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番外1809 祭典を迎えるまでに

 水路を周回していく途中で、件のヴィジリスとも面識を得ることができた。


「ヴィジリス殿はこの都市の武官として任務に就いている人物ですな」


 オービルがヴィジリスについて説明してくれた。水路を通って都市部をいくつか抜けたが、その中の一つでのことだ。

 ヴィジリスは……これから入っていく都市の水路駅において、警備隊隊長としての任務についているらしい。姿を見ることができるかもしれないと期待して都市部に入っていったが……水路の駅で会うことができたのだ。


「おお、これはヴィジリス殿……!」


 オービルが姿を認めて声をかけてくれた。部下達の報告を受けているところだったようだ。


「これは――メギアストラ陛下」


 ヴィジリス達はオービルの声に振り返り、メギアストラ女王の姿を認めると部下達に声をかけ、最敬礼で以って迎えてくれる。


「ふっふ。そう改まる必要もない。今日は公的な訪問というわけでもないのでな。楽にしてくれて構わんぞ」

「はっ」


 水路の流れから外れて、船を停泊させて少し話をさせてもらう。ヴィジリスは鮮やかな青の甲殻を持つシュリンプル族のようだ。

 纏う魔力、生命反応も周囲の武官達より頭一つ抜けている感があるな。物腰からもしっかりとした技量があるのは伝わってくる。


 今日はルーンガルドから来た俺達の案内をしているということや、ティールが水路レースに参加することといった内容をオービルが伝えて俺達を紹介してくれる。ヴィジリスは俺達にも丁寧に挨拶をしてきた。


「ご勇名はかねがね聞き及んでおります。お会いできて光栄です」

「こちらこそ」


 そう俺達とやりとりした後、ヴィジリスはティールにも向き直る。


「知己を得られて嬉しく思います。競技中はよろしくお願いいたします」


 そうしっかりと伝えるヴィジリスである。物腰は礼儀正しい武官といった印象だ。リカリュスの評は少し変わっているけれど良い奴とのことだったので、私生活だとまた違う側面があるのかも知れないが、律儀で真面目な性格というのは間違いなさそうだ。


 普段水路を使って荷運びしているリカリュスが細かい部分での技量に優れているというのもわかるし、武官として水路に関わっているヴィジリスが直線での速度に優れるというのも納得のいく部分である。


 ティールはリカリュスもだが、強そうな人達がいっぱいで嬉しいと、そんな内容をヴィジリスに伝えていた。ヴィジリスもまた「自分もです。祭典の折にはよろしくお願いします」と少し笑って応じてティールと握手を交わすのであった。




 そうやってヴィジリス、リカリュス両名と面識を得て、レースの経路を一周して俺達はクシュガナへと戻ってきたのであった。

 そのまま地上の城部分に戻って、そこでみんなも交えて話をする。


「お陰様で見学も充実したものになりました。ありがとうございます」

「いえいえ。あのお二方に会えた部分の方がきっと大きな収穫であったかと」


 と、オービルは柔らかく応じてティールを見やる。視線の先にはフリッパーをパタパタと動かして気合を入れているティールの姿があった。強豪と会えたことで相当気合が入ったようだ。


「ふふ。良い刺激になったみたいですね」


 そんなティールの様子にエレナが微笑みを見せる。

 ティールはスタミナや回復力もあるし泳ぎの速度と技巧のバランスが良い事が持ち味になるだろうか。それがレースでどのぐらいの位置につけてくるかは未知数ではあるのだが。


 マギアペンギンが比較的大きな体格の種族であることは……局面によって有利にも不利にも働くな。水路の広さに関して言うなら問題はなさそうなので、後は立ち回り方次第だ。


 そんな話をしながら会議室に場所を移し、どこに中継用の魔道具を設置するのが良いのかを検証していく。


「長い直線や勝負所になりそうな曲がり角に配置して、それ以外の部分は選手達の荷船に仕込んだ魔道具で補う、というのが良さそうですね」

「うむ。競技中の一部始終は今まで大勢で見ることのできなかった部分でもあるからな。これまでにない盛り上がりになるであろう」


 俺の言葉にメギアストラ女王は同意して、楽しそうに笑みを見せた。

 後は中継映像の切り替えと分割表示、記録と編集をしての再放送ができるようにしておくか。国内外に広く放送して見せる形でも前例のないものだけに相当な娯楽になると思うのだ。


 ただ、そうなると放送するにあたって魔界のこと、水路レースのことについて少し予備知識を周知してもらう必要があるだろうな。

 レース中の状況が分かるように、先頭集団は誰なのか。コースのどこを走っているのか、といった情報の提示も重要だ。


 それと同時に水路レース中に、国防に絡んで見せては拙いものなどが映ってないか等……はきちんと編集しておく必要があると思う。

 そういった内容や懸念についても伝えて、メギアストラ女王達と相談しておく。


「国防に絡んで、か。ふむ。警備体制そのものが映り込まないようにしてあれば一先ずの問題はなさそうだが……」

「水路の出入りは管理がされておりますし、実際の競技に使われる部分の水路図は秘匿されているわけではありませんからな。とはいえ、何かしら見落としもあるやも知れません」


 メギアストラ女王とボルケオールが言う。水路レースはファンゴノイド達も見学した事があるので、実際の記憶と中継魔道具からの映像とで判断したいとのことだ。都市部の中継映像は水路に入ってくる選手と、観客とが見える状態にしたいというのはあるので。カメラのアングルで映り込まない方が良いもの等を調整していきたい。


「ふむ。そういうことであれば、水路の警備隊とも連絡を取っておきましょう」


 騎士団長のロギが申し出てくれる。この辺は実際の警備に当たる武官達からの意見も重要になるだろうしな。


「武官から参加する者達もいる。彼らの意見も確かに参考になりそうだ」


 メギアストラ女王もその見解に同意する。


「祭典が近付いてくれば、熱心な参加者も水路で折を見て競技の訓練をする者もいる。そういった面々には早めに声をかけて邪魔にならないように配慮しよう」


 とのことである。

 今日顔を会わせた印象ではリカリュスやヴィジリスもティールとの面識で、油断どころかモチベーションが上がっている様子だったからな。

 国外からの初参加程度では油断は望めないというか、寧ろ本番に備えてきっちり仕上げてくると思われる。水路レースに対して矜持があればこそ、腑抜けたところなど見せられないからだ。

 リカリュスもヴィジリスも、優勝経験者というだけでなく、水路の業務や安全に携わっているという面もそれを後押ししている。


 ティールも全力を尽くすと気合を入れているので……結果がどうであれきっと当日は面白いものになるだろう。


「魔道具に関しても、資材等の準備については全面的に協力しよう」


 魔王国側も協力してくれるとのことだ。工房での負担もそう大きくはならないから、浮遊盾の開発についても影響は少ないだろう。

 魔道具の設置だけに拘らず、水路のあちこちに中継担当としてティアーズ達を配置するというのも構想しているしな。レースの邪魔にならず、ある程度選手の状況に合わせて映像の追尾ができるというのは大きいからな。


 そうして……アルバートや同盟各国にも連絡を入れて、話し合いの結果や計画を伝えていった。

 同盟各国も準備や周知については是非協力したいと応じてくれた。

 今回は魔王国の水路レースの模様を同盟各国でも見られるようにする、という内容だが、今後の話をするなら各国で何らかの催しを行う際に同様の放映ができるということだからな。そうなると盛り上がりが期待できるので経済的な効果も見込めるだろう。

いつも応援していただきありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[一言] 2600話到達おめでとうございます。いつも素敵なお話をありがとうございます。これからもお身体を大切になさって更新して頂けると嬉しいです。
[良い点] 普段水路を使って不純物分解しているスライムに真空波無効化され土座衛門している畜ペン
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