表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2611/2811

番外1820 竜達の面会

「おお、おお。ルーンガルドの竜殿か」

「清廉な水の気配だな。うむ」


 初対面となる魔界の竜達はペルナス、インヴェルとラスノーテを見ると、そう言って相好を崩していた。

 ラスノーテは緊張していた様子だが、ペルナスとインヴェルは魔界の竜達に敵意がないということもあって自然体だ。ラスノーテの様子を微笑ましそうに見ながらも魔界の竜達はメギアストラ女王やルベレンシアに紹介された水竜親子に朗らかに挨拶をしていた。


 人化の術を使ったままでは竜として顔を合わせたと言えるか分からないからと言うべきか。テラスから外に出て人化の術を解いた姿も見せあって、朗らかにというには迫力満点であったりするが、水竜親子も魔界の竜達も、総じて機嫌が良さそうなのは確かだ。


 やがて再び人化の術を使って広間に戻ってくる。


「水の魔力を纏う竜は、魔界では珍しいな。魔界の海にも竜はいるのだろうが、我らとてそうそう外海には赴くことができぬ故、(まみ)えることがない」

「そうなのか。確かに危険地帯と聞いてはいるが」

「海の底から高空まで水の槍が飛んできたり、雷混じりの竜巻が襲ってきたりだな」


 ペルナスの疑問にルベレンシアが答える。ルベレンシアは興味本位と腕試しで海まで出てみたことがあるらしいが、相当なものだったそうだ。


「縄張り意識の強い何かがあちこちいるらしい。大きな魔力を持つ者が来るからこそ、すぐさま排除に動こうとするのだろうな」

「流石に相手の領分である海に飛び込んで相手をするのは我らとて中々に難しい」


 その分、水脈部分までは自分から手を出しては来ないらしい。そこに大きな魔力を持つ者が来ても、縄張り外と見做すのだろう。自分達から危害を加えたり、水路の外壁が壊れた状態で目視されたりするとその限りではないし、水路に侵入できるような小柄な個体も攻撃的だから魔界の海が危険であることには変わりはないが。


 向こうの縄張りの範囲外と見られているならその辺は安心できる内容ではあるかな。


 ともあれ、魔界の竜達に歓迎されて、水竜親子も今まであまり竜同士の交流の機会がなかったから楽しそうだ。


「ラスノーテは今後の成長が楽しみだな」

「そうだな。ルーンガルドの竜は大きな形態変化は起こさぬようだが、その分両親に似た優雅な竜となるであろうよ」


 と、そんな風に評されたラスノーテは少し顔を赤くして……周囲から微笑ましそうに見られていた。




 そうして、外の視察に出ていた面々も魔王城へ戻ってくる。訓練所に行ってギガス族の武官とドラゴニアンの武官が模擬戦をしているところを見学したり、街中で売っているものを見てきたり。建築様式から風景、文化に至るまでルーンガルドでは見る事のできないものなので、初めて魔界に来た面々には良い刺激になったようだ。


 魔王城も魔王都も、見た目のインパクトはとにかく大きいしな。


「建築様式については魔王都建造に関わったディアボロス族全体と、当時懇意にしていたパペティア族の方個人の好みによるところが大きいのですな」


 つまりその両者が今日の魔王都のセンスの大本とのことであるが、そうしたセンスは今日のディアボロス族にも割と共通しているものなのだとか、そんな話をファンゴノイド達からも聞くことができた。


「ファンゴノイド達は賢人と言われているだけあって、魔界の歴史については詳しいからな。色々と面白い話を聞くことができる」


 メギアストラ女王が笑みを見せて言う。知恵の樹などの詳しい説明については周知できないので省いているが……そうだな。ファンゴノイド族は魔界が出来上がった当時からの記憶を一族として継承しているから。

 辺境外の状況は知れないが、成立の過程やジオグランタが魔王と共にいる事から言っても、魔界の中心にずっと寄り添ってきた種族と言っても過言ではない。


「ディアボロス族に関しては魔王国でも比率が多い種族で、幾度か魔王も輩出しております。魔王国には昔から深く関わってきたというわけですな」


 その上でディアボロス族は戦士としても魔術師としても優れた適正のある者が多く、魔王国にとっては屋台骨とも言える種族、というわけだ。


「先代のセリア陛下もディアボロス族ですからね。信頼と尊敬を集めているというのは分かります」

「うむ」


 俺の言葉にメギアストラ女王が嬉しそうな笑みを見せて頷く。そうやって広間で話をしながら食事や音楽を楽しんだりといった時間を過ごさせてもらう。

 やがて話題は本題でもある明日の水路レースの話になった。


「ティールは大分頑張って準備も進めてきました。仕上がりは――」


 ティールに視線を向けると絶好調、というようにフリッパーをパタパタと動かし、声を上げる。


「良いみたいですね」


 エレナが笑ってそう伝えると、みんなも表情を綻ばせていた。

 実際ティールの仕上がりについてはタイムも順調に伸びていて上り調子と言える。ペース配分や駆け引き等も上手くなって、必要な技術も身についているという印象だ。


 循環錬気についても行うが、実際のレース中に有利不利を及ぼさない時刻まで、というところだな。俺のするべきことはティールが不安や後悔なくレースに臨めるコンディションを整えるまでで、実際のレース中の助力ではない。


 循環錬気がどの程度の時間、どのぐらいの影響を及ぼすかのデータも取ってきているので抜かりはない。俺としてもその辺具体的な情報を纏められるのはありがたいことだ。

 あくまでティールに使った場合は、という但し書きのつく情報にはなるが、他種族でも近しい傾向にはなるだろう。


「応援しているぞ、ティール」

「ふっふ。楽しい祭典になると良いな」


 エルドレーネ女王やファリード王が笑って言うと、ティールもこくんと頷いて声を上げていた。闘気も魔力も使えないという縛りはあるからいつものように魔力を漲らせたりというわけではないが、気合が入っているのは間違いない。


 ティールについては一先ずフィジカル、メンタル共に問題はなさそうというわけで、魔道具のテストとコースの予習も兼ねて、中継システムも見てもらう。


「これが実際に競技に用いられる魔道具と……それから映し出されているのが祭典に使われる水路ですね」


 そう言うと、広間に集まった面々が興味津々といった様子で水晶板を覗き込んでくる。水路の様子が映し出され、そこを行き交う人々の姿も映っていた。


「物流の関係もありますから、多少の規制はありますが水路自体はきちんと活用中ですな」


 と、ボルケオールが教えてくれる。巡回中らしき武官の姿が多いのは、祭典が迫っているからだ。

 平常時よりも多少の制約があるのは仕方ない。レース専用に使われている区画には一般人はいないがそこにも武官達の巡回が入っていて、死角になりそうな場所に不審物がないか等々をしっかりチェックして回っているのが見て取れる。


 そんな魔界の人々の様子を見ながらも、レース中の見所についての話をしていく。


「個人的には……曲がり角においていかに無理をせず、且つ速度を落とさずに抜けていくかという部分が勝敗を分けてくるかと思っています」

「うむ。その見識は正しいな。曲がり角を綺麗に抜けるというのは、その後の直線での立ち上がりですぐに加速できるというところに繋がってくる。直線での最高速をどれほど出せるかであるとか、そもそも勝負を仕掛けるために体力を残しておく、回復させておくというのも重要になってくるが……曲がり角やその後の立ち上がりでの攻防は分かりやすく競技中の華となる部分であろう」


 メギアストラ女王も同意してレースの解説してくれる。あまりこういったレースに馴染みや知識があるとは限らないからな。みんなもふんふんと興味深そうに頷いて解説に耳を傾けていた。


 後は限られた空間をどう活用し、いつ攻め、どう守るのか。荷の制動をどうするのか。

 水路レースは色々技術が絡んで分かりやすく、華になる部分から通好みの部分まで色々と見所がありそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 海中にいる縄張り意識が強い何者かの正体が気になるところですが…… SAN値チェックが必要でない相手でありますようにw
[一言] >ティールは大分頑張って準備も進めてきました テオドール「食事にも気を付けましたね」 (迷宮核のアイテム作成ログ:大量の種や木の実)
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] >その分、水脈部分までは自分から手を出しては来ないらしい。そこに大きな魔力を持つ者が来ても、縄張り外と見做すのだろう。 成程、馬鹿が来なければレースは無事に終…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ