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番外1830 優勝の行方は

 それから程無くして観覧席にも伝令がやってくる。主審と副審達はこれから後続がゴールしてくるからまだジャッジ中ということで手が離せない。4位についたのは最後までティール達に食らいついていた魔界の魚人族だ。彼や後続達も水路駅やその周辺で浮かぶ観客達から大歓声で迎えられていた。


 さて。気になるティール達3人の順位についてだが……。


「――重ねてお伝えしますが主審から副審に至るまで、非常に判断が難しい、とのことです。結論としては先程お伝えした通りですが、魔道具でその瞬間を捉えているのならば確認をお願いしたいとも」

「分かった。では、見てみよう」


 主審、副審達共に、見解は同じだが非常に際どく、見極めがつかないという話であった。まあ……そうだな。本当に最後は団子になっていたし。


「では、映像を見てみましょう」


 現状を映しつつもリプレイということで画面を分割し、先程の映像を別角度から見てみる。

 ティール達が全力疾走で滑り込んできて、ゴールラインを割って、突っ切る。そこまでの一連の流れであるが……。


「これは……」

「うむ。確かに見極めが難しいというのも分かる」


 まず3位になってしまったのはリカリュスだ。リカリュス自身も先程言っていたが、ティールとの攻防が楽しすぎて最後の最後で体勢を崩してしまっていた。それが失速に繋がりゴールライン寸前の遅れに繋がってしまったのだ。リカリュスもそれには納得しているのか、映像のリプレイを見ながらも顎に手をやって頷いている。


 そして1位と2位。こちらは、本当に判断が難しい。映像で見てもティールとヴィジリスの荷船後部がゴールラインを通過し切る瞬間が、本当に同着にしか見えない。主審、副審達の見解も揃って同じだ。


「映像の速度を遅くして拡大してみましょうか」


 他の方法としては――決着が付くまでやり直し、というのは、競技の性質上難しいだろうな。ティールもヴィジリスも疲労困憊で、全て出し尽くした、という印象だし。


「いや……。それには及ぶまい」


 メギアストラ女王は少し思案した後に笑って応じると、立ち上がって宣言する。


「魔王メギアストラの名において、今回はヴィジリス、ティールの両名を同着1位! 双方を此度の優勝者として扱うものとする!」


 その宣言に、観客達がまた沸き立つ。魔王国やルーンガルド。ヴィジリスやティール、リカリュスの戦いを称える声があちこちから上がって再びの大歓声である。


「次回以降に決着を持ち越すのもまた一興というものよ。二人とも、それで良いか?」

「はっ! 再戦を楽しみにしております!」


 ヴィジリスが応じ、ティールも声を上げて応える。リカリュスも拍手をしつつも、一人拳を握って頷いたりと気合を入れているようだった。次回に備えるということだろう。


「今回は……本当に勉強になった。まだまだやれること、やるべきことがあると実感させられた。同族を助けてくれたことにも、礼を言いたい」

「そうだな……。俺も水路で生きる者として、ティールには礼を言う。結果はともかく、ティールと泳ぐのは本気で楽しかった。あんな戦いは今までなかったしな。次にやる時までに鍛え直しておくよ」


 そう言って。ヴィジリスとリカリュスはティールとの再戦を約束する。ティールもまた頷いて、フリッパーを差し出す。三人で拳を合わせるようにして再戦を誓い合っていた。


 身体に負担をかけることを承知で二度目の大技を放ったヴィジリスと、ティールとの技巧戦に没頭し過ぎて最後の最後で限界を迎えてしまったリカリュス。二人とも相手がティールでなければそこまでは至らなかったと思う。

 そんな三人の様子にまた大きな拍手と歓声が起こっていた。


「ふふ。ティールさんも……いい友人ができましたね」


 そんな様子にエレナがにこにこと微笑む。


 後続の選手達も次々クシュガナに戻ってきて、観客達から声援で迎えられる。

 途中で脱落した選手達も、自分でクシュガナまで戻って来られる者は自力で、怪我をしてしまった者は係の者達に荷船に乗せられて移動してきている。

 そうして戻ってきた者達の中には、途中でティールに助けられたシュリンプル族の選手もいる。彼もまた敢闘を称えられて、温かく迎えられていた。


 大技こそ決まらなかったが挑んだ姿勢は大したものだと。そういうことらしい。闘気も魔力も無しでは繰り出すのも難しいという話だから、失敗したにしても修練は積んでいるのだろうし。


 彼もまたティールのところまでやってくると丁寧に礼を言っていた。無事で良かったとティールが声を上げて応じ、ヴィジリスも「一度実戦で使ったのなら次はもっとうまくやれるはずだ」とそんな言葉をかけていた。

 件のシュリンプル族はヴィジリスのことも尊敬しているし、ティールに助けられたことも恩義に感じているようで。畏まった様子で二人に応対しているな。


「ありがとうございます。しかし、荷船を危険に晒してしまったのは後悔しています」

「まあ、そうだな。だが、分かっているなら何も言わんさ」


 確実に運んでこそ、というのが祭典の理念ではある。だからまあ、行動した結果として失敗し、失格になってしまったのは残念だが致し方ない。

 当人が分かっているのならそれ以上は言うこともない、というのはその通りだろう。


 段々とゴールする選手の数も増えてくる。水路駅に設けられた選手達の休憩所も賑わってきた。ティールとヴィジリス、リカリュスのところに他の選手達も挨拶に来て、選手同士の交流もしているようだ。

 魔界は実力のある者は認められるという側面もあって、ティールも敬意を示されているな。他の選手を助けた、というのもあるのだろうが。そんな様子にマギアペンギン達も嬉しそうにしている。


 映像についてはそうした選手達の様子を映したり、ゴールしてきた選手の解説をしたり。後から来た選手達の競り合いを映したりしていた。コーナーやストレートでの攻防に関して言うなら、優勝争いが終わった後でもまだまだ見せ場が多い。

 観客側にも各々贔屓にしている選手がいるようで、個別で声援が飛んだり、競り勝ったりしたりするとまた観客が沸き立つ。

 クシュガナはまだまだ興奮の最中といったところだ。観覧席の面々も笑顔で選手達の活躍を語り合っていたりと、招待された面々としてもかなり楽しんでもらえている様子であった。


 そうして……最後の選手までゴールしてきて、水路レースの本番は終わった。ヴィジリスの体調も見せてもらったが、甲殻に罅が入って少し筋組織を痛めてはいたものの、大事ではなさそうだ。筋組織の損傷は治癒術式で治ったし、甲殻の罅もいずれ脱皮の頃合いで元通りになる、とのことである。それを聞いたティールも喜んでいた。


 この後は表彰式と閉会式。それから後夜祭も行われるということで、クシュガナは大分賑わっている。他の水脈都市からの一般人が移動してきて、都市部の人通りもかなり増えてきているようだ。


「ん。後夜祭っていうのは何か特別なことをする?」

「一般的なお祭りと考えてもらって結構ですぞ。歌って飲んで、食べて騒ぐ。特別な事はありません。まあ、辻試合というか……競争のようなことがあちこちの路地で行われたりもしますが」


 シーラが尋ねるとオービルが答える。辻試合か。祭典に触発されて、ということだろう。

 今回の後夜祭は、いつもより更に盛り上がりそう、というのはオービルの弁である。試合内容が白熱したからだろう。

 まあ、まずは表彰式からだ。観覧席の近くには表彰台も作られて、そこに上位入賞した選手達が集められていた。勿論、ティールとヴィジリス、リカリュスもそこに呼ばれている。


 顔ぶれが集まったのを確認すると、楽士達がファンファーレを鳴らす。そうしてメギアストラ女王も満足そうに頷いて表彰式が始まるのであった。

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