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番外1782 祭りの会場にて

「う、ん……」


 ――目を覚ます。意識が浮上してくると心地よい体温や鼓動が身近に感じられた。マルレーンがそっと頬を当てるようにして、俺の脇腹あたりを抱擁しながら寝息を立てている。

あどけない寝顔で……俺も朝から頬が緩んでしまうな。

 マルレーンは……眠っている時はあどけない印象がより強くなる。最近は良い意味で大人びた表情も浮かべるようになっているというのがアルバート達の評であった。

 アルバートやオフィーリア、ペネロープといったマルレーンと親しくしている面々に言わせると、前は気を張っていたから外ではもっと凛とした表情を見せていることが多かったという話なのだ。


 それら諸々も含めて「安心している姿を見せている時間が多いのはテオ君のおかげ」と感謝されてしまったが……これは俺だけでなく、グレイス達やアルバート達も含めたみんなが身近にいるからというのは大きいだろうな。


 眠っている時の表情が無防備というと逆側の手を握っているクラウディアも、だろうか。クラウディアの場合は普段が大人びているから、寝顔が肉体年齢相応でギャップがあるというか。安心しているという話からすると、こういう表情を見せてくれるのは俺としても嬉しいものがある。


 そっと指を絡めている手に力が入って、どんな夢を見ているのか、くすくすと楽しそうな笑みを見せているクラウディアである。


 そうやって朝からみんなの寝顔を見せてもらって和ませてもらっていると……遠くから太鼓や笛の音が聞こえてくる。祭りの開催を伝える囃子の音色だ。


「んん……おはようございます」


 と、その祭囃子の音色で身じろぎしたグレイスが薄く目を開けて、視線が合うと微笑みを見せる。


「うん。おはよう」


 それを機に、みんなも目を覚ましたようだ。和室への宿泊ということでみんなは浴衣姿だったりするのだが……眠っている間に胸元や太もものあたりが少しはだけたりしている。


 その辺わかっていてポーズを決めるシーラであったり、少し頬を赤らめつつ胸元を整えるローズマリーだったり反応は様々である。俺としては朝から眼福であるが。


 そんな調子でみんなと朝の挨拶を交わし、身支度を済ませ、子供達の身の回りのことを行う。体調は……すこぶる良いな。みんなとの昨晩の循環錬気もあって、魔力はかなり研ぎ澄まされたものだ。


「いいね。循環錬気も数日空いていたから、いつにも増して体調がよく感じる」

「ふふ。私もみたいです」


 俺が掌に魔力を集中させて言うと、アシュレイも胸元に手をやり、きらきらとした魔力を見せて微笑む。


「私も絶好調だわ」


 ロメリアをあやしながら頷くイルムヒルトである。母子揃って尻尾が上機嫌そうに揺れているな。みんなも好調とのことで何よりである。子供達も上機嫌そうにしているしな。生命反応の輝きも好調であることを示している。


 そうして朝の支度を終えて部屋を出る。

 廊下を進んで会議室代わりにしている広間へと向かうと、みんなもそこで待っていた。


「おはよう。みんな」

「いい朝だね」


 と、にこやかに朝の挨拶をしてくるのは母さんとユイである。サティレスも穏やかに「おはようございます」と一礼してきた。


「うん。おはよう。お陰様でこっちは調子も万全だよ」


 朝の挨拶を返しつつ、魔力を掌に集中させて調子の良さを見せておく。


「ゆっくり休めたみたいね」


 母さんがそれを見て満足そうに頷く。

 テスディロス達氏族や、御前達。ヨウキ帝、ジョサイア王とフラヴィア王妃、それにこっちに戻ってきたユキノやコタロウ、ウタといった面々とも顔を合わせて朝の挨拶を交わしていく。


 ちなみに祭りの本番は夕刻あたりからになるだろうか。提灯による演出を行うから時間を合わせた形だ。

 幻影とはいえ、集落と幽世の面々が一堂に会することになるからな。それまでは、食事をとりつつ交流を行う時間を確保している。


 交流や祭りの最中はソウスケ達やその親達も同じ祭りの会場に居合わせることになるが……子供達は仮面を被って集団行動しているので直接接する機会はもう少し後だ。

 互いに遠目から無事を確認することぐらいはできるかな。まあ、段々と距離を詰めていってもらえばいいし、お互い落ち着いているので問題はなさそうだが。


「皆の方はもう準備もできていますよ」


 テンドウが教えてくれる。

そうして俺達はみんなが揃ったタイミングで会場へと移動することとなった。

 祭りの開催にはまだ少し早いけれど、会場の出来栄えなども見ておきたいし、挨拶もあるしな。


「これは――すごいな」

「紙と木と箔に染料だけでここまでのものになるというのは驚きですね……」


 と、広場の様子を見たジョサイア王やフラヴィア王妃も感心したように声を上げている。

 城と城の間に作られた広場は……すっかり様相を変えていた。あちこち紐で渡され色とりどりの提灯や紙、金箔銀箔で飾り付けられて相当に派手なものだ。


 竹ひごと紙から長年提灯を作ってきたということもあって、幽世の住民達の工作能力はかなりのものである。


 そこで単純な提灯だけでなく、竹ひごで立体的な灯篭を作ったり山車のようなものを作ったりしてはどうかと提案してみたのだが……。それは良いと幽世の職人面々が相当やる気を燃え上がらせていたようだ。こちらとしては青森の有名な祭りにあるような山車灯篭にヒントを得ての提案だったのだが……その案が幽世の者達の技術力と完成に上手くはまったというかはまりすぎたというか。


 若武者の立体灯篭だったり、和風のシャンデリアかと見紛うばかりの金襴の吊るし飾りだったりで……いや、これは相当なものだ。ヨウキ帝も「おお……」と声を上げている。


 元々活動時間が幽世から補強されているということもあって、住民達は休息をあまり必要としていないから、かなりの勢いで製作活動に従事していたようである。


 元が実用性の強い飾り気があまりない広場だっただけに、これだけ変化が出ていると目を見張るものがあるな。

 絢爛と言って良いが、華美にはなりすぎず品があると感じられるのは、元々質実剛健な武家であるからだろう。


 広場の中央は一段高い舞台になっているが、飾り付けられたその舞台の上では幽世の住民達が祭囃子を奏でて祭りの雰囲気を温めている、といったところである。幽世の住民達の衣装も着飾ってきていて、見た目にも華やかなものだ。


 さてさて。そんな風に飾り付けられた広場であるが……端の方には屋台もあって、そこではゴーレム達がみんなの食事を作っていたりする。

 ラインナップとしては焼きそば、お好み焼き、リンゴ飴に綿あめ、かき氷といったところだ。資材やらは転送魔方陣で持ち込み、光球の術式やゴーレム作成の術式によって幽世と集落側の双方に即席で屋台をでっち上げたわけだが……まあ、急造の屋台にしては中々の完成度に出来たと思う。


 祭りが盛り上がるからこそカギリの覚醒にも効果が出るわけで、この辺も力を入れるべき部分だ。

 流石に決戦が控えているのでお祭りに浴衣姿で参加とはいかないものの、こうやって祭りっぽくなっているのは楽しくなってくるな。


 食事は屋台で作ったものを、ということになる。

 広場に隣接した城の一角を休憩所代わりに改装してあるので、焼きそばやお好み焼きを受け取ってから朝食だ。


 お茶や茶菓子等も離宮側で準備をしてくれたのでそれらを転送魔方陣で持ち込んでいたりする。みんなで休憩所に腰を落ち着けて食事をとることとなった。

 休憩所から広場の様子も一望できるようにしてあるので、祭囃子に耳を傾けながら食事を楽しむことができるというわけだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] >光級の術式や 光球でしょうか? リンゴ飴まであるとはw 姫リンゴもあったのか通常サイズのリンゴを使ったのか気になるところです。
[良い点] 目を覚ます、コルリスが抱き枕化して野生を全く感じさせない寝顔を晒している
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