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番外1817 オウギの道案内と共に

 馬車に乗り込み、騎士団の護衛を受けながら街中を移動する。魔界水路レースとその中継に関しては、少し前から告知されていたということもあって、タームウィルズの人通りは結構増えているな。


 レース観戦ついでに商売や観光、迷宮探索という面々は多く、その辺は境界劇場、幻影劇場、火精温泉といった施設の入客数が増えていることからも割と動向が掴めるというか。まあ、収益増加にも繋がっていて結構なことだ。


 タームウィルズやフォレスタニアにも広場は何か所かあるが、そのいくつかに巨大水晶板を設置して、街中のあちこちで水路レース中継を見られるようにしてある。


 例えば、東区ならば中央区寄りではあるが迷宮前の広場。中央区ならば演説用の王城前広場といった具合だ。西区でも孤児院から見える位置に高々と水晶板を設置していて、孤児院の子達も人込みの中まで行くこともなく安全に見ることができるようにしてある。


「サンドラ院長や子供達もかなり嬉しそうにしていたわ」

「ん。ドロシーからもイザベラが礼を言って欲しいって。二人とも喜んでるみたい」


 と、イルムヒルトとシーラが教えてくれた。


「それは何より。西区のみんなも盛り上がってくれるといいね」


 孤児院や盗賊ギルドに限らず、西区全体で見ることができるからな。西区やタームウィルズ、フォレスタニアに限らず、盛り上がってくれたら良いと思う。


 ついでに街中の声も聞いていってみるが、まあ中々の盛り上がりを見せているようだ。


「ほら。フォレスタニアの湖を泳いでるでしょう?」

「ああ。マギア……ペンギンじゃったか。境界公が保護しているという鳥魔物の種族じゃったな」

「そうそう。その中で一番泳ぐのが速い子が魔王国の水路で行われる競技に参加するんだって言ってたわ」


 冒険者と職人らしき風体のドワーフが店先でそんな話をしている。


「水路競技か。ワシは泳げんが……見る分には面白そうじゃな」

「でしょう。だから人が増えているみたいね」

「ほーう。ちょいと田舎の方に顔を出してたから知らんかったわい。当日は仲間達と酒でも飲みながら見せてもらうとするか」


 ドワーフの職人はにかっとした笑みを見せていた。まあ……当日はドワーフや冒険者達も酒盛りしながらの観戦ということになるのだろうな。

 話題に出されたティールもそんな街中の反応に気合を入れている様子である。実際街中を移動する時も道行く人々に「頑張れよ」「応援してるぞ」と声を掛けられ、フリッパーを振りながらも声を上げ、笑みを向けられていた。


 そんな調子で街中の様子や反応を見ながら移動して月神殿に到着。そこから更に迷宮入口前まで移動していく。


 と、そこには迷宮側の案内人ということで、オウギがべリウスやティアーズ達と共に待っていた。


「遠路はるばる、ようこそいらっしゃいました。私は今回迷宮の案内役を仰せつかっております、オウギと申します」


 目線の高さに浮かんだオウギがぺこりとお辞儀をする。

 魔界までの連絡通路と浮遊要塞、境界門といった施設を利用する際の注意事項は事前に伝えてあるし、位置把握の魔道具もそれぞれに所持してもらっているが……入る前にもう一度念のための注意喚起をしていく。


 今回同行している面々はオウギのことも知っている面々が多く、注意喚起は真剣に受け止めてくれているようだ。主君の安全に関わることということもあり、面識のない者も緊張感のある表情で身に着けている魔道具のチェックをしていた。


「問題や質問があれば今の内に仰ってください」


 そう言ってオウギが見回すが……大丈夫そうだな。というわけで、みんなで石碑の前まで移動し、そこから連絡通路へと飛んでいく。光に包まれて次の瞬間にはもう連絡通路にいた。


 細かな装飾が施された、広々とした回廊である。ここから直接深層に行けるわけではないが、階層の深さは相当だ。感じる魔力も浅い階層とは全く違うということもあり、雰囲気の違いを感じ取ったのか初めて迷宮に来たという護衛の面々も目を瞬かせている。


 待機していたティアーズ達が周囲で編隊を組んで俺達に同伴する。


「では、移動していきましょう」


 というオウギの先導で連絡通路を進んでいく。

 広々とした回廊は俺達が移動する時の足音や衣擦れ、鎧の立てる音程度で静かなものだ。魔法生物系の迷宮魔物はほとんど音を立てないから、普段は静まり返っているということになる。

 連絡通路は少人数で移動したら緊迫感が強いものだろう。環境魔力は濃いものなのに建築物の装飾が細かく……だというのに静寂に包まれているというのはラストダンジョン感があるというか。覚悟のない侵入者に二の足を踏ませるのには一役買ってくれるとは思う。


「こういう正式な移動時は魔法生物の楽師隊等を配置しても良いかもしれませんね。侵入防止のために敢えてそうしているところはあるのですが、雰囲気が重くなりがちですから」

「管理代行者と同行していれば安全というのは分かっているから私は肩の力を抜いていられるが、迷宮に不慣れな者には確かに緊張感があるだろうな」


 と、メルヴィン公が笑って応じた。


「楽師隊というのは良いですね」

「境界公のゴーレム楽団は見ていて楽しいものだからね」


 フラヴィア王妃の言葉にジョサイア王が頷く。ヴェルドガル王家の面々は迷宮との付き合いも長いしな。流石はお膝元という印象である。


 そんな話をすると、少し緊張していた様子の護衛達も幾分かリラックスできたようだ。連絡通路を進み、続いて区画移動用の門を潜ってアルクスの防衛する浮遊要塞へと進んだ。


 アルクスは防衛戦力の要なので、こういう時においそれと姿は見せられない。代わりに要塞防衛に当たっているティアーズ達が編隊で姿を見せて、マニピュレーターを身体の前後に伸ばして身体を傾ける。

 腰に手をやってお辞儀をするような動作で俺達を迎えてくれた。要塞内部は入り組んでいるが、平常時のルートは移動にもそれほど手間のかかるものではない。


 引き続きオウギと要塞防衛部隊のティアーズ達に案内されながら境界門のある間まで移動する。オウギの道案内は丁寧なもので、差支えのない範囲で迷宮の情報を伝えて同行者を安心させたりと……交渉役の面目躍如といった感があるな。


 やがて俺達は境界門のある庭園に出る。フェアリーライトやライトアップされた水路が映えるよう、敢えて暗くしてある場所だ。初めて見る面々は歓声を漏らしていた。


「美しい場所ですね……」


 ガステルム王国のコンスタンザ女王がぼんやりと光るフェアリーライトを見やって目を細める。

 みんなで庭園を愛でながら進んでいくと、境界門も見えてきて……そこにパルテニアラも姿を現した。


 みんなの視線がそちらに集まる。エレナとガブリエラも前に出て、パルテニアラの前で膝をついて祈るような仕草を見せれば……境界門が開かれてルーンガルドと魔界とが繋げられた。


 境界門を開くと揺らぐ空間の向こうから濃密で荒々しい魔力が感じられるから……やはり初めて来た面々は二の足を踏んでしまうところがあるだろう。そこでオウギや俺が率先して境界門を出入りすることで通過も向こう側の状況も安全であると示していく。


「おお、来たか」

「これはテオドール殿。オウギ殿も」


 境界門の向こう側ではメギアストラ女王とボルケオールを始めとしたファンゴノイド族や騎士団長のロギといった顔触れが到着を待っていてくれた。


「ああ。お待たせしました」

「門の向こうに皆様来ておりますよ」

「うむ。歓迎しよう」


 ということで、境界門のルーンガルド側にも再び顔を覗かせて、向こう側に迎えがもう来ていることを伝えていく。

 同行している面々が次々と境界門を潜って魔界迷宮側に移動すると、メギアストラ女王達も温かく歓迎していた。


 魔界に魔王国という字面で緊張していた面々も、メギアストラ女王達がフレンドリーに迎えているので案外拍子抜けしているようだ。


「ティールも良く来てくれた。祭典での奮戦を期待している」


 メギアストラ女王がそう言うと、ティールもまた嬉しそうに声を上げてフリッパーをパタパタと動かし、同行してきたマギアペンギン達も首を縦に振るのであった。

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[良い点] 獣、八頭だての犬ぞりで入場ww
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