表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2551/2811

番外1764 姉弟の再会

「人数分の面を用意しなければなりませんね。皆での細かな意思疎通が可能であればできる事も増えますから」


 城の中へ戻っている最中に、テンドウが思案しながらも真剣な声で言った。


「それは確かに。よろしくお願いします」

「とはいえ、然程時間のかかるものでもありませんよ。ずらして頭に乗せる形でも効果があるのなら必ずしも顔を覆う必要もありませんし、髪飾りに似せたようなものでも良いのでしょうね」

「動物や花の意匠は良いかも知れませんね」


 そう答えると、名案というようにテンドウはふんふんと頷いていた。


「テオドール殿の案は良さそうですね。その方向で考えてみましょう」

「僕の時もですが、子供達に作る時もそうして一つ一つ考えていたのですね」

「なるべくなら、喜んでもらえるものや似合いそうなものが良いですからね」


 俺の言葉にテンドウが答える。子煩悩なのは他の住民達に限った話ではなく、テンドウも例外ではないようだな。


 そんな俺とテンドウのやり取りに、楽しそうに微笑んでいるグレイス達と共に城の中へと戻った。グレイス達だけでなく母さんも含めて俺の変身した姿でにこにこしているようだ。この辺俺がまだ小さかった頃を思い出したり想像したりしているのかも知れないな。


 そうしてやがて、俺達は城の一角に通された。位置的には子供達がいる階層の上階、という事になるそうだ。


「簡易ではありますが、必要な設備を置いても良いですか?」

「と言いますと……厨房等ですか?」

「そうですね。後は風呂、厠あたりになりますか」


 前線基地にもそうした設備を置いたが……まあ後々回収しておかないとな。


「寄宿舎は離れてしまいましたからね。必要なのも当然です。問題ありませんよ。利便性の良さそうなところを見繕って下さい」


 では、そちらは進めさせてもらおう。


 子供達が混乱しないように、説明はテンドウからしてくれるとのことだ。その後で……俺やユキノとの面会という事になるのかな。


 そんなわけでテンドウ達が子供達に説明している間、簡易設備を配置してしまう事にした。


 到着したところで通された部屋と、その周囲の間取りを見ていき、水作成の魔道具、風呂、トイレ、厨房といった簡易設備を配置していく。使用した後の水は木魔法で作り出した容器に溜め、浄化してから溜まり切ったら排水すればいいだろう。容器そのものにメダルゴーレムを埋め込んでおけば諸々手もかからない。簡易風呂の湿気等も紋様魔法を施して対策をしておく。


 作戦会議室も定め、そこに水晶板や転送魔法陣もまとめて配置しておけば一先ずは完成だ。

 ヴェルドガル等との通信状況を確認していると、広場にいなかった住民達や、階下の子供達への通達も終わったと女官が連絡に来てくれた。


「ありがとうございます」


 女官に礼を言うと、案内してくれる、とのことだ。翻訳役としてその事をみんなにも伝える。


「顔合わせ……ですね」


 ユキノは些か緊張しているのか深呼吸していた。コタロウ達に顔を合わせるにあたり、やはりその心情が気になってしまうのだろう。


「ユキノさんならきっと大丈夫ですよ」


 その様子を見て微笑んで言ったのはグレイスだ。


「そうね。共に過ごした歳月で作られる絆というのは、時に当人達が思っているより強いものだったりするものね」


 目を閉じて少し笑うクラウディア。当人達の関係次第ではあるが、ユキノの場合は俺もきっと大丈夫だろうと思う。みんなもそんなユキノを見て微笑んだり頷いたりしていたが、ユキノも覚悟が決まったというような表情で顔を上げていた。


「それじゃあ行きましょうか」


 というわけで心の準備もできたようなのでコタロウ達を待たせている部屋に向かう事となった。廊下の角を曲がってすぐの場所だ。


 襖を開けるとコタロウ達が顔を上げた。


「ミカゲ君……」


 ウタが言う。緊張したような表情のコタロウ達。俺は小さく笑ってそれに応じて、一歩横に退く。


「ユキノ姉ちゃん……!」


 女官に促されるようにしてユキノが一歩前に出れば、コタロウが声を上げる。


「コタロウ……みんなも……。本当、無事でいてくれて……元気そうで、良かった」


 ユキノがコタロウ達の姿を認めてそれから微笑む。


「姉ちゃん!」


 面を上げて、感極まったような表情になったコタロウがユキノに飛びついていた。ユキノはコタロウを受け止めて、その場に両の膝をついてコタロウを抱きしめる。


「姉ちゃん……! ごめん! 俺、姉ちゃんの役に立てなくて……! だから……!」

「そんな……そんなことない……。私の方こそ、寂しい思いをさせて、気付いてあげられなくて、ごめん。ごめんね……」

「ユキノ姉ちゃんが謝ることなんて、何にもない……! ずっと、頑張ってくれてた……! 俺の事だけじゃなくて、皆のためにだって……!」


 そう言ってコタロウは嗚咽を漏らし、ユキノが夜遅くまで起きて薬の調合や材料の採取を頑張っていた事、各家々の患者を気にかけて帳面を付けていた事を涙声ながらも途切れ途切れに伝える。


 それでも、ユキノはコタロウの姉として面倒見が良かったらしい。そんな姉の苦労を見ているから、コタロウはあまり手のかからないようにしようとしていた。


「そんな立派じゃ、ないよ、私は。結局、ちゃんとできてなかった。コタロウの事だけじゃなくて……ウタちゃんや、ソウスケ君……。みんなの事も……もっと早く気付けていたらって……そんな風に後悔ばっかりして……」

「ユキノねーちゃんは、何も悪くなんか、ねえよ」


 そう言ったのは、最初にいなくなった子供――ソウスケだ。子供達はみんなコタロウに倣って顔をユキノに見せていて……。ソウスケは少し照れくさそうにそっぽを向いていた。だが姉弟のやり取りを受けてか、涙をこらえるような表情で鼻をすすりながらも、そんな言葉を口にする。


「家で飲んだくれてる親父の事とか……嫌いだったよ。でもユキノねーちゃんは、俺が一人でいるといつも話しかけてくれたり、森で遊んでるとこ見かけても、それとなくついてきたりしてたろ……。俺がひねくれてたから家の事とか何にも言わなかったけど……ねーちゃんの事は、その……嫌いじゃないよ」


 ソウスケの言葉に目に涙を溜めながらもウタも頷く。


「私は、ユキノおねえちゃんが来てくれるの、いつも楽しみにしてたよ。来てくれると、嬉しかった。それでも熱がある時が辛くて……それで……。だからユキノおねえちゃんのせいなんかじゃ、ないよ」


 そう言ってウタがユキノに寄り添うと、ユキノはウタも一緒に抱きしめる。コタロウは段々と落ち着いてきたのか、その場を譲るように脇に退いて振り返る。


「……お、俺は良いよ。お前もユキノねーちゃんに懐いてたろ」


 ソウスケはそっぽを向いて他の子の背中を押す。押された子はにやっと笑ってソウスケをからかったりしていた。


「ふふ」


 ユキノは涙を浮かべたままではあったが、その様子を目にして微笑ましそうに笑って小さく肩を震わせる。それを見たコタロウ達が嬉しそうな表情を浮かべていた。


 うん……。良い光景だな。みんなもその光景を見て眩しいものを見るように目を細めたり、にこにこと微笑んだりしていたが。

 そうしていると、コタロウが俺に視線を向けてくる。コタロウはユキノに少し顔立ちが似ていて、かなり利発そうな子だ。


「ミカゲ君は……本当は術師様で、姉ちゃんを連れてきてくれたって聞いた」

「ん……。まあ、そうだね。ユキノさんを助けようっていう方針は俺だけのものじゃないけれど」


 掌の上に魔法の灯かりを浮かべると、子供達は驚きの表情を浮かべる。


「神隠しにあった子供達がこっちでどうしているのかとか、どんな人達が何の目的で一緒にいるのかとか、細かく調べる必要があったんだ。だから、みんなに嘘を吐く形になったのは悪かったね」

「いや……良いよ。姉ちゃんを助けてくれたわけだし、ありがとうって言いたいぐらいだから」


 コタロウが笑って応じる。


「すげえ……。本当はもっと年上なんだっけ……?」


 目を瞬かせているソウスケ。


「そうだね。変身を解くのは良いけど、タケル君達がここに来てからの方が良いかな」


 何度も変身呪法を使うのもなんだしな。女官達も頃合いを見て連れてきてくれるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 人数分のきぐるみと馬マスクを用意しなきゃいけませんね、あなたはゴルシでお願いします(視線の先には獣
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ