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番外1851 二日目の職人達

「良いものを見せてもらったね」

「魔王国の音楽も素敵ですね。物語性に富んだものが多くて引き込まれました」

「ん。歌声や演奏もすごかった」


 俺やグレイスの言葉にシーラがこくんと頷く。


「みんなの演奏を聴いていたら、私も歌いたくなってきたわ」

「あたしも……! うずうずしてきた」

「さっきの演出を見ていたら新しい案を思いついたのだけれど――」


 と、イルムヒルトとユスティア、ドミニクも随分と楽しそうだ。それを見てマルレーンや母さんもにこにことしているな。


 魔界の楽士達の公演の内容も、聴きごたえ、見ごたえたっぷりで大いに盛り上がった。叙述的な内容も歌詞に従って展開を見せる等、観劇のような楽しさがあった。


 歓迎の公演で盛り上がった後は、水中側の学園に場所を移して学者達の講義の場となった。


 浮石エレベーターに乗っての水中への移動もまた、盛り上がりを見せていた。大きく回転して向きを変えつつ水中を進むエレベーターは、ちょっとしたアトラクション的な楽しさもあるか。


 そうして広々とした講義室に移動し、そこで講師達の話を聞く。


 講義に際して、ルーンガルド側はペレスフォード学舎の講師や各国の学者達。魔界側はアルボス=スピエンタスやパペティア族、ケイブオッター族がそれぞれ担当をするようだ。


 そうして始まった講義であるが……歴史や文化に関する講義ということで堅いもの、専門的なものになるのかと思えばそんなことはない。

 今回は初回ということや専門的な学者以外も多数いるので誰にもわかりやすい軽妙なものを、というコンセプトだ。ルーンガルドと魔界間で調整した結果だな。


 そんなわけで始まった講義については、各地の有名な歴史を紹介しつつ、その裏にあった面白いエピソードを紹介したり、民話、伝承から見る文化といった話が主なものだった。


「私の祖母がまだ幼い頃、ヴェルドガル王国にて農作物が歴史的な不作になった年がありましてな」


 という話をするのはペレスフォード学舎の学長だ。柔和な雰囲気の人物で上に立つ立場ではあるが、学者としても優秀な人物らしい。


「時のヴェルドガル国王、オスニエル王は早期に民が飢える事のないようにと国庫の穀物を解放し、同時に迷宮からの大規模な食料調達を命じられました。奨励されたということもあり、騎士団、魔術師隊に治癒術師、冒険者達に至るまで混在した班が編成されて、連日中央前広場が賑わっていた光景が当時の記録として残っておりますな。祖母も懐かしそうに話をしてくれたものです」


 学長は懐かしそうにそんな話を語る。

 オスニエル王は他国の情勢、情報収集もしていて、飢餓からの混乱を避けるために周辺諸国にも食料を多く融通したという話だ。国内だけなら国庫の蓄えで凌ぐこともできたが、国外にも目を向けた場合を含めての迷宮からの食料調達の奨励だったというわけだ。


 どの国であれ民が飢えるのを見るのは忍びないという言葉を残しているが……そうした方針や治世もあってこそのヴェルドガル王国の長く続く平和だったのだろうと思う。オスニエル王は名君として語り継がれている王でもあるな。


 他の講義も建国にまつわる話や時代時代の有名な王や騎士の話。今の各国の文化に繋がる話と色々バリエーションに富んでいるが、他者に講義することに慣れている顔触れというのもあって、どの話も面白い。


 幻影劇場の題材にできそうな話や、グロウフォニカ王国のサンダリオ卿のように俺が関わった事件にまつわる人物のエピソードも出てきたりして、どの話も興味深く聞くことができた。

 合間合間での休憩の席でイルムヒルトやユスティア、ドミニクが魔王国の面々と歌を歌ったりしての、気軽で楽しい講義だ。

 ルーンガルドと魔界の間でも語られたエピソードについて質問をしたり幻影劇になっているという話が出て盛り上がったりして、交流の場としては実に良い形になっていると思う。


 そうして交流の場は進んでいった。色々な分野で活躍している学者や研究者でもあるから、この場は自己紹介と知己を得る場面でもある。


 ロゼッタやルシールも治癒術師と医者という自己紹介をしているので、魔王国や各国からやってきていた同業者達との知己を得ていた。


 こうして知己を得ておけば改めて日程を打ち合わせるなりして、仮想街で集まる日を決めて、情報交換や技術交流もできるというわけだ。

 現実側のエントランスホールには各国共通の文章が表示される伝言板も設けられているからな。これは公共用で、通信機を所有していなくても魔界側との待ち合わせを容易にするという用途だ。


 まあ、各国のダイブスポット増設が進めば、それらの施設にも待ち合わせのための伝言板を設ける事になるのだろう。公共用の通信機なので、仕組みとしてもこれまでに確立した技術の流用で良い。個人用ではないから悪用防止の契約魔法や諸注意等をきっちりしておく必要があるぐらいだ。


 まあ、そんなわけで今後の仮想街での交流は当事者達の間で進められていくことになるだろう。




 初日の交流が終わり、二日目、三日目と交流会も順調に進められる。二日目は職人と芸術関連、三日目は水路レースと武官関連といった具合でジャンルを変えながら推移していったが……まあ、参加した面々のテンションやモチベーションの高さは特筆すべきだろう。


 スキャンして一時的に外からの物品を持ち込むこともできるわけだが、ドワーフ達もパペティア族もそれぞれの好みに応じて色々な武器防具、装飾品に美術品、家具、身体パーツを仮想空間内でお披露目していた。


 実際職人の手によるもので、持ち込まれた作品はどれも見事なものだ。


「おお! こいつはでけえ剣だな!」

「装飾も見事ですが、まず武器としての完成度が高いように見えます」

「ギガス族用なのですよ。実用性なくして武器としては失格ですからね。耐久性も中々のものと自負していますよ」


 というやり取りはゴドロフ親方とエルハーム姫、パペティア族の武器職人の会話だ。


 職人としての腕を見せる部分は装飾の細かさもだが、そういった実用面でもそうだ。

 ドワーフの職人達は質実剛健で豪快な気質があるが、基本的に自身の技量を高めるのに対して種族的にストイックなので、装飾の細かさ、見事さも追究する傾向がある。要するに……パペティア族とは非常に気が合うということだ。


 ゴドロフ親方もビオラやエルハーム姫と共に作品を見せたりして、パペティア族と意気投合して盛り上がっている。

 エルハーム姫の打った曲刀もまた注目を集めているな。エルハーム姫の打つ武器はバハルザードの製法により、複雑に混ざり合ったような刃紋を持った強靭な刃が特徴だ。

 そういった品やヒタカから持ち込まれた太刀を見て大喜びしているドワーフとパペティア族、各国の職人達である。


 武器防具に魔道具といった実用品。実用性をさて置いて技巧を突き詰めた美術工芸品。そういった品々を見て、アルボスやミリアムもこの美術品はどこそこの流れを汲むもので、誰が何時作ったのか、といった解説をしてくれたりして、そうした解説も面白い。


 それぞれの国で独自に発展した技法に関する話も出ているし、相互に影響を受けたり技術を取り入れた作品も今後は出てくるのではないだろうか。


 シグリッタの描いた絵も中々高い評価をされていた。見たものを記憶することのできる能力と、絵を描く才能、色彩感覚はまた別のものだ。技術的な面でしっかり修練を積んで、色彩感覚も試行錯誤やきちんとした観察をしているからこそ記憶能力が活きると、そう評価されて物静かなシグリッタだが嬉しそうにしているのが見て取れるな。うむ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 獣も魔界にインスパイアされ超音波水晶振動テクノを模索している
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