番外1833 各地での上映を
――クシュガナでの後夜祭も終わり、地上部分の施設に一泊させてもらって。
明くる日から、のんびりと仕事をさせてもらった。
今日帰るゲストをタームウィルズまで見送っていったり、魔王都に一旦戻り、オービルと共に映像の編集をして上映用の内容を完成させたりといった具合だ。
「記録された映像は、幻影劇場でも素材に転用できそうだね」
「観客として見る映像の他にも、主観映像が自分の周囲で流れれば、選手当人の感覚を得られそうな気もしますね」
素材の利用法について思い当たったのだろう。グレイスが納得したというように笑顔を見せる。
「まあ、それも先の話かな。各国での上映を済ませて、しばらく間を置いてからの方が良いと思うし」
まずは通常の映像を見てもらって、周知してから発展形というわけだ。既に話題になっているからもう一度見たいという層や後から聞き及んだりした層の集客も見込める、という寸法だな。
「ただ……それで収益を上げるなら権利関係をしっかりしておかないといけないかな」
動きを劇場で見せてもいいのか、選手当人から許可を取った映像だけ使ったり、魔王国なりクシュガナなり協力してくれた選手なりにフィードバックしないといけないな。
そういった話もすると、オービルが笑みを見せる。
「それは素晴らしい構想ですな。上手く纏まればきっと皆喜ぶかと」
「そうですね。その辺はメギアストラ陛下や関係者の方々と協議して、追々進めていければと思います」
オービルに答える。
そうしてみんなとも話し合いをしながら映像編集をしたり実況や解説を付け加えて行ったりして、各国で上映するための映像が出来上がった。
客観映像から主観映像に繋ぐ事で状況を分かりやすくしつつ臨場感を盛り上げるだとか、構成も考えて色々と映像の見せ方、解説と実況等を工夫している。
メギアストラ女王も一緒に鑑賞し、映っていない方が良いもの等がないかの確認もしている。
「ん。いい出来」
「これなら上映の時もまた盛り上がってくれそうですね」
仕上がりを確認するとシーラがうんうんと頷き、アシュレイがにっこり笑う。うむ。
「ふむ。各国での上映準備も完了といったところか」
「そうですね。順次進めていきたいところです。各地の反応は気になると思うので、魔王都やクシュガナでもあちらからの中継映像を見られるようにしておきますよ」
「おお。それは面白そうだな」
メギアストラ女王に提案するとにかっとした笑顔を見せていた。
そうやって上映用の編集も終わり、俺達も魔王国に残っていた面々と共にルーンガルドへと戻る。各国の面々を王城や転移港まで見送りにいったりして、諸々が終わった後でヴィンクル達にも礼を言う。
「みんなも、お疲れ様。ヴィンクル達もだけど、氏族のみんなの護衛任務も無事に完遂だね。ありがとう」
そう言うと、ヴィンクルが声を上げて頷き、ユイも「どういたしまして!」と元気よく答え、テスディロス達も笑みを見せる。護衛、監視、防衛といった任務も無事に終わって何よりだ。
上映用に編集したデータは説明書と共に各国の面々に持っていってもらったからな。後は上映の様子を魔王国やクシュガナに中継させてもらうだけだ。
各国とも、より多くの人に鑑賞してもらうために日程などを告知してから上映する手筈になっているな。
まあ、準備が円滑に進むよう、説明書だけでなく水晶板で作業を見せてもらってナビゲートしたり、必要なら現地に転移港で移動して手伝わせてもらうというのが良いだろう。
同盟各国、国内各地での上映とその準備は、割合スムーズに進んだ。
魔界や魔王国についてはあちこちで周知はされていて……お互いに訪問もしてきたし、セリア女王の話等を幻影劇にしてきたから知名度も増えてきていたし、皆も興味があったのだろう。上映の日に合わせるように、大型水晶板の周辺に人が集まり賑わいを見せていた。
そうして……準備も進められ各々の国での上映は予定通りに行われていった。
時刻になり、上映が始まると広場に集まった面々が歓声を上げる。上映に際しては中継の時とは違って少し前置きがあった。
水路レースに先駆け、魔王国での水路の役割や文化といった部分についても歴史や説明が必要だと思った次第だ。
魔界の空や魔王都が映し出され魔界と魔王国についての説明が行われる。ナレーションはメギアストラ女王だな。
裏事情まで説明していないが、ルーンガルドと隣り合う世界でタームウィルズ大迷宮から接続していること。そこに魔王国がある事。魔王国の政治体制。自分がその魔王であることなどをメギアストラ女王は落ち着いた調子で説明してくれた。
魔王城や街並み……そこに生きる住民達。魔界の空を飛ぶ竜や地上を行くベヒモス母娘といった映像もナレーションに合わせて映し出されていく。
魔界竜達とベヒモス母娘は冒頭の魔界の説明をするので協力してもらえないかと打診してみたところ、みんな乗り気で手伝ってくれた。
魔界の空を飛んで咆哮を響かせる魔界竜達と、街道近くの森をバックに周囲を睥睨するアルディベラである。割とみんなノリノリというか、楽しそうに出演していたな。
まあ……必要以上に迫力ある映像になってしまったのは否めないが、これぐらいの方が魔界の実情を表していると言えるのかも知れない。実際、魔界の海や辺境は文字通りの人外魔境だしな。
そうやって魔界のことを説明していく中で、魔界の海の実情や危険地帯を避けるために地下に広がる水脈内部に都市を作っていること。水脈内部は安全なので物流の要にもなっていることなどをクシュガナや水路の映像と共にメギアストラ女王のナレーションが伝えていった。
『――そこには人々や物資を荷船に乗せて運ぶ者達がいる。魔王国の輸送や旅の安全を担う者達。水脈都市で行われるこの祭典は、彼らが互いに技術と速さを競い合うというもの。彼らの理念とこれまでの歩みを体現したもの、というわけだな』
メギアストラ女王の、凛とした静かな声が中継されている街に広がる。ルーンガルドでは馴染みのない景色、住民、文化に、観客達も静かに見入っている様子であった。
そうして、画面は祭典の当日の風景を映し出す。観覧席に並んだ俺達のことを伝えてから……メギアストラ女王のナレーションは祭典の様子を楽しんでほしいと結び、音声も当日の物に切り替わる。
俺やオービル、観覧席のみんなの映像と共にそれぞれの声も聞こえてくる。今回の実況と解説を行うということで、各地での俺達の顔を知っている面々は映像に俺やみんなが映ると声が上がる。
『うむ。テオドール達は人気があるな』
中継映像で現地の反応も見られるようにしているから、そんな反応を目にしたメギアストラ女王が楽しそうに笑う。一緒にその様子を鑑賞しているジオグランタ、ロギ、カーラやファンゴノイド族、ディアボロス族、ベヒモス母娘といった面々もその言葉に笑顔になったり頷いたりしていた。
さて。ナレーションをしていたメギアストラ女王当人も開会式の挨拶ということで画面に映る。人型の姿で登場したところで声が上がり、人化の術を解いたところで更なるどよめきが起こっていた。メギアストラ女王は人化の術を使っている時も美女だし、竜の姿に戻った時も威厳や神秘を感じてしまう姿をしているからな。
その挨拶の中でティールも紹介されるなどして。俺達と一緒にティールも各地を訪れているから、顔を知っている住民もいて、盛り上がっている様子であった。
開会式も終わり、俺とオービルの実況、解説と共に水路レースの様子が各地で放映されていく。編集もして、脚色はしていないが見所を多く、流れも分かりやすくしているので、上映を見た面々にも楽しんでもらえたら嬉しいな。