番外1774 目的と対策と
「では、始めていきます。問題がありそうでしたら遠慮なく言って下さい」
そんな風に前置きをしてから、改築作業に着手する。方法としては城の余剰な部分を削り、そのままそれを改築用の建材として最利用させてもらおうというわけである。
但し、外側からの城の見た目はそのままだ。建造物としての強度を残し、敵のそこからの侵入を防ぐという意味でも外観や外からの護りに必要になる部分には手を付けない。場合によっては柱や梁を増設して補強も行う。
兵力を潜ませて配置できるよう、削った側も大きな広間にしておくのが良いだろう。何か仕込むのにも便利な空間として使えそうだ。
方法が方法なので、手違いが起こらないようにテンドウ達も作業を見に来る形だ。内側から資材を持ってくるという作業なので、セラフィナも俺の肩に乗って安全確認をしてくれる。
「純粋に、どんな作業になるのか見てみたいというのもありますが」
と、そんな風にテンドウは言っていたが。何はともあれ、テンドウ達に見守られる形で作業は始まった。
マジックサークルを展開。資材の種類ごとに光球の術式に溶かして分離し、ある程度溜まったらゴーレム化して整列させる、といった具合だ。
ブロックになった資材が四角い輪郭のゴーレムとして変化し、廊下や空き部屋に整列していく。
「多数の高度な術式制御を並列して行う。離れ業ですね。里や私の知る外の歴史を振り返ってもここまでの術者はいないと思います」
テンドウが言うと、術者タイプの幽世の住民もこくこくと頷いていた。
「といっても、ゴーレムに対する指示は簡単なものですし、配分の補助をしてくれる装備品もありますからね。見かけ程の並列処理はしていませんよ」
ゴーレムは最初に動かし方等に基準を決めて、後はその通りになるよう条件付けによって自動で動かしている。組んだプログラムで対処できない事態のみこっちに信号を送ってから待機して制御を要求してくるが、それぐらいのものだ。
魔力は少しずつ割いているがウィズやジェーラ女王の宝珠による補助効果もあって、前よりゴーレムの遠隔操作や維持も簡単になっているからな。制御という意味では見た目程の並列作業ではなかったりする。
「とはいえ、そのあたりの魔力量やその配分や管理も相当高度な水準というのは疑いようもないがな。あの光球の術式自体、かなりの術のようだし」
ヨウキ帝が笑って言うと、テンドウ達は納得するように頷いていた。
セラフィナと共に建物の安全性や強度を確認しつつ、十分な量の資材を確保。大部屋として体裁を整え、補強してやればこの場での工程は一段落だ。
体育座りのまま待機させていた資材ゴーレム達に外へ向かうよう命令を下す。寄宿舎以外の城はどこも相当入り組んだ構造だが、立体の見取り図は既にあるからな。外までの移動は大して苦労しない。
改築予定の場所まで移動したら更に他の場所から資材を貰いに向かう。それを何度か繰り返していけば十分な量の資材確保ができた。
「よし。それじゃ目的の場所まで移動しようか」
規則正しく整列したゴーレム達を連れて、改築予定の城へと入っていく。子供達も寝泊まりしている場所なので安全には十分に気を付けよう。
ゴーレム達にはその辺の安全面でのルールもほどこしてはいるし、女官達もきちんと距離を取るように見てくれているようだけれど。
そんなわけで現れたゴーレムの隊列に対して、目を輝かせたり瞬かせたりしながら眺めてくる子供達に見送られつつ現場に移動していく。
到着したら早速話し合いの内容に沿って改築を施していく。壁を退かしたり新しく作ったり。構造を変化させると同時に補強を行う……といった具合だ。
骸達に侵入された場合に誘導する経路を作り、兵力を配置する場所を整備。これらは生活している空間の上層と下層に配置される。地上と空からの侵攻に備える必要がある。
同時に建物自体を壊されることも想定しなければならない。他の棟に建物への攻撃を躊躇わせるトラップを仕込み、本命には更に別のものを仕込む、というわけだ。
まずは壁や床、天井の建材の要所をゴーレム化。魔石とミスリル銀線を埋め込み、立体魔法陣を構築していく。魔法陣で構築するのは西方の結界術の応用ではあるが、補強と防御を兼ねた立体的な結界として仕上がる、というのが肝だ。
これにより建物の根幹部の崩落を防ぎつつ、子供達がいる中枢部への攻撃や侵入をも防ぐ、というわけだな。外殻にあたる壁、床、天井のどこを崩しても中枢部にある生活空間は結界が護り、支えられて残されるという寸法である。
外部からの侵入可能な構造部分は迎え撃つための場所であり、罠であるが、最終的に残る中枢部への侵入はどうやっても結界そのものが阻害するというわけだ。
「城への攻撃はあの方の領域への攻撃。覚醒を促すことになりますが……それは骸達にとっても本格的に動き出したあの方と戦う、ということになりますからね。相互で繋がっている以上は決着がつくというよりは呪いが深まっていってしまうのだとは思いますが、それでもあの方が勝るでしょう」
テンドウはそう言って目を閉じる。直接ぶつかり合って勝てるなら恨みも晴らすことができているだろうからな。そうして目を開き、更に言葉を続ける。
「過去の例から言うと、カギリ様の覚醒に直接結び付くような行動はあまり見られず、子供達への攻撃を最優先で動いてきました」
「覚醒してしまえば、子供達を襲っていられるような状態ではなくなる、と認識しているから、でしょうか?」
「或いは犠牲者を出すこと自体が目的とか……。人質にとって戦いを優位に進めたいというのも考えられるかしらね……」
グレイスが眉根を寄せると、ステファニアが顎に手をやって思案しながら答える。
目的としてはそのあたりが考えられるか。いずれにせよこうした破壊への備えは、子供達を狙う動きへの対策から、更に予想される骸側の出方に対しても先手先手で対策を打ったものだ。
最終形としては俺とカギリの戦いになる。子供達の安全や味方の退路を確保する意味でも、結界で守られたエリアは必要になるからな。対策の面もあるけれど、今構築しているものの最大の目的はそこにあると言えよう。
俺とカギリが戦う場所はそうした安全圏の外になるが……骸達に横槍を入れられるというのであればそれはそれで構わない。戦いに巻き込んでその最中で叩き潰せばいいだけの話である。
カギリにとって骸は本来の敵だから、そういう展開に持ち込むのに苦労はあるまい。
かといって、カギリに骸の味方だと誤解させるのは本意ではないから、骸の力を借りるような形でカギリとの戦闘を優位に進めるようなことはしないけれど。
話をしながらも結界による中枢部分の安全確保と補強をしたところで、待ち伏せ用の構造部分も構築していく。ゴーレムが変化してゴーレムメダルやミスリル銀線を飲み込み、柱や壁、床、天井となっていく。
これはヴァルロス達と戦った時、砦にも採用したものの発展形だな。分岐点や通路を変化させて堂々巡りさせたり分断させたり、相手を望む場所に誘導したりといった事が出来る。元々入り組んでるということもあってかなり大きな効果を見込めるな。
本格的な魔法建築を施すのはこの棟だけであるが……骸対策は他の棟でも仕込むからな。平行してヨウキ帝の結界構築の支援をしたり集落側の相談等の様子も見せてもらいつつ、しっかりと進めていくとしよう。