番外1819 魔王都視察
「ブルムウッドは元気ですよ。元気が良すぎて俺達も魔王国に仕える武官になったんだからって訓練を張り切っていて、俺達も相当鍛えられています」
「それは何よりです。ヴェリトさん達も結構魔力が上がっているように見えますね」
「そう思っていただけるなら訓練をしている甲斐もありますね」
ディアボロス族のヴェリトやオレリエット達と、近況についても話をする。
ブルムウッドについては土魔法への過剰適正で身体が次第に石化してしまうという病を患っていたが……それを魔法薬で治療し、封印術の魔道具で予防をしている。
病床に伏せていた身体も本調子になっており、前よりますます精力的に動いているとのことだ。
今は街中に行った皆の護衛として動いているが、真剣な表情で周囲に気を配っているのが窺えるな。武官としての経験が長いということもあって、その立ち居振る舞いは堂に入ったものに見えた。
しばらく病床に伏せていたことを考えれば、ああして護衛として動けるようになっているというのは勘を取り戻すのに相当努力したのだろうというのが伺える。
ともあれ、封印術の魔道具もしっかりと効力を発揮しているようで、その辺は喜ばしいことだ。ブルムウッドの近況を聞いてグレイスやアシュレイも微笑んで頷いていた。
「封印術による体調の維持というのは他人事ではないわね」
「そうですね。オリヴィアにはもう少ししたら魔道具が必要になると思いますし」
「私は循環錬気をしてもらっていますから封印の魔道具は使ってはいませんが、ブルムウッドさんと似た体質ですからね」
ステファニアの言葉にグレイスがオリヴィアをそっと撫でながら頷き、アシュレイも真剣な表情で同意する。
そうだな。俺達にとってもまた必要となってくる技術だ。
オリヴィアはクォーターだからもう少しすればダンピーラとしての特性も出てくると予想される。その時にはグレイスと同様に魔道具を使う必要もあるのだが……。
その辺の見極めは循環錬気だけでなく、話を聞けばグレイスも判断できるとのことだ。時期を見て、という考え方もあるけれど。
ともあれ力が強くなり始める時期に吸血衝動も出てくる兆候があるとのことで。グレイスの実体験があるのは大きいな。クォーターであるからグレイスより遅めという可能性も高いけれど。
アシュレイの場合は……俺と普段から循環錬気ができるということもあって、体調の維持に繋がっているから魔道具を日常で使わずとも済んでいるが……子の世代、孫の世代の事を考えると、やはりその辺の魔道具は必要になってくる。
これについては予備の品の製作だけでなく、技術継承も含めて伝承しておかなければならない。俺達だけの事に限らず、特性封印の魔道具は魔力資質回りの疾患には効果があるから、技術が確立されて予備の品があるというだけで他にも助かる者も出てくるだろう。
まあ……近い将来では俺とアシュレイとの子供というところで魔力資質に気を配っておく必要はあるかな。
というわけでお互いの近況や少し先の予想についても話しつつ、広間でのんびりと寛がせてもらう。
イルムヒルトやシーラは早速魔王国の楽師達と交流しに行ったようで。一緒に歌声を響かせたりと、中々楽しそうにしているな。
街中に見学に行った方もだ。俺達も水晶板で見せてもらっているが、アウリアを連れて魔王国において新設される冒険者ギルドに相当する機関の視察に向かっているとのことだ。
『おお。危険な魔物についての生息域や生態についてもきちんと情報共有が進められておるのじゃな。良いことだと思うぞ』
アウリアは魔王国の冒険者ギルドの状況を見て表情を綻ばせる。
『うむ。この辺りはルーンガルド側のギルドの視察で参考にさせてもらった部分だな』
メギアストラ女王もアウリアの言葉ににやっと笑って応じていた。
魔界の冒険者ギルドは……まあ、魔王国の事情がルーンガルドの国々とはまた違うからな。
魔物の生息範囲や対策法などの情報提供も魔王国側がしっかりとしている。ルーンガルド側の冒険者ギルドよりも公営色が強いものだが……これは魔界の環境が厳しく、魔物も強いので生存圏が狭いからというのもある。
魔王国以外の国も……少なくとも強力な魔物や蛮族の支配圏を越えていかなければ調査ができないから、実態が良く分かっていないというのが実情だ。少なくとも、辺境の外に広がる魔境を越えてどうこうできるわけではない。
ともあれ魔王国以外の勢力に頼れるわけではなく、多種族間で協力し合わなければ立ち行かないという実情もある。
宮仕えをして、任務として魔物討伐をするのは窮屈だとか、心理的抵抗があるという市井の腕利きも多いからな……。依頼という形で仕事を受けるのを好むような、自由な気風の者を支援していきたいという狙いもあるのだろう。
素材を確保したいという民間の要望にも応えやすい。武官達は任務があるので、戦えるとはいってもそういった需要に対応できるわけではないし、国が仲介することで個人間の交渉と違ってトラブルも減り、相場も安定するからだ。
辺境外にまでは出ていけるわけではないだろうから、魔王国内での活動が主になるのだろうが。
『――というわけで、斡旋する場合は危険度と共に重要度、緊急度を算定し、問題が多そうならば内容を貼り出したりはせず、実績のある者達に紹介し依頼を受けるか否か決めてもらう。公営ならば緊急性の高いものは国が対応できるのであろうが』
『ふむ。冒険者達は民間の者達だからな。依頼に関しては自由意志で決めてもらうというのが良いのだろう。公営故に緊急性が高ければすぐに情報を把握して武官を派遣できるというのは、こちらの強みではあるし』
アウリアとメギアストラ女王がギルドを視察しながらそんな風に意見交換する。
『アウリア殿はご本人が元々冒険者ということですし、ギルドでも実務をなさっていらっしゃる方ですから、意見も参考になりますね』
ギガス族の職員がそれを受けて満足そうに頷いていた。
そうやって魔界の冒険者ギルドを視察してから、ジオヴェルムのあちこちを見て回る。
職人達の集まる工房を見学に行った際はパペティア族から是非ドレスを仕立てさせて欲しい、装飾品を作らせて欲しいと詰め寄られたりもしていたが。
パペティア族の面々はそれぞれで追究しているものの拘りに差異はあるが、それでも自分の信じる芸術、美観、美意識に生きている種族だからな……。
オーレリア女王の雪のような髪にはきっとこんな髪飾りが似合う、などと意見を出し合ったり、イグナード王の毛並みはこんな装飾品があれば格好いいのではと盛り上がったり……色々な方面から顔を出した面々に営業トークなのか、自分の好みを炸裂させているのか分からない話をしていた。
それでもパペティア族は職人としては確かな腕を持っている。何しろ作品や腕前を提示しろと言われたら、自身の身体に施した改造がそうなのだから。装飾の細やかさやセンス等は自己紹介すると同時に見せられるというわけだ。
異様に手足の長い者や逆関節にしたりしている者もいて、芸術家肌だったりもするが、それでもやはり総じて造形は美しいと感じる。
そうした腕前や熱烈な営業努力も報われたようだ。土産としてお願いしようかという話になるとかなり盛り上がっている様子であった。
まあ……街中の視察は楽しそうで結構なことだ。そうこうしていると、魔界の竜達もジオヴェルムに到着したと連絡があった。というか、バルコニーからこちらに飛んでくるのが見えたので、これから魔王城に通されてくるだろう。