番外1804 マギアペンギンの挑戦
みんなと一緒に工房の中庭で試し斬りや試射をした後で、新型の炉を作っていった。
炉の内張りの材料となるのは耐火煉瓦だ。火属性の魔石粉を素材に混ぜ込みつつ、内部に粉の濃い部分を作って魔法陣を構築してやるわけだ。
表面に刻印術式を用いることで強度、耐熱性、遮断性等も上げていく。光球の術式で溶かし、一気に形成していくのでそれほど難しいことはない。
内張りを作り炉に使う術式を書き付けたら、アルバートに魔石に刻んでもらい、それらを組み上げていけば完成となる。
しばらく作業を続け、仕上げたものを試運転していく。ウィズの分析で炉内の温度が予定していたところまで上がっているか。外に漏れてくる熱をきちんと遮断できているか。使い勝手と安全性はどうか。そういったことを一つ一つ調べていく。
一応アダマンタイトに合わせた専用炉ではあるが、目的によって温度を段階的に調節できる仕様なので他の素材に対応したりといったこともできるはずだ。
「素晴らしいです。これなら良い物が作れそうです」
「こうして恵まれた環境で珍しい素材を扱えるというのは鍛冶師としては嬉しい限りですね」
ビオラとエルハーム姫は満面の笑顔で炉の仕上がり具合を見て頷き合っていた。サティレスとルドヴィアの浮遊盾は二人で担当する部位などを変えつつ、アダマンタイトを加工させてもらうとのことだ。
「よろしくお願いします」
「楽しみにしています」
サティレスとルドヴィアがそう伝えると、二人も上機嫌な笑みを浮かべつつ頷いていた。
「任せてください」
力瘤を作って気合を入れているビオラである。
そんな調子で浮遊盾の製造はアルバート達に預けることとなったのであった。
工房での仕事を一段落させてから……俺達はフォレスタニアでのんびりと過ごさせてもらった。
領地内の仕事と視察をしながらメルヴィン公の別邸に使い勝手を聞きに尋ねたり、子供達を迎えて野営訓練の設備を試したりといった具合だ。
そんな平穏な日々の中で、今一番フォレスタニアで気合が入っていると言えばティールかも知れない。
魔界の水路レースに参加することが決まっているから、泳ぎの速度であるとか小回りであるとか、トレーニングに余念がないのだ。
フォレスタニア湖を泳いで回ったりして、持久力をつける訓練もしているようだ。
そんな風に気合の入っているティールであるが……仲間のマギアペンギン達も何か自分達にできることはないかと、ティールの競争相手を買って出たりと、色々協力しているようだ。
ルーンガルド側の特別ゲストとして水路レースに参加するティールだし……俺としても勿論協力してやりたいところなので、トレーニング後にきちんと疲れが取れるように循環錬気で手伝っていたりする。
それと……魔王国側と打ち合わせして、同盟各国にレースの中継映像を届けたりする計画も立っているな。そのあたりはファンゴノイド族のボルケオールとパペティア族のカーラが準備の主導をしてくれている。
今日も今日とてティールは頑張っているようで。
メルヴィン公やミレーネ夫人、グラディス夫人も訓練風景を見学に行きたいということなので、みんなと一緒にボートに乗ってティール達が訓練に使っている区域まで遊びに行くこととなった。
ボルケオールとカーラ。魔界からボルケオールの護衛として一緒にやってきたディアボロス族のベリトも同行している。
「いやはや。ティール殿は元々相当泳ぎが達者と聞いておりましたが、そこまで並々ならぬ想いで臨もうとしてくださっているとは。メギアストラ陛下もお喜びになりますな」
ボートに乗って現場に向かう途中で、ボルケオールが目を細めて言う。
「当人は泳ぎが得意で普段から楽しんでいますからね。魔界の海の民と競争できるとなったわけですから、気合も入ってしまうのでしょう」
笑って応じる。ティールはマギアペンギン達の中でも屈指の速度で泳ぐことができる。出会った過程にしたって、仲間達を守る為に囮役を買って出たからだし、こと泳ぎに関しては自負があるのだろう。
俺達がティールの訓練しているところに近付くと、マギアペンギン達が俺達を発見して反応する。
先頭をやってくるのはティール。魔界の水路レースは運用に即しての運搬競技ということで、レギュレーションに則った荷物運搬用のカプセルのようなものをベルトで身体に括っているティールである。
ボートから良く見える距離を横切るように動いて、側面まで来ると急浮上。水面上に跳び上がりながら一声上げて歓迎の意を示してくれる。
それに続くようにマギアペンギン達が次々と跳び上がって声を上げては波しぶきを上げて着水していく。
「おお。歓迎してくれているようだな」
「愛らしいものですね」
みんなが声をあげ、メルヴィン公が楽しそうに笑って夫人達と笑顔を向け合う。
グラディス夫人が笑うとローズマリーに面影が重なる部分があるな。時折ローズマリーが油断して見せる時の笑顔に近い。
マギアペンギン達はそのまま編隊を組むようにして俺達の周囲をぐるぐる回ったりしてから、やがて水面に顔を出し、フリッパーを振ってきた。
「訓練頑張ってるね」
そう言うとティールがこくこくと首を縦に振って声を上げる。みんなで来てくれて嬉しいとそんな想いが翻訳の魔道具で伝わってきて、こちらとしても笑みが浮かんでしまうな。
海の民も見学というか応援に来ているようで。グランティオスの大使であるロヴィーサや、スキュラのキュテリアも顔を出す。
「ああ、こんにちは」
「ふふ、お邪魔してます」
「ティール達が頑張っているようだから、手伝いに来ていたの」
二人に挨拶をするとそんな風に応じてくれた。水流を使って流れに逆らって泳いだり、逆に流れに乗って加速した時にどのぐらいの速度ならどのぐらいの小回りが利くのか、等の検証をしてくれているそうだ。荷を運びながら体力をつけたりコーナリングの巧みさが上がったりと、色々有意義な訓練になっているようである。
「俺の方でも、色々用意してきたんだ」
術式を刻み直したメダルゴーレム達だな。
水の中に入れると、すぐに細く広がって――発光しながらお互い連結しあう。
狙いとしては単純明快で……水のゴーレムが自身の身体に色を付けて、光のフレームで水路を模したトレーニングコースを構築してくれる、というものだ。
コースの内壁に当たる空間に触れたりニアミスすると、その部分も発光させるという仕様だな。
実際の水路では水流によって加速させられる形なので、それらも踏まえて内側に水流を作る担当のメダルゴーレム達も用意してきている。
加速ポイントは随所にあって、闘気や魔力の使用は禁じられているので、如何に流れに乗れるか、速度を殺さずにコーナリングを上手く決められるか……というのがタイム向上の決め手になるだろう。
また、壁面への接触等は荷物の安全な運搬という観点から言うとマイナスなので、荷物として運ぶ魔道具が感知するそうだ。
壁面にぶつかるとポイントが減算されて、その値が一定値以上で失格になってしまう。競技中の闘気や魔力の使用といった反則も魔道具が感知するので失格の対象になってしまうな。
ティールのトレーニングも、競技の内容を前提にしたものだ。身一つで闘気や魔力もありならティールの遊泳能力はかなり抜きんでていて目を見張るものがあるが……荷物を引いて、且つ闘気等も無しでぶつからないという条件を加味すると、やはり訓練は必要になってくるからな。
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