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番外1822 祭典開幕前に

 甲殻竜達は見た目通りに防御力に優れ、訓練すれば軍用として活用できるほどに賢いとのことで。逆に魔界には珍しく攻撃的な性質をしていないから、攻めが必要な場面よりもこういう比較的安全な場所での移動によく用いられるそうな。


 岩石のふりをして群れの弱い個体を囲って護るという生態もあるそうだ。この辺、確かに訓練すれば護衛には向いている。


 草食だが防御力が高いのも魔界の危険度や……植物の生態とを考えると理解できる気がするな。外敵からの攻撃は勿論、本来普通に食べられるはずの植物も反撃してきたりするので。


 まあ、馬力は見た目通りだ。大型の車も牽引して運べるとのことで、そのまま竜車に乗ってクシュガナへと向かう。


 俺も護衛役を担っているので、テスディロス達と共に周囲を飛行し、警戒しながらの移動だ。とはいえ、各国の護衛や魔王国の精鋭達も周囲を固めてくれているということもあって、半端な魔物であれば近づいてくるということもないだろう。


 空に対してはオズグリーヴが警戒しているので、俺は地面に沿って魔力の警戒網を広げ……地中に対してはコルリスとアンバーに警戒してもらえばいい。


 身体を半分ほど地面に潜行させ、隊列の左右をコルリスとアンバーが固める。


 そうして、皆配置についたところでメギアストラ女王が号令を出し、隊列が移動を開始する。クシュガナまではそう遠くはない。竜車に乗っている面々も車窓から外を見て、魔界の風景や環境魔力の荒々しさを感じているようだ。


「風景だけならば魔王城からも見えていましたが、地上から見た方が、肌で感じられますね……」

「ふっふ。魔界にようこそ、といったところかな」


 目を丸くして感動しているギデオン王に、メギアストラ女王が楽しそうに笑って応じる。ギデオン王もいい笑顔で「はいっ」と答えていた。


 ギデオン王の気持ちは分からなくもない。魔界に生きる者達は今見ている地上からの風景の方が日常だろうし。

 身の回りに自身を守る城もなく、剣呑な気配の森やひび割れた大地、雷光が走る極彩の空と……ルーンガルドでは見られない風景に囲まれているというのは、やはり感じ方も変わってくるものだ。


 それでも魔王都周辺は街道も整備されているし人の往来もあるので辺境よりはずっと秩序だったものではあるのだが。


 そんな魔界を眺めながらも隊列は割と軽快な速度で進んでいく。


 途中で大きな鳥の群れが隊列の方向に進んできたものの、竜達が魔力を漲らせて威圧すると進路を変えていくのが見えた。

 まあ……そうなるな。まともな生き物なら突っ込んでは来ない。魔力溜まりで理性の壊れた魔物ならばともかく。


 クシュガナまではそれほど遠くはない。やがて地上部分に聳える城が見えてきた。


「ああ。あれが……」

「水脈都市クシュガナですな。地上部分にも城と街がありますが……地下水脈部分の都市部が本体です」


 ドラフデニア王国のレアンドル王がクシュガナを見て言うと、ボルケオールが応じる。


「水脈都市か。楽しみだ」


 レアンドル王は楽しそうに笑みを見せる。

 そのままクシュガナへと近付いていくと、オービルを始めとする水脈都市の面々が俺達の来訪に合わせて出迎えにきてくれた。


「おお、これは皆様。よくぞいらっしゃいました。歓迎いたしますぞ」


 オービルが嬉しそうに言うとみんなも表情を綻ばせる。見た目は二足歩行のラッコだからな……。ケイブオッター族は普通に可愛いというか見ていて和むというか。シャルロッテもにこにことしているし。


 ティールが声を上げて「今日はよろしく」と挨拶をすればオービルもにこやかに応じる。


「祭典でのティール殿のご活躍には、皆期待しておりますぞ。是非楽しんでいって下さい」


 そんなオービルの言葉に、ティールがこくこくと首を縦に振った。

 クシュガナに到着したら……まずは地上部分で準備してから水脈部分へと進んでいくことになる。エルドレーネ女王も一緒だし、バブルシールドや水中呼吸の魔道具を利用して水脈内部で直接観戦するというわけだ。


 オービル達と挨拶を交わし、案内されてそのままクシュガナの城へと向かう。


「クシュガナの城は地上部分に比べると幾分か規模が小さい。あくまで水脈都市が主で地上部分は集積地であり……地下の水脈を守る為のもの、として発展していったわけだな。まあ、物が集まればそこに人が集まるのも世の常で、街も付随するように発展していったが」


 メギアストラ女王がクシュガナについて解説してくれる。一般人が使える地下水脈への入り口は一つであるが、城塞内部には予備の入り口がいくつかあるらしい。連絡用、非常用としての通路。賓客の移動用といった具合だな。


 地下水脈に移動する前に、各々客室に案内される。水に濡らしたくない手荷物等があれば部屋に預けておけばいい、というわけだ。

 着替え等が入った荷物を預け、魔道具等の必要なものは地下水脈まで持っていく。


 準備ができたらパペティア族の女官から案内を受けて城内を移動し、広間に移動した。


 賓客用の移動通路は広々としている。元々非常時には軍が使うことを想定した仕様であり、城塞ということもあって実用的で質実剛健な印象の作りだ。魔王国の場合はギガス族もいるので入口や天井等も広くとられていたりするが。


「ふむ。やはりルーンガルドも魔界も、軍用となるとこうした作りになるものだな」


 周囲を見回して得心いったというような反応を見せるファリード王である。魔王国の建築様式はルーンガルドと大分違うしな。軍に慣れているファリード王としては、こういった実用的な作りの方が落ち着くものなのだろう。


 そうして広間にて魔道具が配られる。水中呼吸とバブルシールド。双方の機能を持った魔道具だ。基本的には濡れたくない者はバブルシールドを使えばいい。

 魔石は二つ付けられており、どちらかの魔道具が魔力切れになったらもう片方が安全装置としての役割を果たすといった具合だ。その間に魔力の切れた方の魔石に魔力を補充すればいい。VIPに使ってもらう魔道具としては安心できるな。


「アルバートと一緒に作ったもので僕達も水中の探索時は使っていますから、実績や信頼性がありますね」

「ほほう」

「それは心強いですね」


 みんなが魔道具を身に着けているところにそう言うと、安心してもらえたようだ。イグナード王やコンスタンザ女王が笑顔で応じる。


 命綱になるだけに、万一でも外れないようにベルトで身体に固定して装着するタイプの魔道具だ。二段構えになっているあたり、セーフティーも多いな。

 更に相対位置情報の分かる魔道具も配布し……全員に装備が行き渡り、装着が確認できたところで、一足先にアルバートと共に水脈内部に移動し、みんなの魔道具がきちんと機能しているかを一人一人確認していった。


 水脈入り口内部も水が満ちているが……広々としたホールになっているな。端の方に水脈側に通じる出入口が開いている。ティールの荷船もきちんと用意されていて、ティールは嬉しそうに荷船を見て泳ぎ回り、色々な角度から確認していた。


 用意のできた面々から順番に水の満ちた水脈側の広場へと降りてくる。


「問題なさそうですね」

「ええ。良いと思います」


 水中呼吸の魔道具を発動させて楽しそうに笑うオーレリア女王である。


 ティールの荷船の方も仕上がりは上々だ。ティールのコンディションも……生命反応や魔力の状態から良い具合に集中力が研ぎ澄まされているのを感じるから、万全と言って良い。魔道具共々問題はなさそうだし、祭典が楽しみだな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 岩石のふりをして群れの弱い個体を囲って護るという生態も重なり琥珀に齧られている
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] >シャルロッテもにこにことしているし。 しーら「取り敢えず帰国後の板前修行を考えないでいる、封印の巫女」 >「ふむ。やはりルーンガルドも魔界も、軍用となるとこ…
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