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番外1824 水路を行く者達に

『あの水晶に触れて並ぶ順番を決めるわけだね』

『水路の幅は限られているからな。どの列の何番目に配置されるか表示される。まあ……速い者は体力や技術的な面からすぐに先頭集団に集まってくるが』


 水晶に触れる順番待ちの列の中で、リカリュス、ヴィジリスがティールに説明する。ティールもふんふんと頷いていた。

 同じレベル帯の者同士での様子見という展開になるのは、そうだろうな。自分に合わせられるペースで温存し、勝負所で仕掛ける。


「二人のお話を聞く限りだと……同じぐらいの力量を持つ者達同士の様子見という展開になりそうですね」

「そうですな。初期位置が後方になると確かに負担は増しますが、次第に集団も縦に伸びるので隙間も空いて集団から前へと抜け出しやすくなります。その機を早めるのも技術ではありますが」


 体力と技術の両輪があれば前に抜け出しやすくなるということだ。長丁場なので好き勝手に速度を出していたら後から巻き返される可能性が高いしな。そういう意味では先頭に立つ者も他者をペースメイカーにできないので判断が難しくなるというのもある。


 オービルと試合展開の予想をしつつ、その時に使われるであろう技術的な側面の話もしていく。スタート前に予備知識をつけてもらい、どこが見所なのか。選手のどういった技術に注目すると楽しめるのか、といった部分の話をしていくわけだ。


 リハーサルで解説の練習をしてみた時はこちらの認識とオービルの考え方――つまり魔界側での水路レースでの定石にそれほど差異がないというのも分かっている。そういった経緯もあって、割と安心して解説ができるというのはあるな。


 その他にも優勝候補とまではいかないものの、オービルが注目している選手ということで、何人かの若手の有望な選手やその技術的な部分を解説したり、本命の優勝候補であるリカリュス、ヴィジリスについて触れたり。


 今回特別参加のティールについては……魔王国の参加選手と水路レースをしたことがないから情報が足りないというのは確かだ。

 種族的な遊泳能力と体力の高さは十分。経験は訓練で補っている。モチベーションについては――メギアストラ女王の口上で魔王国側の選手も相当上がっているからお互い高く、優劣はつかない。ダークホース的な扱いというべきか。


「ティール殿は未知数な部分が多いですが、テオドール殿と訓練をなさったという話ですが」

「そうですね。現地の方々に比べて経験不足は否めないので、そこを補っていい試合ができるようになればと。勿論、参加するからには優勝を目指してのものではありますが、こればかりは蓋を開けてみないと分からない部分が多いですね」

「素晴らしい祭典になる事を期待しましょう。おお。そのティール殿達もそろそろ抽選が行われるところですね」


 オービルが向こうの状況を口にする。

 他の選手達も水晶に表示される自分の順番に一喜一憂しているな。中継映像は水路駅でも大型水晶板で見られるようにしてあるから、自分が映ると驚いたりはしゃいだりしている選手や水脈の住民達もいて、中々に賑やかな光景だ。


 まずはヴィジリスから。前から数えて3分の1程度の位置。だが真ん中付近で集団から抜け出すのは少し手間のかかりそうな位置づけだ。ヴィジリス自身は悪くはない、と言っていた。

 次にリカリュス。こちらはヴィジリスより後ろだが左右の位置が端側になる。集団から抜け出すには悪くないとのことだ。


 そしてティール。水晶に触れると、列と順番が浮かび上がるように表示される。


 リカリュスと同じぐらい。ただ、配置されるサイドが違う。


「これがどう影響してくるかですが……」

「そうですな。最初の曲がり角の部分では攻防に絡んできそうです。現状ではリカリュス殿の方が仕掛けやすい位置取りとは言えましょう」


 オービルがそう解説してくれる。最初のコーナーではリカリュスの方が直線に近い位置取りにしやすく、結果として速度を殺さずクリアしやすい位置取りとなっている印象だ。

 となると、ティールはどう動いていくべきか。色々考えるが、駅にも中継されている以上、試合が始まるまでは具体的なアドバイスになるような内容は避けておこう。


「見たところ、ティールは落ち着いているようね」


 ローズマリーが羽扇で口元を隠しつつも、冷静な声で言う。しっかりと分析している様子のローズマリーであるが……そうだな。ティールに関して言うなら焦っても残念がってもいない。自分の位置取りからどうすべきか、しっかりと考えている様子だ。

 そんなローズマリーの言葉に頷きつつ、俺も口を開く。


「開始後の動きについては色々想定してきたので、どう動くかは注目しておきたいところではありますね」


 オービルもティールの動きについては楽しみにしているということで頷いていた。


 そのまま抽選は進んでいき、順番が決まったところで枠を組んで選手達を決まった場所に配置していく。水路の上部で待機し、開始の合図と共に水路に降り立って一斉にスタートを切る、という流れになるわけだ。


 選手達の一喜一憂する姿を眺めつつ、オービルの話を聞いていく。


 スタート直後は張り切って速度を出そうとする者もいるが、それは勝ちには繋がらない。そうするにしても前方の選手が少ないという条件も必要だ。他選手の荷船への攻撃になってしまうような行為は反則であるため、開始直後にいきなりあからさまな無茶をするような者はいない、とのことだ。


「理念も大事だからこその祭典というわけですね」

「そういうことですな」


 スタート直後は煩雑な状況になるから無理はできない。多少コースを進んでから技術面、体力面が全体に反映されてくる……といった流れになりそうだ。

 いずれにせよ、それだけで勝敗が決するようなものでもない、というのがオービルとメギアストラ女王共通の見解であった。


 いずれにせよ後はティール次第、というのは良い情報だな。


 そうして、着々とスタートに向けて準備が進んでいく。

 みんなのところに茶や菓子も運ばれてきて、すっかりリラックスしながらの観戦モードだ。みんなも水路レースは楽しみにしていたようで、笑顔で選手達の様子を眺めている。

 マギアペンギンの面々も「頑張って」「応援してる」と声を上げながらティールの動きを見守っているな。ティールも首を巡らし、フリッパーを上げるようにして応じていた。


 やがて選手達の準備も整う。担当者が合図をすると、それを受けたメギアストラ女王も頷き、再び立ち上がって壇上へと向かう。


「どうやら準備も整ったようだな」


 そう言って笑顔を見せるメギアストラ女王に選手達が応えるように沸き立つ。ティールも声を上げてテンションを上げているな。

 レース開始の合図はメギアストラ女王が出すとのことで、皆がその一挙手一投足に注目する。


「それでは――」


 メギアストラ女王が腕を頭上に掲げると声も静まっていき、色鮮やかな衣服を纏った水脈都市の楽士隊がファンファーレを鳴らす。貝型のラッパは水中用の楽器か。

 ファンファーレが鳴り終わったところでメギアストラ女王が声を響かせた。


「そなた達にとっても、魔王国やルーンガルドの諸国にとっても、素晴らしき祭典とならんことを! 水路を行く者達の祭典を始めよう!」


 楽しそうな笑みを見せるメギアストラ女王が腕を振り下ろすと同時に、掌に宿った魔力の輝きが弾けて合図を送り、選手達が一斉に水路に降り立った。

 動き出す。一斉に動き出す。互いに荷船にぶつからないようにしているが、声を上げて前に進む様は相当な迫力だ。

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[良い点] 獣、対畜ペン用巨体亀にワカメ&緑亀付きを刺客に送り込む(初速は遅いが最高速と安定性に自信ニキ)
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