番外1765 子供達との交流を
「ふふっ、あったかい」
「この子も手触りがいいね」
ユキノやコタロウ達も落ち着いた。今はウタがコルリスの背中に抱きついたりコタロウがラヴィーネを撫でたり、和気藹々とした雰囲気だ。
「和解できて良かったですね」
と、フラヴィア王妃もユキノと子供達の様子を見て表情を綻ばせていた。そんなフラヴィア王妃の様子にジョサイア王も目を細めて優しそうな眼差しを向けていたりするが。
「お二方には助力を許していただき、感謝しております」
「いや、良い。寧ろ余もフラヴィアもこうして同盟国との友誼に携わる事ができるのは嬉しく思っているのだ。先人から受け継いだ平和を、後世の者達に引き継ぐという想いにも沿うものであるからな」
こうやって同盟各国の平穏に協力ができる、というのは嬉しい、ということらしい。二人は新婚旅行中ではあるのだが……幽世への来訪も望んでいたからな。王位を継承したばかりだからこそ、という部分もあるのかも知れない。
そうしているとテンドウも各所への通達が終わったようで、タケル達と一緒に俺達のところへとやってきた。
「お待たせしました。コタロウ達との話は――無事に終わったようですね」
テンドウはコタロウ達の様子を見て取ると、満足そうに頷く。
「そうですね。話し合いについては落ち着くところに落ち着きました。タケル君達が来たところで、変身を解こうかという話もしていたところです」
テンドウの言葉にそう応じると、コタロウ達もタケル達も、変身を解いた姿に興味があるのか、俺をまじまじと見てくる。
「ふむ。皆気になっているようですね」
その様子に少し笑うテンドウ。頷いて変身呪法を解くと、身体が光に包まれたところで子供達が声を上げた。変身が解けると子供達が驚きの表情を浮かべ、タケルが口を開く。
「術師様っていうから、何かもっとおじいちゃんなのかと思ってた。えっと……思ってました」
「まあ、東国だとどうしても目立つからね。同年代のヒタカノクニの子供じゃないと、こういう作戦も実行できないっていうのもある」
そんなタケルの言葉に苦笑しつつ自分の前髪に触れつつ答えると、コタロウ達が俺達の顔触れを見回して納得したというようにこくこくと頷く。
「というわけで、後で他の子達にもこの姿は見せておこうかなと考えてるんだ。もし聞かれたら、タケル君達からもみんなに説明しておいてもらえると助かるよ」
「任せておいてください」
タケルが自分の胸のあたりを軽く叩きながら請け負ってくれる。うむ。
ユキノとコタロウ達の再会。子供達への説明もこれで一段落といったところか。
「後は作戦と準備ですね。幽世の事を……集落の皆にお話ししても良いでしょうか?」
ユキノがテンドウに尋ねる。
「そう、ですね。ここまで来たら私達も覚悟は決めています。ユキノ嬢の安全が確保できているのならば賛成しますよ」
ユキノを見ながらテンドウが頷いた。
「それについては拙者らも護衛として同行させてもらおうと思っているでござる」
「私達がついていれば幽世の話に信憑性が増しますし、説得する材料も増えましょう」
イチエモンとタダクニが言うと、テンドウも頷いた。
「俺達も、姉ちゃんと一緒に行った方が良いのかな……」
と、コタロウが言う。
「それは――自分の中でちゃんと気持ちに折り合いがついているのなら、かな。これは、私から提案した事だから……村に戻るのなら、きちんと自分の気持ちに向き合って決めて欲しい、と思うの」
ユキノがそう言うと、コタロウ達は神妙な表情で頷いていた。ユキノの返答としては真摯なものだろう。一時的にという形でも集落に戻れば各々が幽世に来てしまった理由と多かれ少なかれ向き合う事になる。他人の事を理由にして自分の進める道を決めるのは良くはないからな。コタロウあたりは、理由であるユキノと話がついているので問題ないとは思うが。
「ええっと……集落の人達に俺達の事、信じてもらえばいい、んですよね?」
そんな風に言ったのはタケルだ。
「そういう事になるね」
「それならコタロウ達より前にやってきた子が一緒に行けば……話を信じてもらう事もできるんじゃないかなって。勿論、その子達が良いって言ってくれるなら、ですけど」
タケルの言う、コタロウ達より前というのは……前の世代の神隠し、ということか。
「年代的には……覚えている者もいるかも知れませんね。ユキノ嬢が話をした際に信憑性の部分で引っかかった場合には、そうした対応も必要になる――かも知れません」
テンドウがタケルの言葉を受けて答える。
……なるほどな。変なところで拗れるよりは良いだろう。
「では、提案ぐらいの形でそうした世代の子に、依頼をお願いできますか?」
「わかりました。それについては私の方で進めておきましょう」
そうテンドウが応じる。では、このまま進めていけば良さそうだな。
ともあれ一旦、コタロウ達は自分の考えを纏めるという事で階下に戻る事となった。
俺も子供達の前に姿を見せておいて、必要ならタケルから間違いなくミカゲであることを説明してもらう、と。それが終わったらまた本格的に話し合いを続けていくという事になるだろう。
子供達への俺の変身を解いた状態の姿見せは、大きな問題もなく進んだ。術師だというからやはり老人をイメージしていた子が多いようではあった。実際は変身を解いてもそこまで年齢も離れていないが。
襖の陰から顔だけを覗かせつつも興味津々といった様子で見てくる子もいて、笑って軽く手を振ると向こうも少し笑ってお辞儀を返してきた。
一通り顔見せを行い上階へと戻る。今はテンドウが人数分の仮面を用意してくれている最中だ。夜からは広間にて作戦会議を行う、という事になるのでその前に食事等を済ませておく事となった。
潜入作戦中は普通の食事というわけにも行かなかったしな。
「階下の子供達にも何か振る舞うというのは如何でしょうか?」
というのは今後の予定を話し合った時のアシュレイの案だ。
テンドウからは問題ないとの返答を受け取っている。幽世が出来上がった当時には保護した赤子の成長を促すために、面を使うシステムもなかったから食事をしていた時期もあったというし。
それに普段は食事をしないものの、外でも暮らせるよう料理や食事の作法を学ぶという意味で時々食事をする事もあるから、期間を空けてから食事をとっても問題ない、という実績もあるそうな。必要なら女官達も手伝ってくれる、とのことである。
「そういう事なら、子供達の分も食事を作るのが良さそうだね」
「折角の機会ですからね。差し支えなければ子供達に見学をさせてやってください」
テンドウはそんな風に言っていた。
信頼関係構築の意味でも交流の時間は持っておいた方が良い。子供達の心持ちも重要になってくるからな。
子供達にとっては久しぶりの食事となる。交流という事も考えるなら……うん。和食より洋食の方が良いだろう。
そんなわけで子供達の食事も一緒に作る事となった。みんなで一緒に食事の用意だ。
簡易の厨房は廊下から見る事ができるので見学してもらうのにも支障はない。子供達への紹介も兼ねられて一石二鳥ではあるだろう。
食材を洗い、皮を剥いて刻み、下味をつけてから軽く炒めて煮込む。
あまり口にした事がなく、食べやすくて子供達にも人気が出そうなものをという事でシーフードを使ったクリームシチューを用意している。
パンも生地から捏ねて工程を発酵魔法で加速。焼き立てのパンを味わってもらおう。
子供達はといえば、廊下に座布団を並べて座って料理の風景を眺めていた。これから食事という事で、面を外しての待機中である。やがて良い匂いが漂い始めると、子供達は目を輝かせながらこちらを見てくるのであった。