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番外1778 集落の変化と共に

「……というわけで私達からは両親を含め、希望者を幽世に招くことに問題はありません。ソウスケ達からも、両親達については様子を見ながら会うかどうか考えさせて欲しいということでしたので、その辺は私達や貴方達。それにソウスケ達が各々の様子を見て判断していくのがいいでしょう」

『分かりました。ご両親に会わせられるかは様子見が必要ということを伝えておきます』


 集落の人々が帰った後の集会所にイチエモンが水晶板を持ってきて魔道具での通信ができることを、お互いの自己紹介を兼ねながらミクリを含めた長老達に実演する。

 その後でテンドウがユキノに返答をする。


『その役割は儂らが担おう。ここまでだけでもユキノは働き尽くめと言っていい』

『そうじゃな。こちら側のことはせめて儂らがやらねば顔向けできんよ』


 長老達は幽世の住民達を紹介されて少し緊張していたが、テンドウが落ち着いた物腰であるためにユキノとのやり取りを見て安堵した部分があるようだ。二人のやり取りを見てそんな風に申し出ると、テンドウも穏やかに頷く。


「では、そちらのことはお願いしましょう。外のことは私達には分かりませんからね」

『お言葉に甘えさせていただきます。その……ありがとうございます、お爺ちゃん、お婆ちゃん』

『なんの。礼を言うべきは儂らの方じゃからな』

『うむ。ユキノはようやっとるよ』


 ヨシカネと共にミクリも微笑んで頷く。長老達にとって、ユキノはよくできた孫娘といった雰囲気だな。


『それにしても朝廷や国外の方々とは……驚きですのう』

『いや全く。どうかよろしくお願いいたしますぞ』


 と、長老達は俺達にも改めて頭を下げてきた。


「こちらこそよろしくお願いします」


 俺もそう応じて、ジョサイア王やフラヴィア王妃、ヨウキ帝やユラも笑って応じていた。そのまま親睦を深めつつ確認を取る意味合いで、世間話やこの後の段取りについても話をしていく。


『――しかしそうなると、集落側で留守にする者達が祭りに参加できないというのは少し寂しい気もしますね』


 そう言ったのは離宮側にいるユラであった。


「共に参加というのであれば、幽世側でも集落側でも祭事を行うというのは重要かも知れませんね」


 テンドウが顎に手をやり、思案してから言う。それは……良いかも知れないな。留守を預かる側もやることができるので、ただ待つよりは祈りや想いの力も増すはずだ。

 そうした考えを説明すると、長老達も同意し、ユラやミツキがそういうことならと集落側の祭りに協力したいという旨を伝える。


「では、祭りの準備期間、日常で行っている仕事を代行するゴーレムをそちらに派遣しましょう」


 畑仕事やら採集やら、やることもあるだろうからな。メダルゴーレムでルーチンを組んでやれば良い。そうすれば準備時間が短くても人手等のリソースをそっちに集中できる。ついでに、お互いの祭りの様子を見られるように仕込みもしておくか。臨場感を高めれば、祈りや想いの力もより強くなるからな。




 そんな経緯もあって話も纏まり、幽世側と集落側……双方で祭りと骸対策に向けて準備が進められることとなった。集落側に話を通したということもあって俺達も挨拶に行かせてもらったが、朝廷や国外からの賓客ということもあって結構緊張した様子であったが、集落内の雰囲気自体は案外明るい。


 子供達が無事だと分かり、神隠しについても何とかなりそうな道筋ができているからだろう。家々の戸口からお辞儀をしたりして迎えてくれる集落の人々である。集落の子供達に関してもややおっかなびっくりながらも興味津々といった様子で、親達と共にお辞儀をしてくる。

 歓迎というわけではないが拒絶されているわけでもない。


「おお……。テオドール殿に奥方様達……。直接お会いできて光栄に存じます。子供達を助けていただいたこと。助力をして下さったこと。里の者達を代表し、お礼を申し上げますぞ」


 集会所で顔を合わせてみんなと共に挨拶をすると、長老達は丁寧に迎えてくれた。


「いえ。僕がしたいことでもありましたから。理由はいくつかありますが、子供達が生まれたばかりで……あまり他人事とも感じられなかったと言いますか」


 そう言ってオリヴィア達の髪を撫でると、嬉しそうに子供達がきゃっきゃっと声を上げる。長老達はそんなオリヴィア達の様子に表情を綻ばせる。長老達への自己紹介は事前に水晶板越しに先に終わらせているからな。直接会って理由も伝えると、割合緊張も解れてくれたようだ。


「おお……。可愛らしいものですのう」

「助力して下さる理由にも得心がいきました。義に厚いお方であらせられる……」

「義に厚いというのは僕よりも快諾して下さったジョサイア陛下、ヨウキ陛下のお二方の方かと。というわけで、改めて、よろしくお願いします」


 納得したように頷いている長老達に俺も笑って応じる。


「ふふ。よろしくお願いしますね」

「ん。よろしく」


 グレイスやシーラ達も俺達に続くように応じる。ユラとミツキも集落側の祭りを盛り上げるのに一役買うという旨を伝えて、


「あれが高名な術師殿……」

「うちの長老達みたいな人かと思ってたが……。お若い方なんだな」

「遥か西の国か。どんなところなんだろうな」

「里の外も知らねえからな……。想像もつかねえ……」


 と、そんな風に遠巻きに話している声もあるな。集会所に手伝いに来ている若者達だ。噂話に興じているものの、悪意や敵意は感じない。俺達としてはありがたいことだ。

 さてさて。集落の人達への挨拶に来たというだけでなく、他にも話があるから直接来たのだ。まずはそちらの用件を済ませてしまおう。


「人手が足りなくならないように術を活用しての助っ人を用意してきました。ヒタカノクニで言うところの、式神のようなものですね」


 メダルを組み込んだゴーレム達を構築していくと、集落の人達は目を瞬かせていた。

 ゴーレム達は丸っこくて背の小さい、威圧感のないデザインにしてみた。目も丸くてずんぐりとしたシルエットだ。

 並べてお辞儀をさせたり踊らせて見せたりすると笑い声も漏れていたから、集落の人達からの受けも良さそうに思う。今は集会所に来ていないが、集落の子供達にも気に入ってもらえるといいな。


 というわけで……集落側への挨拶も無事に終えて――幽世側共々、急ピッチで祭りの準備が進められていくこととなった。


 祭りの形式こそ鎮静から活性化の方向に変わったものの、集落側には賑やかな祭りを行う風習そのものが引き継がれていない。あまりそういったことに向く品々もなかったが……一方で幽世側は普段から子供達に楽しんでもらおうと歌や演奏、踊り、提灯などの装飾品に力を入れている。

 幽世でも使われている楽器や提灯を集落側に持ち込み、また、ヨウキ帝も都から舞や演奏のできる人員を手配して転送魔法陣で送り込み、飾り付けをしていく予定だ。集落側もそれほど時間を置かず、祭りらしい華やかな装いになっていくだろう。


 幽世側は城の一角――広場を利用して祭りを行う。普通祭りと言えば町中で行うものなのだろうが、カギリの覚醒が促されれば骸が出現する危険地帯になるのだから致し方ない。


 城の内部とは言え広場の方も覚醒が十分に促進されて後戻りできなくなった段階で城内に構築した結界に避難することになるな。広場にはかなり強固な魔法的防御を施しているし、転送魔法陣の敷設や直通路の魔法建築もしているので避難に際してはスムーズに進められるはずだ。後は城内と集落から祈りを届けるという寸法だ。


 ソウスケ達の両親については――幽世側から受け入れるという旨を伝えると、神妙な表情で頷いていた。まだソウスケ達に会わせるには時期尚早だから、準備の間様子見をしつつ、必要であれば話も聞いて判断していくことになるだろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 神事と考えれば城の敷地で祭りが執り行われるのも違和感はないかと。 夜店がズラッと並べば感じるかもしれませんがw
[良い点] 獣、村の子供に追い回され尻尾の毛が斑に
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