番外1763 幽世への結集
「魔力波長も調整して、使う術式も選んだつもりなのですが……もし不調が残っているのであれば言って下さいね。そのあたり、回復して整えることもできるかと思います」
戦いが終わった後でそう申し出ると、武官や術者達は問題ないというように声を上げたりしていた。ダメージについては……概ね問題なさそうではあるかな。模擬戦で調子を落としてしまったら本末転倒だし。
武官達と術師達は俺のところまでやってくると丁寧に一礼してから、驚いた、感服したと手合わせの後の感想を伝えてきてくれる。
「恐縮です。皆さんの連携や空中戦の動きも相当洗練されていて驚きました。このまま肩を並べて戦えるのであれば、頼りにさせていただきます」
カギリと渡り合う上では相当な実力がないといけないから反射呪法に魔力光推進、短距離転移も惜しみなく見せたが、それでも対応してくる者、高速機動にも反応してくる者はいたからな。波状攻撃もかなり密度が高くて、通常の空中戦闘だったらもっと長引いていただろう。
「私達にとって、ほとんど最大の戦力を単身で壊滅状態に持っていける実力。作戦の中心を担う事に否やのある者はいないでしょう」
テンドウが頷いて先程の模擬戦をそう評すると、幽世の住民達も納得したというように首を縦に振っていた。先程の野太刀を持った実力者については、テンドウの元で直接指導を受けている隊長のような立ち位置であるらしい。もっとも、カギリを除けば幽世の最高戦力はやはりテンドウという事になるようだが。
「では――」
「はい。これより私達はカギリ様を助け、子供達と集落の安全を確保するために、共闘を行いたいと思います。異議のある者がいれば、今の内ならば意見も聞きましょう」
そう言ってテンドウは周囲を見回すが……反対意見は出ないようだ。もう意志は固まっているというように静かに魔力を研ぎ澄ませたり、槍を真っ直ぐに立てて姿勢を正したりしていた。武門の出自だけあって、この辺は潔いというか……いざ戦いとなると覚悟を以って臨む気風なのだろう。
「問題はないようですね。では、作戦会議を進めていきたい……とは思うのですが」
テンドウはこちらに視線を向けてくる。
「その前にコタロウ君達に話をする必要もありますね。話が長くなると言って待たせてしまっていますし、心配するといけませんから」
「そうですね。私としては……どう伝えるかはお任せします。テオドール殿の仲間やユキノ嬢もこちらに来るのであれば歓迎しましょう」
その間、この場にいない面々にも今回の事を通達するとのことだ。作戦会議をするにしても主だった者がいてくれた方が良いので、警備体制などにも穴を空けないようにする、とのことで。
『であるなら、我らもそちらに顔を出した方が良いだろうな』
ヨウキ帝が言うと、水晶板の向こうのみんなも頷く。
「わかりました。では、ユキノさんだけではなく、みんなにもこっちに来てもらうという事で。紹介してから動いていきましょうか」
転送術式で人員や物資の移動もできるという事を伝える。
「それはまた……相当有用な術ですね。味方で良かったと思っておりますよ」
『同感だな』
テンドウの言葉にヨウキ帝も笑う。
『私達も挨拶に行きたいわね』
『今なら子供達を連れていっても大丈夫という事が分かったものね』
と、ステファニアとローズマリー。みんなもその言葉に楽しそうに同意していた。
うん。確かにそうだな。カギリは子供達を傷つけたいと思っているわけではないし、そもそも幽世に招くのは血族を守りたいからだ。テンドウ達と協力体制を構築した以上はオリヴィア達と一緒にこっちに来るのも問題はない。作戦が始まる前に転送魔法陣で帰ることもできるしな。
『俺達はまだ待っておいた方が良さそうだ』
『後方を守るという事で良いのではないかな』
『そうさな。こちらの事は心配せずに行ってくると良い』
レイメイ、御前、オリエがにやりと笑って言うと、子蜘蛛達もうんうんと頷く。レイメイ達がカギリに感知される可能性というのは依然変わらないからな。現時点では刺激しない意味でもまだ待機していてもらおう。
『では、留守番を頼む』
『うむ』
そんなやり取りをヨウキ帝とレイメイ達が交わしていた。そんなわけで離宮や前線の拠点から、転送魔法陣でみんなをこちらに呼ぶ。光の柱が立ち昇りそれが収まると、みんなもこっちに姿を見せていた。
さてさて。まずはみんなの紹介からかな。
やってきたみんなを紹介すると、テンドウ達も頷いて歓迎してくれる。
「幽世が作られて以来の賓客です。カギリ様からこの場所を預かる者として、歓迎しますよ」
そう言ってジョサイア王とヨウキ帝にも挨拶をするテンドウである。ジョサイア王とヨウキ帝も各々招待の礼を口にする。それからテンドウはユキノとミツキに視線を向けた。
「お二方も、よく来てくださいました」
「その……ありがとうございます」
「初めまして。お会いできて嬉しく思います」
テンドウがそう言うとユキノとミツキも丁寧に一礼する。
二人については幽世の住民達も好意的だ。テンドウの言葉に同意するというようにこくこくと頷いて歓迎の意を示していた。
「何分私達にとっては初めての外からの客という事になりますからね。皆も受け入れると決めたからか、喜んでいるようですよ」
と、テンドウが頷く。視線の先にはユキノやミツキと共にグレイス達の腕に抱かれたオリヴィア達と、その顔を覗きに行っている幽世の住民達の姿があった。
幽世にいる子供達はみんなある程度の年齢になっているからな。赤ん坊というのは彼らにとってもあまり接する機会がないのだろう。
「幽世の皆さんは面倒見が良いですね」
「子供達の育成は私達にとっても日々の楽しみなのですよ。長期的な記憶は薄れてしまいますが、勉学や鍛錬の効果と成長はありますからね。もし、この幽世から外に出ていく事があっても強く生きていく事ができるとなれば安心もできます」
そう言ってテンドウは少し遠くを見るように視線を空の方へ向けた。そう考えるような、何かがある、という事なのだろう。
「飛行型が早期に現れ、渡り廊下を優先的に狙ってきました。その辺を考えると、同じ状況をずっと繰り返している、というわけでもなさそうですね」
「骸達も学習し、早期に出てくる者達も段々と力を付けているというのは感じます。僅かずつではありますが、良い傾向ではないでしょうね」
俺の申し出を受けたのは、そういう背景もあるか。外から味方になる者達がやってくるという状況自体、今後は期待できないだろうしな。
カギリと幽世の子供達の事を考えても、解決を考えるなら今、という事なのだろう。
ともあれ、みんなと幽世の住民達の初対面はユキノとミツキの好感度や子供達の事もあって、円満な空気である。
「さて。それじゃあもう少し落ち着いたら変身呪法を使って、ミカゲの姿になってからユキノと共にコタロウ達のところへ向かうっていうのが良いかな」
「わかりました」
そこで正体も明かしつつ、今後の事も話をする事になるだろう。
今後の予定について話ながら改めて変身呪法を使ってミカゲの姿になると、幽世の住民達から声が上がる。聞いてはいたが驚き、という事らしい。
「ん。やはり……ちょっと小さいテオドールも良い」
シーラが腕組をしつつうんうんと首を縦に振ると、マルレーンもにこにこしながら元気よく首肯する。うん……。みんなもミカゲの姿を気に入っていたようだったが。幽世の住民達も心なしか微笑ましそうにしているというか……。まあ、みんなが楽しいのならば良いが。