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番外1831 表彰と後夜祭

 表彰は下位から一人ずつ順番に名前を呼ばれる。10位からと表彰される数が多いのは、魔王国が多種族で構成されている国家だからだろうか。

 表彰台は3位までというのは俺の知る表彰式に近いものなので、感覚的には近しいものがある。


 下位ランクは敢闘賞ということで順番に名前を呼ばれ、メギアストラ女王から記念の水晶と言葉をもらう。

 表彰用の水晶についてはベシュメルクからファンゴノイド族を経由して受け継がれた文化という話だ。

 まあ、楯や杯、メダルのように何かしらのトロフィーを送って表彰するというのは、ルーンガルドでも昔からある文化ということだな。


「良くやった。今回はそなた達の祭典の様子を余すところまで見られて満足している」


 メギアストラ女王の労いの言葉と共に、どこそこでの攻防が見事だったと、一人一人声をかけていく。上位勢はしっかりとレース中の動きをチェックしているメギアストラ女王である。

 そうした言葉を受けた選手達は随分と感動している様子だった。メギアストラ女王がしっかりと見てくれて個別のコメントを用意してくれているというのは嬉しいものなのだろう。


「中継で途中の活躍も余すところなく見られるようになったし、選手の皆の更なる意欲向上にも繋がりそうね」

「それはありそうだ。メギアストラ陛下もしっかりと見ているし」


 イルムヒルトの言葉に頷きつつ、表彰式の行方を見守る。

 段々と上位陣の表彰に移り、4位の魚人族の選手まで進んでいく。言葉がかけられ、記念水晶が渡される度にクシュガナの人々から歓声が起こる。


 それから……表彰台の3人。


「リカリュスも見事なものだった。特に、終盤の技巧を凝らした攻防は今大会でも屈指の名場面と言えよう。他の者達にとっても刺激になったであろう」

「はっ。勿体ないお言葉です」


 畏まるリカリュスにメギアストラ女王は頷き、水晶を手ずから渡す。3位の水晶は敢闘賞の面々のものよりも大きく、魔力の輝きを内に宿したもので……中々貴重な品のようだ。


 拍手喝采を受けたリカリュスも少しはにかんだように笑って一礼する。


 それから……同着で1位となったティールとヴィジリス。


「二人とも本当に見事であった。いずれも最後まで譲らぬ気迫と、そこに至るまでの鍛錬、並々ならぬ物が窺える。ヴィジリスは気迫故に二度もの大技を繰り出し、ティールは技巧、体力、気迫、いずれも非常に高いものを見せてくれた。祭典の理念を再確認するという意味においても、有意義なものだったと言えよう。故に……そなた達の優勝をここに祝したいと思う」


 そう言って二人にそれぞれ水晶を手渡す。同着も想定して同じサイズの水晶も予備があるそうで。

 そうして大きな拍手喝采が響く中、ヴィジリスが一礼し、ティールもぺこりとお辞儀をしていた。

 メギアストラ女王から「水路の安全とそこを行く者達の更なる研鑽、魔王国の発展を願う」と口上が述べられ、そうして閉会式も進められていく。

 後夜祭では皆が楽しめるように酒や料理の準備もなされているそうだ。魔王都やクシュガナの人々も盛り上がっているな。


 そうしてティールも俺達のところに戻ってくる。

 水晶を片方のフリッパーで身体との間に挟むようにしながらも器用に泳いできて俺達のところまで来ると、お陰で優勝できたと、丁寧に礼を言ってくる。俺やロヴィーサ、キュテリア、マギアペンギンの仲間達と。訓練中世話になった面々に丁寧にお礼を言って回るティールである。


「うん。訓練も役に立ったみたいで良かった」


 そう答えると嬉しそうに声を上げるティールである。マギアペンギンや雛達に囲まれて喜びの声を上げあっているな。


 招待客は地上の面々の方が多いということで、クシュガナの地上部分に移動してそこで酒や料理が振舞われるとのことだ。

 今日の映像を振り返ったり、水脈都市各地の様子を見せてもらったりしながら楽しませてもらうとしよう。




「面白かったですね……!」

「本当にね。手に汗握るというか、思わず前のめりになって応援してしまうというか」


 顔を見合わせて微笑みあっているフラヴィア王妃とジョサイア王である。

 二人に限らず観覧していた面々にとっても楽しいものだったようで、あの場面が良かった、あそこでこうなっていればまた結果も違っていたかも知れないと、振り返りの映像を見ながら語り合っている。


 クシュガナの地上部分に場所を移しての宴会だ。


 大広間に宴の準備がされている。階段状になった大きなプールが会場の一角にあるあたり、地上と水脈、どちらの住民も楽しめるようにという配慮がなされているようだ。元々王都から一番近い水脈都市ということで、そうした設備もしっかり備わっているのだろう。


 地下水脈からもオービルを始めとした主だった面々、今大会で上位入賞を果たした選手達やその家族といった顔ぶれが顔を出している。

 こうして魔王と同席して宴会を楽しめるというのもまた、上位入賞者の特典だろうか。栄誉なことなのだろうし、メギアストラ女王が尊敬されているのだろうということも、彼らの反応から伝わってくる。


 楽士達が軽快な音楽を奏でているのは、振り返りの映像を流しているからというのもある。


 会場の雰囲気も暖まってきたところで、楽士達が奏でる音楽を変える。メギアストラ女王が壇上に上がると高らかな音色を奏で、そうして拍手と喝采で迎えられて宴会の始まりが宣言される。


「此度の祭典は新しい試みもなされ、招待選手の参加や賓客の観覧もあって非常に盛り上がったものとなった。魔王国やルーンガルドの各地でも放送されるとのことだが、これらの映像が地域の活力に寄与してくれるならば喜ばしいことだ。さて。後夜祭ということで、我らの今後の親善と発展に繋がっていくように、ささやかながら宴席を設けた。ここにいる者達だけでなく、この映像を見ている皆も、今宵は存分に飲み食いし、楽しんで行って欲しい」


 酒杯を掲げ、乾杯の音頭を取る。そうして本格的な宴が始まった。


 クシュガナや水路内から得られる食材としては外海から流れ込んでくるオキアミ――ストリームクリルの他にも魚介類などもある。

 オキアミについては割と沢山獲れるとのことで、料理法も色々あるらしい。茹でてスープの具にしたり、すり潰して練り物にしたり、素揚げにしたりといった具合だ。サラダに入っていたりもする。


 味も良いな。普通のオキアミは食べたことがないが……魔界のストリームクリルは旨味が強く、風味も上品で癖がない。


「ん。これは美味しい。気に入った」


 シーラもオキアミの入ったスープを口にして満足そうに頷いていた。耳と尻尾も反応しているな。魚介類関係では一家言あるシーラのお墨付きだ。


 勿論新鮮なものは生でも食べられるということで、ティールと共にマギアペンギン達も嬉しそうに山盛りのオキアミを口にしていた。

 ティール達によればルーンガルドのオキアミより美味しい、とのことだ。この辺、魔界産で魔力が濃厚だからかも知れない。


 同じことは他の食材にも言える。魔界産の食材は魔力が豊富で味が濃厚、風味も芳醇という印象が強い。その分だけ味付けを調整し、上品でくど過ぎないよう仕上げてあるな。


「今回饗された魔王国の料理については、ルーンガルドの料理も研究して、それに近づけられるよう調整もしていましてな」


 と、ボルケオールが教えてくれた。もてなすに当たっての準備をしてくれていたということだろう。

 そんなわけで楽士達の奏でる軽快な音楽と振り返りの映像、今の水脈都市や魔王都等の様子を楽しみつつ、みんなで料理と共に歓談しながら過ごさせてもらうのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 活けに練り物にスープにとオキアミづくしなんですがw
[良い点] 畜ペン狙っていた料理猫耳に奪われる(表彰式で出遅れた)
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