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番外1794 農園設置に向けて

 それから二日程の滞在を経て――マヨイガから帰る日がやってきた。都に転移門で戻り、そこからタームウィルズの転移門へと飛ぶことになるが、その際カギリやその眷属、ユキノやコタロウを始めとした集落の面々も同行するということで話が纏まっている。


 この辺は観光や外の見学も兼ねるが、今後交流が増えることを考えてのものだな。


 特にカギリはセラフィナと同じ過程を経て復活したということもあり、俺とは結構深く縁が繋がったようで。俺に何かあると血族の危機を感知するのと同じように感知できるし加護や祝福も届く。


 まあ……神格を持つが故に、高位精霊達と同じで、気軽に顕現して自らが動いて、というわけにはいかないけれど。

 そんな事情もあり、カギリには他の高位精霊とも面識を持っておいた方が良いだろうという判断だ。


 ちなみにカギリの加護や祝福は無病息災、武芸や学業の成就といった成長や教育に関わるものだ。子供を持つ親としては有難いことである。

 他にも戦場においては霧を発生させて姿を隠す、身を守るということもできるということで……こういう育成や守りの方面で力を発揮するというのが本来の、護り神としてのカギリの在り方なのだろう。


 当人は武神や軍神としての性質を備えているとはいえ、それは信仰していたのが武門の一族だからだ。そもそも神自らが前に出て暴れるというのは……呪いを受けてしまったという結果から見ても避けるべき事態だしな。


「――またのお越しをお待ちしています」


 マヨイガが一礼して俺達を見送ってくれる。

 レイメイ、御前やオリエ。妖怪達も見送りに来てくれているな。


「滞在中はお世話になりました」

「楽しかった、です」

「またね」


 ユキノやコタロウ、ウタも、見送りに来てくれた妖怪達に挨拶をして回る。子供達と妖怪達は滞在中に仲良くなっているからな。中庭で河童の子供達と相撲を取ったり、一反木綿に乗せてもらって空を飛んだり……かなり楽しそうにしていた。


 妖怪達は滞在中オリヴィア達の顔も見に来てくれた。子供達も妖怪達にあまり物怖じしないということもあって、お互い気に入っていたように思う。

 アイオルトはケウケゲンの毛並みを気に入ったらしく、挨拶に来てくれたところで毛先に触れて嬉しそうな声を上げていた。対するケウケゲンも目を細めてうんうんと頷いたりしているな。


 ちなみにケウケゲンについては病魔をもたらす等と口伝で言われる妖怪ではあるのだが、ヨウキ帝曰く、妖怪達の場合、気に入った相手に対しては自分の司る力を逆転させることも可能というのも往々にしてある話ということで。ケウケゲンもまた、そういった能力を備えていた。


 病魔を吸い取っていくこともできるそうで。まあ、なんだ。子供を持つ親としてはカギリの加護と併せて有難い話である。


「そういう加護や能力は心強いな」


 そう言うと、ケウケゲンはシューシューと呼気を漏らすようにして身体を揺らし、喜びを露わにしていた。

 ジョサイア王やフラヴィア王妃に対しても向き直って一礼していたりして。


「いずれ余らの子にも加護をもらえる、ということで良いのかな、これは」

「ふふ。頼もしいことです」


 こくこくと頷くケウケゲンに礼を言って握手を交わす二人である。


「ふっふ。それではな。またいずれ、こちらかフォレスタニアにて会うとしよう」

「はい。こちらにもまたいつでも遊びに来てください」


 そんな光景を横目で見ながらも、御前にも笑って応じ、レイメイやシホ、オリエとも言葉を交わす。カリン、ユズ、レンゲには何故だか握手を求められたりしたが、当人達は楽しそうなので良いだろう。


 そんな調子で妖怪の里の面々とも別れを惜しむように挨拶を交わし、俺達は転移門を使って帰途に就いた。




 都を経由し、転移門の輝きと共にタームウィルズへと戻ってくる。光が収まると――カギリの眷属達や集落の子供達が周囲の風景を見回し……そうして「おお……!」と感動の声を上げた。


 西国は建築様式が大きく違う、というのは伝えていたからな。特に……王城セオレムに関しては迷宮が関わっているということもあり、普通の建築物ではない。

 集落の子供達は外を見回して、最初に王城を探したのだろう。だがまあ、それは簡単な話だ。見上げれば視界に入ってくるのだから。


「ふふ。私も初めてタームウィルズに来た時はセオレムを見て感動したものです」


 そんな子供達の様子に、アシュレイが目を細めて言った。


「俺もだな。街道を進んでくると見えてくる、あの眺めは好きだよ」

「あの丘からの眺めは良いですね」

「高いところから一気に全容が見えますからね」


 俺の言葉ににこにことしながら頷くグレイスやアシュレイである。城の全容と海とが見えてくるあの景色は、BFOの頃からお気に入りだ。


 そのままみんなで転移港の迎賓館へと進むと、王城からの迎えということでメルセディア達もやってきていた。


 礼装を纏った騎士団の姿であるが……やはり子供心を刺激するものなのだろう。タケルやソウスケといった面々は感激した面持ちで目を輝かせていたりする。

 武官達の姿は装備などの様式が多少違っても、やはり男の子としては心惹かれるものがあるのだろう。


「ふふ。喜んでもらえて何よりだ。ヒタカノクニでは温かく迎えてもらったからな。こちらとしても歓待に力がはいるというもの」


 ジョサイア王とフラヴィア王妃の護衛も必須だが、ヨウキ帝やユラ、ミツキにカギリも賓客だからな。まずは出迎えて来訪を歓迎するというのはいつも通りだ。それが終わればカギリやユキノ達にはフォレスタニアに来てもらい、そこで改めてミシェルとも引き合わせて、転移門の設置や幽世での農園の整備といった話になっていくだろう。




 ――王城での歓待は、カギリや眷属、血族の面々にもかなり好評だったようだ。

 フォレスタニアへの案内ということで迎えにいったが、特に集落ではあまり娯楽がなかったということもあり、ユキノとしては幽世での祭りと併せて「夢のような時間でした」と、そんな風に語ってくれた。竜騎士達の姿はやはり子供達にとって格好いいもののようで。移動中も興奮冷めやらぬといった様子で色々と語っていた。


 迷宮の話も話をして知っているからか、カギリの血族の中には月神殿から地下に通じる螺旋階段を下りていくと少し緊張した面持ちの者達の姿も見受けられた。

 だが、それも石碑でフォレスタニアへと転移するまでのことだ。段々と周囲の状況を理解すると、鏡のような湖面に映るフォレスタニア城を目にして、セオレムを見た時と同じように感動の声を漏らす。


「何とも……心地の良い魔力だな。さぞや力のある御方がいらっしゃるのだろう」


 カギリは城の方を見ながら言う。ティエーラ達の力を感じ取っているのだろう。カギリも護り神の神格がある霧の高位精霊と言っても良い存在だから。


 石碑のエレベーターやフォレスタニアの活気のある街並み。城へと続く橋の動く歩道等々、城に移動するまででも色々と見るべき所が多い。橋に差し掛かると、歓迎するというようにティールを始めとしたマギアペンギン達がマーメイドと一緒に水面に顔を出して、大きくフリッパーと手を振ったりして迎えてくれる。


「ふふっ。みんな元気ね」


 それを見て嬉しそうに微笑むイルムヒルトである。コタロウ達も驚きつつも手を振り返し、喜んでいるようで何よりだ。


 そうして俺達はフォレスタニア城に到着する。セシリア達に歓迎されて、カギリやユキノ達はまず、迎賓館へと通されるのであった。

いつも拙作をお読みいただきありがとうございます!


今月、1月25日に書籍版境界迷宮と異界の魔術師16巻が発売予定となっております!


詳細については活動報告でも掲載しております。また、今回も書き下ろしを収録していますので楽しんでいただけたら嬉しく思います!


ウェブ版、書籍版共々頑張っていきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] >「何とも……心地の良い魔力だな。さぞや力のある御方がいらっしゃるのだろう」 カギリ「ん?唐辛子と別の国の山椒の香り?」 てぃえーら「ドキッ!」 こるてぃえー…
[良い点] カギリは練兵場の隅の方を見ながら言う 土俵だと
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