番外1847 新たな仕事を
無事にエントランスタワーの機能確認も終わり、フォレスタニアのみんなからオープニングスタッフの志望を募ってみたところ、武官や文官、迷宮村や氏族の面々の中から何人かやってみたいと名乗り出てくれた。
志望してくれた面々にもタワーの意味や機能、想定される事案や懸念される事故等を確認してもらい一緒に対応マニュアルなどを練っていく。
オープニングスタッフが継続してエントランスタワーで働かなければならないというわけではないし、後進の事も考えなければならない。
マニュアルを作るのにはそういった理由がある。迷宮村の住民や氏族達がこうした仕事にやりがいを見出し、気に入ってくれるのであれば希望を聞いてそのまま継続して雇用という形で良いだろう。
城で働くのが楽しいという面々も一時的な手伝いを申し出てくれているので、そういった顔触れはそのまま城で働くということになるのだろうけれど。
エントランスタワーで働いてみたいと希望しているのは……オズグリーヴの隠れ里出身であるレドゲニオスとイグレットだ。城の外で働く経験も積んでみたいと希望していて、それぞれ保安員、受付の仕事をしてみてはどうかということで研修中である。
今は研修中というか施設内を一通り見て回り、説明を受けながら実際に機能を確かめてきたところだ。食堂で少し腰を落ち着けて休憩中である。
レドゲニオスとイグレットは……気心の知れた二人であるだけに、エントランスタワーでの連携も良いものになりそうであるが。
レドゲニオスの仕事はモニタールームで利用者のバイタルデータのチェック。それからいざ何か起きた時にティアーズ達と共に避難誘導等の対処に当たる事だ。
俺が見ている限りでもそうだし、ゲオルグ、ミハエラやセシリアといった後進の育成に当たっている面々からのレドゲニオスの評は、真面目で細かい事にも良く気付くというものだ。
実際、オズグリーヴの話でも隠れ里で過ごしていた頃のレドゲニオスは見張りや狩りといった地道な仕事も真面目にこなし、注意深いために窮地を未然に回避したということが何度かあったらしい。
バイタルデータや監視カメラを見てティール達やイグレットと連携しあって仕事をするには良い人材だな。
「中々責任重大な仕事ですね」
「オズグリーヴから聞いている話だと注意深くて見張りも得意だって聞いているから、この仕事を割り振ったけれど……普通の見張りとは少し勝手が違うところもあるかもね」
「慣れていけるように頑張ります」
レドゲニオスはモニタールームの使い方や機能を聞いて真剣な表情で頷いている。
行く行くはエントランスタワーの警備主任的な立ち位置になってもらえたらというところだな。とはいえ、モニターの監視自体はティアーズ達が常時張り付いて異常があればすぐに知らせるといった動きができるから、レドゲニオスがモニタールームに常駐している必要はない。
利用者に避難勧告を出す判断を出したり、実際の警備の動きがどうなっているかを把握して警備計画を立てたりといったところを目指して成長していってもらえればこちらとしても嬉しい。加えて、オズグリーヴの隠れ里の中でもある程度腕も立つ住民ということで、そういった人材がいてくれると契約魔法や結界での護りがあっても安心できるところがある。
イグレットの方は冷静で機転が利くという印象。この辺はやはりオズグリーヴも同意見らしい。解呪されて感情も豊かになってきたということもあり、人と関わる仕事がしてみたいとのことだ。
それに……イグレット自身は専門の術師とまではいかないまでも、治癒術に軽い適正がある事が分かっている。自身の適正から応急処置等の勉強もしているな。
もしもの場合にそうした人員がエントランスタワーにいてくれるというのは心強い。適正に関しては魔道具で補うという考え方もあるしな。
レドゲニオスとイグレットの仲もいいしな。同じ職場で働けるというのはお互い安心できる環境なのではないだろうか。
「受付や案内の仕事自体はやりやすいものですので、余裕が出てきたら応急処置に関する知識も更に深めていきたいものですね」
というのが受付と共に有事の際の救護役も担当するイグレットの感想だ。そうだな。医術に関する知識を増やしたり、診断用の魔道具を使いこなしたり。応急処置にしても色々やれる事はある。
「うん。イグレットにも期待している。ロゼッタやルシール先生も手が空いている時ならイグレットに講義や指導をしてみたいってさ」
「それは……光栄なことです。ご期待に応えられるよう頑張ります」
と、嬉しそうに微笑むイグレットである。
「そうなると、私が習った知識や技術もイグレットさんのお役に立ちそうですね」
アシュレイも明るい笑みを見せる。イグレットに魔力ソナーを覚えた時の話をしたりして、二人は和やかに話をしていた。
「お茶が入りましたよー」
そうしていると、ケンタウロス族のシリルがタワーの厨房で作った焼き菓子とお茶をカートに乗せて運んできてくれる。
「ん。ありがとう」
「いえいえ。新しい厨房も使いやすくて良いですね」
そう言って朗らかに笑うシリルである。
厨房の方でも迷宮村や氏族のみんながアピラシアの働き蜂やティアーズ、俺の作ったゴーレム達と共に食料を運び込んで目録を確認したり今日の昼食を作ったりと今も準備を進めてくれている。シリルも配膳を済ませたら一礼してクレアのところに戻っていった。
そうやって談笑しながらも茶を飲みつつ子供達をあやしたりと、みんなで一休みしていると、魔王国側から水晶板に連絡が入る。
『おお、皆様お揃いですな』
「ああ。今、研修を進めて一段落したから休んでいるところなんだ」
水晶板に顔を出したのはヤマブシタケ似のファンゴノイド族、ブレントである。
『歓談なさっておいででしたか』
「問題ないよ。仕事が一段落したところの休憩だし、顔触れが増えると賑やかで嬉しい」
そう応じるとグレイス達も頷き、アイオルトが嬉しそうな声を上げてブレントに手を伸ばそうとする。
ブレントも笑顔を見せてうんうんと頷いていた。ヤマブシタケ自体、白眉毛や白髭を生やした長老といった風情なのでブレントは子供達に受けが良いようで。オリヴィア達はお祖父さん達にも可愛がられているからな……。
ブレント当人の性格も穏やかで子供達の姿を見るのは好きだということから、そんな子供達の反応に表情を緩めている。
『いやはや。健やかに育っている子供達は良いものです。これを見た皆も喜びましょう』
ああ、知恵の樹に保存して一族で共有できるというわけだ。
「お陰様で元気に育ってくれています」
と、エーデルワイスをあやしながら応じるグレイスである。
そんな調子で世間話に花を咲かせつつも、ブレント達としても仕事があると思うので頃合いを見て用向きを尋ねてみた。
『おお。そうでした。魔王国からの第一陣となる方々の人選も無事に済みましてな。調整も問題なく、予定日と時間を合わせられますぞ』
そう言って名簿を水晶板越しに見せてくれるブレントである。
「それは良かったです。こちらも調整は問題なく進んでいますので、名簿をお見せしますね」
木魔法で紙を形成して情報を写し取ってから、俺達も仮想空間での交流第一陣に加わる面々の名簿をブレントに見せる。
名簿を見ながらもブレントはマジックサークルを展開して、手の甲あたりから小さなキノコを生やしていた。即席の記憶装置というかなんというか。専用の記憶領域を作って暗記し、後で知恵の樹なり紙に模写するなりするのだろう。何となく手の甲にメモを残すというような気軽さにも見えるが、精度は段違いだ。
「便利なものね……」
その様子を見てローズマリーが感心したように言う。
『種族特性ならでは、ですな。では、確かに名簿は受け取りました』
「はい。こちらの面々は当日を楽しみにしているそうです」
『魔界の皆もです。皆随分と気合が入っておりましたぞ』
「文化関係や職人関係者ですからね。パペティア族の皆さんもいますし」
パペティア族の種族的な方向性を考えるとそうもなるだろうというか。まあ、その他にもギガス族、インセクタス族、ディアボロス族にケイブオッター族、シュリンプル族と魔界の面々は種族も肩書きも豊富だ。
魔王国の賢者――アルボス=スピエンタスの名前もあって、ファンゴノイド族もアバターを駆使して参加する予定である。
ルーンガルド、魔界問わず、学者や芸術家、職人にとってはお祭りだな。有意義なものになりそうで俺としても楽しみだ。
いつも応援していただき、ありがとうございます!
6日にワクチン接種の予定がありますので、体調次第で8日の投稿は休止するかも知れません。
悪しからずご了承下さい。