もあちこちで行われるな。今年はテオドールや同盟各国の面々も招待されているから過去以上の盛り上がりが予想される。それに合わせて警備体制も増強しているから、同盟各国に対しては問題を起きないように対策もしているが』


 イグナード王が顎に手をやってそんな風に言った。


 なるほど。腕自慢も王都に集まってくるとなれば小さなトラブルは増えそうなものだが……これも例年のことなので事前対策しているというわけだ。


「私達も里帰りが楽しみです」


 オルディアとレギーナがにこにこしながらイグナード王に伝える。


『ふっふ。そうさな。獣王の座も継承されてしまえば行動の自由度も増える。引退後も楽しみにしておるよ』


 イグナード王はオルディアとレギーナに向けて、にかっとした笑みを見せる。他の獣王候補者達も獣王継承戦に向けて意欲的に活動していると、そう教えてくれた。


『イングウェイも有力候補ではあるが、見所のある者はまだまだ多い。誰が獣王の座を継承しようと、しっかりと後を継いでくれると思える者達でな』

「各部族長が推薦できると思える面々ですからね。立派な方々ばかりですよ」

「獣王に届かなかったという場合も、将来部族長に名を連ねるという方が多いのです。実際のところは合議制なので、将来に向けて見識や実力を示そうという者達も継承戦に名乗りを上げるわけですね」


 レギーナとオルディアが、イグナード王の言葉に補足をしてくれる。


「それは……将来のエインフェウスの重鎮達という事でもありますね」

『うむ。テオドール達に紹介できる日が楽しみだな』


 確かに。そこで面識を持っておくのはエインフェウスとの関係性を考えた場合でも大事なことだろう。してみるとベルクフリッツは……仮にあいつが当初考えていたようにイグナード王を排し、首尾よく獣王と名乗ったとしても国内を纏める事ができずに上手くいかなかっただろうな。


 過程はどうであれ、並行世界の俺が知る歴史でもイングウェイが獣王となっていたわけだし。だがまあ重要なのは過程……通常通りに獣王が継承されることだ。

 エインフェウス国内が乱れるようなことがなくて良かったと思う。イグナード王達が無事で良かったということもそうだし、北方の隣国が内乱状態になどなったら少なからずヴェルドガルにも混乱が波及するだろうから。


 そうなると以前までのエインフェウスは独自路線で進んでいて国交も少なかったし、混乱も相まって交渉等も捗らなかっただろうと予想されるな。


「その人達に会うのも楽しみね。私の領地は元々エインフェウスに近かったから、国交は少なくても接点は意外に多かったのよ」


 そう言って楽しそうに笑うのはステファニアだ。ヴェルドガル王国北方の土地を治めていたから、国境をエインフェウスに接していたわけだ。まあ、国境といっても魔力溜まりがあって開拓できない森が跨っていたりするから曖昧な部分もあるが。


 ともあれ、行商人や冒険者といった個人レベルでは交流もあったから、ステファニアとしてはエインフェウスの動向も気になるとのことで。

 そして今現在ステファニアの治めていた土地の領主となっているのがオルトランド伯爵ことエリオットだ。今後のエインフェウスとの関係を考えるなら招待した方が良いという事で、獣王継承戦にも賓客として呼ばれている。


 エベルバート王やアドリアーナ姫、レアンドル王といった面々も継承戦に招待されているな。隣国との関係重視の方針というか、これまでは独立独歩を旨としていたがそれも変わってきている、という事が良くわかる。


『確かに、知り合う前からエインフェウスでもステファニア王女の噂は耳にしていたな。朗らかで公明正大な姫君だという事で、こちらとしてはそういった人物が北方の国境を面した土地を治めていることに安堵していた部分がある』

「私個人としても大森林の暮らしには興味がありましたから。獣人族の行商人に巨木の上での生活はどういったものかと聞いて想像を巡らせたりしていましたので、そういった部分が伝わったのでしょうね」


 それも街角で行商人のところにやってきて買い物をしながらの話だったというからステファニアらしいというか。

 イグナード王もそんなステファニアと俺が行動を共にしていたから興味を持った部分が少なからずあったのだという。まあ……その流れでテスディロス達の事も耳にしたという事なのだろうが、ステファニアの普段の行動が今のエインフェウスやイグナード王との繋がっているのだと考えると良いことだな。

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[良い点] 獣行商人を腹筋で空に上げ値切り始める
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