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番外1856 人の身体と竜の分析

 いや、ヴィンクルの笑みは本当に印象が変わらないというか。まだ子供の見た目に反して鋭い犬歯が目立つ、自信のありそうな野性的な笑みだった。


 人化の術を使うのを視野に入れていたから衣服も用意している。術を使った時点でサティレスが幻影の服を着せたりしてくれていたので、こちらとしては助かったが……。


「ふふ。天幕の方へどうぞ。服も用意しているのです」

「ああ。人は服を着るんだったな。紛れるのに必要ならそうしよう」


 無頓着なのは案の定というか……にこにこと楽しそうなグレイス達に天幕の中に手を引かれていった。このまま天幕の中で着替えさせたり髪を結ったりするのだろう。


 その後少しの間天幕の中から「ふむ。これは何のためにあるのだ?」だとか「髪の毛もさらさらで綺麗ね」だとか「こっちの服も似合いますね!」といった、落ち着いたヴィンクルの声や和気藹々とした楽しそうな母さんやエレナの声が聞こえてくる。やがて天幕の中に張られた間仕切りも取られて、ヴィンクルが姿を見せた。


「おー……! ヴィンクルちゃん可愛い……!」


 そう言って楽しそうに飛びついているのはユイだ。元々仲が良かったということもあって物怖じしない。ヴィンクルもユイに飛びつかれても軽々受け止める身体能力だったりするから見た目通りの少女ではないというのがよくわかる。


「良くわからないが人化の姿も気に入ってもらえたのなら良いことだ」


 ヴィンクルが少し不思議そうに自分の姿を見ながら頷く。ヴィンクルの髪色は鱗と同じく煌めく白銀といった感じだ。光の加減によって色がやや違って見える金属的な光沢もあり、そこがまた神秘的な雰囲気を補強しているように思う。当人の性格的なものを合わせると、神秘的というよりは超然としている、といった方がしっくりくるが。


 鮮やかな群青色のワンピースを纏っているな。ヴィンクルの髪色を鱗の色から予想していたのか、合いそうな色の服を用意していたのだろう。

 サイズ調整もしやすい服を準備していたあたり、みんなも着せ替えを楽しみにしていたというのが窺える。長い髪にも揃いの色のリボンをつけたりしているが。


 女性陣もヴィンクルを思う存分着せ替えて満喫できたようでにこにことしていた。


「まあ……次からはこういった衣服も人化の術に組み込めばいいのだな。鱗を変化させればどうにかなるだろう」


 と、ヴィンクルはそんな風に言っている。それから納得したかのように頷くと、こちらに視線を向けてきた。


「鱗と言えば、そっちの古い方は何かの役に立つのなら使ってくれて構わない。解析されてしまうようなことになると少し危険性があるが」


 そう広間中央の古い鱗を指差して言う。水晶卵の欠片も古い鱗も高密度の魔力を宿しているので放置できるようなものではないから、既にティアーズ達が集めていたりはするが……。


「ん。そうだね。素材としては凄いものなんだろうけれど、その辺の危険性を考えると、ちょっと外には持ち出せないから活用法を考える必要があるかな」


 思いつくところでは……やはり平行世界干渉用の装置か。竜輪ウロボロスの素材は揃っているから、迷宮奥から持ち出されることのないもので、貴重な素材を必要とするものに使う、というのが良いと思う。


 ヴィンクルは……コルティエーラの器になっていたこともあって、星そのもの、世界そのものとの結びつきも強いしな。そのヴィンクルの鱗ということであれば、素材としても申し分ないだろう。


 ヴィンクルにも使い道についての話をすると「それは良い。上手く活用してくれ」と納得したのか静かに頷いていた。


 そんなわけで保管用のボックスを形成して呪法防御を施し、その中へとゴーレムとティアーズ達に運び込んでもらう。

 量自体はそれほど多くないので、程無くして回収も終わった。


「これは……フォレスタニアの宝物庫より、迷宮核の間で保管しておくのが良いかな」


 外に持ち出す必要もないものだしな。というわけで早速迷宮核の間に箱ごと運び込み、端の方に安置してからその周囲に指定して小規模な結界を張ったり、迷宮側で資源として自動回収したりしないように設定を行っておく。


 円形の光の柱が箱の周囲から立ち昇っているというのはファンタジーなオブジェというか……置いてある場所的にラストダンジョンの貴重なアイテム感がある宝箱感満載なものが出来上がってしまった。まあ、邪魔にはならないし、結界や箱の呪法防御も何かあった際に警報としての役割も果たす。一先ずはこれで良いだろう。




 そうしてみんなと共に天幕や設備を片付けてからフォレスタニア城に戻ってくる。


「おかえりなさいませ、旦那様」


 セシリア達から笑顔で迎えられる。ペルナスとインヴェル、ラスノーテやルベレンシアといった面々も待っていてヴィンクルと顔を合わせると温かく迎える。


「人化の術も見事なものですね」

「大した魔力だ。更に力強くなった」


 インヴェルとルベレンシアが言って、ラスノーテがにこにこしながらヴィンクルのところへ行く。

 ヴィンクルはこくんと頷き、ラスノーテの頭を撫でたりしていた。


「少しの間、この格好で活動してみるか。人の姿やその営みを知っておけば理解できることもあるはずだ」

「それじゃあ、そっちの姿で普段過ごすための部屋だとか、必要なものは手配しておくよ。不便に思う事や分からない事があったら、遠慮なく質問して欲しい」

「分かった。よろしく頼む」


 そう答えると、早速セシリアが頷いて手配に動いてくれる。

 ヴィンクルはと言えばセシリアを見送った後自分の身体やその感覚を確かめるというように、壁の装飾を指でなぞったり手足を曲げたかと思えばその場で軽く跳躍したり、視線を巡らせたりしていた。


「あまり力はないが、器用だ。それに……力を温存したまま動くのには向いているな」


 と、そんな風に人体についての分析をしているヴィンクルである。ヴィンクルの評はかなり的確だな。こういう分析能力の高さはラストガーディアン故だろう。

 ヴィンクルは……少しだけ楽しそうにしているから、純粋に任務を目的とした探求心だけ、というわけでも無さそうだな。


「器用さと持久力は確かに人型種族の優れている点だね。持久力は普段目立たないし、他種族と比較するには近い水準の種族が人化の術を使わないと実感しにくいと思うけれど」

「消耗、と回復……。効率、という言葉で良かったか。そのあたりが優れているんだろうな」


 と、ヴィンクルは単語を思い出しながらもそんな風に所感を述べる。

 持久力にしても竜ぐらいだと基礎的なスペックが違うから、竜達から見て人間が特段持久力に優れていると意識する場面も少ないとは思うが……ヴィンクルの場合は燃費の良さという観点から割とすぐに着目したようだ。


 ともあれ、竜の姿に誇りを持っているヴィンクルであるが、後学のために少し人化の術を使ったまま過ごしてみる、とのことだ。


 それを聞いて喜んだのはユイやラスノーテで、人の姿を取っている時でしかできないことを一緒に色々しようと話し合っているようであった。街中に出かけて屋台で買い物をするだとか他愛のないものではあったけれど。


 出かけて街の人達の営みを知るのも悪くないだろう。背中の翼も、タームウィルズやフォレスタニアの住民ならそれぐらいなら気にしない程度には慣れてしまっているので。


 ともあれヴィンクルに関しては脱皮も上手くいき、みんなも嬉しそうに迎えていて心配はいらなさそうだ。一先ずは泊まり込みで留守にしていた分、執務や工房、仮想街の仕事等を頑張っていくとしよう。

いつも応援して頂き、誠にありがとうございます!


5月25日、書籍版境界迷宮と異界の魔術師17巻を無事発売する事ができました!

こうして17巻をお届けする事ができて嬉しく思っております!


関係者各位の皆様、そして何より、読者の皆様の応援のお陰です! 改めて御礼申し上げます!


今回も各店舗の特典があります。詳細は活動報告にて告知しておりますので、そちらも合わせて楽しんで頂けたら幸いです!


今後もウェブ版、書籍版、コミック版共々頑張っていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します!

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[良い点] 獣、鱗の欠片でガリアンソード作成する
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