番外1841 水道橋と古都
ポッドに収まっている現実世界の身体については、ロギやブルムウッド達と共に、ティアーズ達が警備をしてくれる。
仮想空間での影響は追加で色々調査している。仮想空間とフルダイブ型のVRは少し違うが、VRの場合は小さな子供達の場合でも健康上の影響はないと言われていたっけな。
まあ、VRは痛み止めやリハビリ等、医療用としても研究されていたからな。小さな子の臨床データもあるのも納得だ。
今回の仮想空間設備においては――フロートポッドに乗せたままダイブできるようにしてあるので、オリヴィア達も一緒である。警備の様子やバイタルデータも見られるので仮想空間内でも安心だ。
そんなわけでエントランスホールにて心なしか誇らしげに光る尻尾を揺らしているカドケウスと共に待っていると、次々とみんなが仮想空間内に接続してくる。
みんなもアバターということで少しずつ姿を変えてきているな。グレイスはエルフ耳にして……マルレーンはハーピー族が人化の術を使った時のような首や手首周りの羽毛を生やしたりといった具合だ。
「お待たせしました」
「アバターを作るのは、中々楽しいわね」
猫獣人らしき耳や尻尾を生やしたアシュレイと、人魚風の尻尾になっているイルムヒルトである。イルムヒルトは通行証によるエフェクトが発生して、少し宙に浮いた状態で移動している。マーメイドやネレイド達でも水中と変わらず陸上を移動できる仕様だな。イルムヒルトの場合人化の術の解除ができるから、ああして人魚風の尻尾にもできるという寸法だ。
「ん。体型はあんまり変えられなかったけれど、翼をつけられたのは面白い」
そういうシーラはディアボロス族風である。角、翼、尻尾を完備している。
「元から完全に存在していない部位を追加した場合は、感覚に影響が出ないように作ってあるからね。この場合は……翼を動かす時は魔道具を操作する時の感覚だと思う」
「納得。尻尾の方はちゃんと感覚がある」
そう言って翼を少しはためかせたり尻尾をぴくぴくと動かしたり、中々楽しそうにしているシーラである。
「関節部分を変えるだけでも違うものね」
というステファニアは関節部分を球体関節にして、パペティア族風にしている。カーラもそんな姿にうんうんと頷いたりしているな。
「変装も久しぶりね」
ローズマリーはいつぞやの占い師風……というかバハルザード風か。口元を薄いヴェールで覆いながらも機嫌良さそうにしている。
「ふふ。何となくマルレーンとお揃いになってしまったわね」
クラウディアは人化の術を使ったセイレーン風だ。確かに、今の人化ハーピー風のマルレーンと一緒になるとユスティアやドミニクを彷彿とさせるものがある。マルレーンはにこにこしながらクラウディアの隣で頷いているな。
エレナはまた毛色が違って……身体が少し霊体のように透けているというものだ。パルテニアラに合わせたもののようだな。
「この姿だと、通行証の力で浮くわけですね」
両手を広げて、自分の身体を見ながらもスカートの裾を軽く広げるように、くるりと回るエレナである。
「そっちの方がよりそれらしくなるからね」
他にもティールがフリッパーを鳥の翼風にしていたり……コルリスやアンバーが何やら炎や氷エフェクトを纏った精霊風になっていたりと、中々に見た目も賑やかなことになっている。
ラヴィーネはゴーレム風。金属質の体表になってメカニカルな狼といった風情である。
魔王国の面々も思い思いの格好で、メギアストラ女王は翼をフェアリー風の羽に変えて楽しそうにしている。
そんな調子でみんな思い思いにアバターを楽しんでいる様子が窺えた。
「では――みんな揃ったところで街中へ移動していきましょうか。何か問題がありましたら何時でも声をかけて下さい」
そう言うとみんなも頷き、エントランスホールから仮想街へと出る。ホールから直接水路に入って海中側に出る事もできるが、とりあえず陸上側から見ていくということで話も纏まっている。
エントランスホールは街の中心部から少し外れたところに建つ大きな塔だ。広々としたスロープ状の階段を下ると、そのまま仮想街の大通りに出る作りになっている。大通りから街の中心部に向かって真っすぐ視線を伸ばせば、そこが学園だ。
広々とした敷地の中心に一際大きな建物が聳え立っている。一番高い尖塔の突端部に青緑色に輝く巨大な水晶が陽光を受けて輝いており、相当目を引く建物なのは間違いないな。
塔周辺にリング状の構造物も存在していて、セオレムと魔王城を参考にしたような建築様式をしている。
まあ……その両者に届くほどの大きさではないが。セオレムもだが、魔王城も相当巨大な規模だからな。
「おお。これは見事な景観よな」
「学園も相当ですが街並みも壮麗ですな」
メギアストラ女王とボルケオールが言う。
ボルケオールに関して言うなら、ツバの広い帽子を被った老人風の姿をしているな。キノコの傘を魔術師の帽子風にしてみたといったところか。ルーンガルドの人と同じ姿を選ぶあたり、ファンゴノイド族にはパルテニアラへのリスペクトがあるのかも知れない。
ともあれ、柔和な雰囲気の老魔術師や老賢者といった装いはボルケオールに良く似合っている。
街並みと遠景は――今は基本形だ。タームウィルズの中心部風の、少し遺跡めいた建物が大通りの両脇を飾り、苔の生えた石畳や蔦の生い茂る柱やら、年月が経って風合いが増した装いの街並みとなっている。陸上の街並みには区画に沿うように水路も走っているが、大通りの場合は一段高い水道橋のような水路になっていて、海の民からしても見晴らしの街並みの風景を楽しむ事のできる構造になっているな。
「高いところを水路が走っているのは面白い構造ですね」
「確かに。陸上をああいうところから見るっていうのはあんまりないよな」
そんな風に言っているのは、水路の使い勝手を見て欲しいということでメギアストラ女王から依頼を受けてやってきたヴィジリスとリカリュスである。オービルと共にティールとの再会を喜び合っていたな。
ロヴィーサやキュテリアと共に水路側の感想を聞かせてくれるはずだ。
ちなみにヴィジリスは金属風の鎧を纏った騎士風。リカリュスは狐風の姿、オービルはイルカ風。ロヴィーサはペンギンの着ぐるみ風。キュテリアは脚部が普通の蛸からメンダコ風になっている。……どのアバターも似合っているというか、割合色々なパターンを試してもらっているな。
「では、私達はここから水路に」
「はい。使い勝手については忌憚のない意見を頂けると助かります」
「承知しましたぞ」
水道橋……というか水路橋にはエントランスタワーからのスロープを下りる前に入っていけるので、そちらへ向かうオービル達である。
というわけで、皆と共に仮想街観光である。
「んー。風情があっていいわね」
ステファニアは周囲を見回して楽しそうにしているな。
「中央区よりも少し古びた感じにはしているね」
街並みはタームウィルズ中央区をモデルにしているが、より観光というか散策に適するように古色蒼然とした風合いが出るようにしている。
実際の中央区は歴史こそ古いがタームウィルズ自体が栄えていてそこで人が生活しているし、迷宮側の影響も受けているからこんな風に蔦や苔等も生えておらず、それほど古めかしい印象はなかったりするのだ。
ともあれ、仮想街に関しては緑の中に色とりどりの花も咲いているので、散策していても変化に富んでいる。地上部分も水路部分も環境生物を用意していたりするので、小動物やカラフルな魚も街中で見かけることができるな。
では、このまま街並みを眺めつつ学園に向かって移動していくこととしよう。途中で遠景を切り替えるのも試してみたいところだ。
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