番外1834 祭典の上映
「皆さん盛り上がっていますね。楽しそうで良い事です」
「あ。エギールさん達がいますね」
通信室にて……ヴィオレーネをあやしながらも、グレイスが各地の様子を見て微笑みを浮かべる。アシュレイも水晶板の風景の中に顔見知りを見つけて言う。
「今日は非番かな?」
シルヴァトリアの魔法騎士達だな。エギール、フォルカ、グスタフの3人で、私服で酒杯を酌み交わしつつ乾杯といった様子だ。
エギール達に限らず……水晶板の中継映像で見る各地からの上映に対する反応は、上々と言えるだろう。
やはり同じように酒杯を酌み交わしつつ鑑賞している住民や冒険者達。その集まった人達相手に商売をしつつ水路レースも楽しんでいる商人達といった光景だ。
各地の会場周辺は既に熱気に包まれている様子であるが……俺達と同行した各国の面々も、現地での盛り上がりを見ているからな。上映を行う広場の周辺を確認し、人の流れや観戦できる場所をきちんと整備し、怪我人が出ないように色々と配慮していて、警備の人員もそれぞれきっちりついているのでこのあたりは抜かりもない。
他にも……そうだな。大都市に限らず、ユキノ達が暮らしている集落にも中継しているのだが、こちらはこちらで幽世の住民達と一緒にほのぼのとした鑑賞風景を見せてくれている。
集会所の縁側にみんなで腰かけて、集落の人々、幽世の住民問わず仲良く鑑賞といった様子だ。幽世の住民達は子煩悩な面々が多いということもあって、子供達を膝に乗せたり、背の小さい子を肩車して見やすくしてやったりといった事もしている。
カギリやテンドウは周囲に子供達が集まっているな。カギリは神秘的な雰囲気の容姿というか……そもそも神気を纏っているし、テンドウは見た目からして華がある武者姿なので集落の子供達からも人気が出ているようだ。
当人は幼い姿ではあるが周囲の子供達を微笑ましそうに正座しながら見ている姿は、良いお祖母さんといった佇まいに感じてしまう部分があるな。
大人達も幽世の住民達とレースの様子に盛り上がったりしていて、何はともあれ、幽世の住民達と集落の面々は大分打ち解けているのが見て取れて、俺としても喜ばしい。
水路レースの中継映像を一緒に鑑賞することで、更に仲良くなってくれれば何よりだ。
地底――ドルトエルム王国でも、王国民とブレスジェムが仲良く鑑賞していたりして、こちらも平和な様子だ。ドルトエルム王国の民は各々変わった形をしていてバリエーション豊かだが、その膝や肩の上にブレスジェムを乗せたりしていて、こちらも傍目から見て賑やかでほのぼのとした雰囲気だな。
レースの盛り上がりに合わせて縦横に形を変えるブレスジェム達である。
他にもカティアと寄り添って鑑賞するヘルフリート王子やヴィアムスと深みの魚人族の姿であるとか、一緒になってティールに歓声を送ってくれるギメル族とネシュフェル王国の人々の様子であるとか。色々なところで親睦を深めてくれている様子が確認できて喜ばしいことだ。
そんな各地の様子や反応を見て、みんなも目を細めている。
「こうしてあちこちで平和になったのを見られるのは、良い事ね」
ステファニアが言うとマルレーンがこくこくと首を縦に振る。
各地の様子については……氏族達も一緒に水晶板でそれらの様子を眺めて感慨深そうにしていた。一緒にあちこちで戦ったしな。こうしてその成果を見る事ができるということもあって、みんな感慨深いものがあるようだ。
「うむ。平和になったのなら良いことだ」
そう言って納得したように頷いているテスディロスである。
『今回の上映に関しては、ベシュメルクでもかなり喜ばれていますよ。ザナエルクが倒れて復興も進んでいますし、今まで閉鎖的だった分、こういう形での新しい娯楽というのは本当に物珍しいものがありますからね』
ガブリエラがそう言うと、メギアストラ女王が楽しそうに肩を震わせる。
『ふっふ。祭典がこうした交流や民達の心を安んずる事の一助になっているのなら、大変結構なことだな。ベシュメルクにもそう思われているのであるなら、魔王国としても喜ばしい』
ファンゴノイド族の知識にもパルテニアラが関わっているからか、メギアストラ女王は今のベシュメルクに対してもかなり好意的な部分があるな。ザナエルクが魔界に潜入することに成功していたらこういう関係にはならなかったとは思うが。
ともあれ、各地での上映は良い反応だ。特に中盤から後半。ティール、リカリュス、ヴィジリスの攻防が動き出すあたりからの観客の盛り上がりと来たら何処でもすごいもので……熱狂と呼ぶのに相応しい光景になっていた。
ティールとリカリュスとの技術戦、それからヴィジリスの大技……ティールの氷による救助。そしてラストスパートと。どんどんボルテージの上がる内容だけに各地からの中継映像の様子も相当なものになっていた。
観客達も声を上げ、文字通り手に汗を握っての応援だ。各地での盛り上がり方もすごい事になっているというか……まあ盛況で何よりだ。
「凄い盛り上がりだわ。あれは良い戦いだったものね」
「終盤は魔王国から見ても相当な内容だったようですからね」
クラウディアの言葉にお茶を淹れながら微笑むエレナである。
物珍しいから人も集まっているしな。こういった競技鑑賞のような娯楽は各地にもあるが、舞台が魔界というのが皆興味を引くし、初めて見る物珍しい競技で、ルーンガルドからも代表選手が行っている、ということ。そして期待に応えてくれるような競技内容と……まあ、盛り上がらないはずもない。
ゴールして結果が出ても選手達……特にティールやヴィジリス、リカリュスを称える声があちこちから唱和されるのも、魔王国での反応と同じだろうか。
そうした反応を見て、ティール本人は嬉しそうに首をくいくいと動かしながら声を上げているな。
仲間達が良い印象になれば嬉しい、とのことだ。
「ん……。そうだね。まあ、ティール達に面倒な事はないようにするよ」
そう言うとティールはこくこく頷いてお礼を言ってくる。
マギアペンギン達は存在を近年まで知られていなかったし、友好的な魔物種族ということもあって、フォレスタニア境界公家でも庇護している立場を取っているからな。ティールが有名になっても、きちんとその辺は対応していきたいところだ。
こうした友好的な種族との関係については、俺の身の周りの人……グレイスやイルムヒルト、迷宮村や氏族のみんなも含めて守る事に繋がるからな。スタンスを明確にすると共にきっちりやっていきたいと思っている。
当のマギアペンギン達はと言えばティールの活躍で盛り上がっているのを眺めて嬉しそうにしている。通信室回りに集まって各地の反応を見て嬉しそうに声を上げているな。ラヴィーネやべリウス。コルリスやアンバーといった動物組が肩や頭に雛達を乗せたりして、後ろからでもモニターを見えるようにしてやったりと中々通信室周辺も賑やかな事だ。
雛達に混ざるシャルロッテが感触を満喫して幸せそうな様子なのはいつもの事である。
そんな様子に少し笑いつつも、各国での上映はそうやって好評を博しつつも無事に進んでいくのであった。
さてさて。上映も問題なく進められたようだし、明日からは魔界側との仮想空間上の共有スペースを構築していく作業も行っていくとしよう。色々と魔界側からも要望をもらっているし、仮想の街を造るというのも楽しそうだからな。