表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2616/2811

番外1825 水中を飛ぶ

「さて。いよいよ祭典の開幕です。今は――そうですね。どの選手もやる気十分に見えますね」

「天覧試合ですからな。加えて言うなら今回はルーンガルドの方々も見に来てくださっている、というのもあります。皆が張り切るのも致し方のないことでしょう」


 オービルがしみじみと頷きながら言う。かくいうオービルも祭典が始まって随分と楽しそうだ。

 今は――どの選手も一斉に動いているが……そんな中でも有力選手とされて紹介された者達は動きが違うな。


「おっと、早くも幾人か動きの違いが見て取れますね。何人か紹介していきましょう」


 名簿を見ながら番号と照合。中継映像をクローズアップしたり主観映像にしたりしながら4分割で画面表示を行う。


 どの面々も細かな隙を見つけては果敢に進んで、混雑した状況なりに前へ前へと進んでいる。共通しているのは闇雲に動いているというわけではなく、しっかりとした技術が見られるという点だ。


 荷船をぶつけずに突っ込める隙間なのか、その後の展望は。そういったものをしっかりと見極めている。


 リカリュス、ヴィジリスもそう。ヴィジリスは直線に強いという評でフィジカルに優れているという話であったが、当然それだけでは優勝は狙えない、ということだろう。実力が伴っているのは疑いようもない。

 機敏な動作で先頭を目指して動いているのが見て取れる。


「ん。身のこなしが良い人達が多い」


 解説と共に説明すると、シーラがそれらの映像を見て言った。主観映像と傍から見た時の映像。両方を表示できるから、解説すると分かりやすいな。


「観覧席からも身のこなしが良いとの感想が出ていますね」

「ティール殿も、ですな」


 オービルの言葉に頷き、ティールを映像に映す。ティールもまた、隙間を見つけては同じように前へ前へと進んでいる。

 ただ、体格の大きな方ではあるから、突っ込んでいけるチャンスも少なくなるというのは致し方ない。


 集団を抜け出して先頭集団に混ざるのは――もう少しかかるだろう。


「いや……しかし、見事なものですな。場数や経験という面での不利は否めないでしょうに。ああいう動きができるというのは中々……。水路での動きを余程研究してきたと見える」


 オービルは驚いたように言う。


「そうですね。当人もルーンガルドやマギアペンギンを代表して参加するなら、きちんとしたいと気合を入れて練習していましたから」


 仮想空間でもスタート直後の混雑に巻き込まれた際の抜け出し方というのは想定して訓練していたからな。実戦でそれができているというのは訓練通りの良い動きを本番でできているということでもある。


 そうした状況の中にあって、目を見張る動きをしているのがやはりリカリュスだ。

 小柄で柔軟な身体はこういう状況下で有利に働くのだろう。縫うような動きで着実に前へ前へと進んでいく。流れる水のような身のこなし。完璧な荷船の誘導。技術面で卓越しているという事前情報の通りだ。


 そうやって話をしている間にも、先頭集団は都市部を抜けて本格的に水路に入っていく。


 まだ間口は広い。このあたりもレースにおいて実力のある者が前に来やすい作りをしているようで。早くも少しずつバラけ始めて来たということもあって、ヴィジリス、リカリュスに続いてティールもまた調子を出し始めているように見える。


 ティールの前方でしのぎを削っていた二人が、都市部を抜ける前に良い位置取りをしようと順位争いをしている。後方からティールが二人を上回る速度で迫ってくるのに気付くと理想的なラインを取られまいと瞬時に計算したのか並走したままトンネル部分に突入しようとするが――。


「なっ、あっ?」

「上から……!」


 ティールは更に流れに乗って加速。楽しそうに一声上げると跳躍した。フリッパーを大きく動かし、二人の頭上を越えていく。


「飛んでる――」


 と、片方の男が頭上を越えていくティールに見惚れるように言った。


 ペンギンは水中を飛ぶように泳ぐ鳥だ。俺がティールと初めて会った時もそうだったな。あの時も楽しそうにしていたっけ。


 そうしてティールは二人を飛び越え、空いている場所に向かった。水路の流れに乗るためにスムーズな着水――といっても今いる場所も水の中には違いないが――を決める。

 波を立てない静かな着水をしたかと思うと、そのまま滑るように流れに乗って水路を進んでいく。


「加速も跳躍も狙ったものですな。体力の消耗も最小限で水路の流れに戻る。お見事です」


 オービルがそう評すると、観覧席や水路駅でもティールの動きに拍手や歓声が起きていた。


「マギアペンギンか。相当なもんだな……」

「ええ。あの跳躍と泳ぎは見事なものだったわ」

「さっきの跳躍もだが、さっきから魔道具で見えてる祭典の様子、凄いな……!」

「確かに……。こんなの見たことないぞ」


 観客達も大盛り上がりだ。さっきのティールの跳躍も当人達の荷船と水路に仕込んだカメラからの映像を繋いで上手い具合に中継できたからな。


 中継映像を繋いでいる側としてはスムーズにレースの様子を伝えられているようで、何よりだ。


 中継映像は分割で先程の名残というようにティールの姿を追いつつも、他の場所でもレースが盛り上がっている場面を追って映像を切り替えたりフォーカスしたりしていく。


 先頭や中間組、都市部でやや出遅れている組とでそれぞれ団子になっている部分がある。ティールも団子から抜け出していたわけだが……そこから抜け出そうとしている選手に注目すると見所が多く発生する。

 これは仮想トレーニングでダミー選手を増やしてティールやロヴィーサ、キュテリア達と仮想レースをしたことで得られた情報だな。


 勿論、そこに限らず全体的に見ておきたいところだ。面白そうな場面はできるだけ取りこぼさずに伝えたいからな。


 主観映像は迫力がある。先頭集団、特に今現在一番先頭にいる選手からの映像を出しているが、ペースメーカーとなっているから加減しているといっても水路の流れに乗ってのものなので中々の速度だ。レースゲームもかくやといった景色が流れているのでその辺も盛り上がりを見せられる場面だろう。選手の主観からどんな動きで荷船を制御し、コーナーをクリアしているのかも見られる。


 戦況が分かるのはもう少し引きの、客観的な映像だ。水路各所に仕込まれた魔道具があちこちの状況を伝えてくれる。固定カメラを結構な速度で通り過ぎていく選手達の様子に、観客達が盛り上がっている。


 コースのどのあたりからの映像なのかも防衛上問題ない程度の簡略図と共に簡単な説明を入れているので、選手がどのあたりの位置にいるかも含めて、観客からも分かりやすいものになっているはずだ。


 その中でも、先頭集団のやや後方にヴィジリスはつけている。前に出る気は――ないようだな。先頭を走る選手達をペースメーカーにしつつ、勝負所に備えて体力を温存しているのだろう。実際、その動きには余裕が見られる。ヴィジリスの動きは流れに乗っている状態なので直線での速さという部分はまだ見る事が出来ないが……。


「ヴィジリス選手は、堅実な印象がありますね。あまり無理をせず、どっしりと構えて的確に進んでいるというように見えます」

「その通りです。当人の性格的にも普段は堅実で間違いのない仕事をする人物ですな」


 その性格が水路レースでも表れているということか。オービルが普段は、という言い回しをしたということは、有事の際や勝負所では原則から外れる場合もある、ということだろうか。いざとなったら大胆な動きも見られるのかも知れない。


 リカリュスとティールは……団子になっているところから抜け出しつつある、という状況だな。リカリュスが先行しているという状況も変わらず。

 他にも順当に前との距離を詰めて先頭集団に合流しようとしている選手が何名か。


 実力のある者達が前に出つつあるが、まだまだレースは始まったばかりだ。先頭集団に実力のある顔ぶれが出揃ってからの展開や攻防が楽しみなところであるが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] 地上波で再放送を見ていた世代なので、三船剛が主人公のアニメ第一作のOPを連想しました。 雛たち『ぴー!ぴー!(ティール兄ちゃん、がんばれー!)』 しゃる「頑張…
[良い点] 畜ペンがレギュレーション違反の鋼糸を隠し持っているのを知ってしまった獣
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ