表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2553/2811

番外1766 幽世での交流を

 食事の準備を進めていると、テンドウがやって来て面をみんなに配ってくれた。面と言っても髪飾りに近いものだったりするが、この短時間で用意できるあたり、面は用意があるとか手作りであるというわけではなく、魔法的な生成ができるのだろう。


「あまり大きさは関係ないようですね。もう少し小さく――髪留めぐらいにしても効果があるかも知れません」


 と、テンドウは結果に満足そうに頷きつつも改良案を模索しているようだ。


「意匠も良いですね」


 俺の言葉にみんなも頷いて、テンドウにお辞儀をしていた。話していた通り、花や鳥をモチーフにしたデザインだな。刀や弓矢といった武器をモチーフにしたものもあったりして。テスディロスは「これがいい」と、槍の彫刻が施されたものを選んでいたが。


「まあ、必要なものですからね。礼を言われるような事ではありません。気に入って頂けたなら何よりではありますが」


 というわけで、言葉が通じるか動作テストをする意味合いも兼ねて女官達が配膳等を手伝ってくれて、やがて子供達にも食事が行き渡る。

 パンとシチュー、フライドポテトにマカロニサラダ、それに加えてデザートといったところだ。


 比較的シンプルだがバランスも良い方かな。子供達は割と期待感を高めてくれているようだ。配膳された食事を前に期待してくれているようである。


 交流の場という事で武官や術師も顔を出し、テンドウが口を開く。


「本来ならば私達がもてなすところですが……何分、普段は食事の用意もないので些か申し訳ありませんね。その分、歌や演奏、舞で華を添えたいと思っておりますよ」

「いえ、突然の話でもありましたから。意外に大きな席になってしまいましたが、子供達に楽しんでもらえたら僕達としても嬉しいですね」


 そう笑って応じる。宴席とは少し違って乾杯するような席というわけではないので、こちらで会食の始まりを告げさせてもらう。


「それじゃあ、冷める前にいただきましょう。みんなにも遠慮なく楽しんでもらえれば嬉しいかな」


 そう言うと子供達も嬉しそうに笑みを浮かべ、食事の席が始まった。


 パンは焼き立てという事もあってまだ温かく、良い香りを漂わせている。パンはバゲット。外側は固めの食感だが、内側はもちもちとした仕上がりだ。塩と砂糖のほのかな味付けの塩梅も良く、シチューとの相性も良い。


 シチューは鳥肉に加えて海老や貝といったシーフードが入ったクリームシチューだ。人参、玉ねぎ、ジャガイモといった具材もたっぷりと入っており、まろやかさや甘味、魚貝類の旨味も良く出ている。


「パンとシチューは相性の良いものにしているから、合わせて食べると美味しいよ」


 そう伝えると、こちらの見様見真似をしつつ口に運んで「ほんとだ!」「美味しい……!」と声を上げる子供達である。


「ん。海の幸は良い」


 と、子供達と共に頷きながら味わっているシーラである。耳と尻尾もぴくぴくと反応して上機嫌なのが伺える。うむ。


 幽世に住んでいる子供達は海の幸を見たことがないようなので、シチューの具をやや物珍しそうに眺めているところも見受けられるな。


 後で海がどんなところなのか、幻影で見せるのも良いかも知れない。


 マカロニサラダは自家製ベーコンやキュウリ、トマト等の野菜と共にマヨネーズで和え、粉チーズとペッパーを適量かけたものだな。こちらはさっぱりとした味わいで食べやすい。


 フライドポテトもだが、取り立てて奇をてらったところはない。ただ、揚げたての香ばしさや程よい塩加減が食欲をそそる仕上がりではある。

 みんなや子供達の反応はと言えば……上々だ。シチューはやや多めに作ったので子供達におかわりもあると伝えると、みんな2杯目も希望していた。


 そうやってみんなで料理を楽しんでいると幽世の住民達も歌ったり楽器を演奏したりと、場を盛り上げてくれた。


 楽器については笛に鼓、三味線に琴といったもので、奏でられる音色も優雅さを感じさせるものだったり、素朴で郷愁を感じさせるものだったりする。

 幽世の住民達が口ずさむ歌については面と翻訳魔法を併用すれば意味が分かるようになったが……今歌っているのは童謡のような内容のようだ。

 夕暮れの田園地帯を兄妹で手を繋いで家路を急ぐ。優しい父母が食事を用意して待っている。そんな内容を歌ったものだ。


 幽世の成り立ちを考えるなら……そうだな。意味は通じなくてもこうした歌を子供達に聴かせていたのはほのぼのとしているというか。


「歌の意味は……こういう内容らしいよ」


 マルレーンからランタンを借りてイメージされる情景を映し出すと、子供達は少しの間驚きの表情になり、次いで嬉しそうにしていた。

 対する女官達も、歌や演奏に込めた意味が子供達にも伝わるのは、やはり嬉しいものなのだろう。 その通りだというようにこくこくと頷いて、また歌や演奏に集中していく。


 さっきまでよりも歌声や演奏に力が籠っているのは……内容が伝わると思えばこそなのだろう。子供達も幻影に見入っているし、こういう事で仲良くしてくれるなら喜ばしい事だ。


 そうしてそれに触発されたのか、イルムヒルトやセラフィナ、ユラやミツキといった面々も歌や演奏を返していた。そちらも歌の内容を幻影にして再現すると子供達共々、幽世の住民達も興味深そうに聞き入る。歌詞の内容は、翻訳の魔道具でも伝わるというのもあり、結構盛り上がったようだ。


 食後にはデザートという事で、果汁で味付けをしたシャーベットを用意しているが……これもかなり喜んでもらえた。幽世は夏の暑さも冬の寒さもあまり感じないが、子供達としては物珍しさも手伝ってテンションを上げていたようだ。


「感謝しますよ。骸達の活動が活性化すると子供達も緊張するのか暗い空気になってしまう事が多いので」


 テンドウはそんな風に俺達に伝えてきた。それは何よりですと笑って応じると、女官達もこくこくと頷いていて。こういうところはテンドウも含めて子供達を大切にしていると良く伝わってくるな。




 子供達と細かな意思疎通ができるようになる、というのは幽世の住民としてはかなり興味のある内容のようで、交流の席で女官達からも尋ねられた。後で幽世にも翻訳の魔道具を、という話が出るとかなり喜んでいたが。


 一方で、タケル達のように古参の子供達は割と何となく幽世の住民達が言わんとしている事を察する事ができる、とのことだ。この辺は付き合いが長いからだろう。


 それでも細かくとなると無理なので、やはり筆談なりテンドウを経由するなりが必要になるとのことであるが。

 そうやって食事と交流の場は盛り上がりを見せていたが、それらも終わり……みんなで集まっての話し合いとなった。


 タケル達、コタロウ達。それからコタロウ達の前に幽世にやってきた世代の子供達といった面々だ。

 前の世代の子供達が説得に参加するかはともかく、話は聞いておいた方が良いだろう、というわけである。


「さて……では話し合いを始めましょうか」


 座敷にみんなで腰を落ち着けて作戦会議である。話し合っていく内容としては……まずこの後の流れだろうか。


「平常ならば鎮静、鎮魂の方向での祭事を行うわけですが……今回はこちらの準備が整った段階であの方を目覚めさせて対応する、という事になりますね」


 テンドウが説明してくれる。

 目覚めさせる方法ならば普通とは真逆。讃えて日々の糧を喜び、もっと力をつけて隆盛するようにと、活気のある祭りを行えばいい、とのことだ。

 過去の問題を精算する意味でも節目となる祭事になりそうだな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 獣も歌い飛ぶ鳥を気絶させて焼き鳥にしていた
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ