表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2540/2811

番外1753 呪いと業の行方

 瞬くように映し出される風景が変わる。カギリの乱れた心を反映するかのように、視点以外の物は目に入っていないように見える。注目しているもの以外の物は暗く霞んで、あまりよく見えない。


 カギリが真っ直ぐに向かった先は、まず社だったようだ。

 社に逃げ込んだ女衆や子供達に斬りかかろうとしていた襲撃者達を、接敵と同時に切り伏せ、槍で貫き、矢を放つ。悲鳴を上げて逃げようとする襲撃者が頭ごと掴まれて、天高く掲げられたかと思うと地面に叩きつけられた。


 文字通りの鎧袖一触だ。嵐に巻き込まれる木切れのように里に入り込んだ襲撃者を吹き飛ばし、手あたり次第に叩き潰していく。


 それでも。

 間に合わなかった者達はいる。身を挺して子供を守ろうとした女衆。逃げ遅れた子供達。毒に悶えて倒れた神職の老人。


 それを目にしたカギリの怒りや絶望は如何ばかりか。身に纏った魔力を更に激しい渦のように纏いながらも手にした武器を振るう。

 抵抗しようとする襲撃者もいた。だが斬撃一つ、受ける事も避ける事も叶わない。防御すれば武器諸共に断ち切られ、避けようにも斬撃の速度と威力がケタ違い過ぎて、いなす事はおろか、反応する事すらできていない。


 戦いという形にすらなっていない、瞬く間の蹂躙劇だった。社に集まっていた襲撃者は逃げる事も叶わず、程無くして全滅の憂き目にあった。


 社にいた里の者達は――襲撃者とそれを叩き潰した超常の存在に、恐れをなしながらもあまりの出来事に目を離せない。カギリは……一瞬それを見て動きを止める。


 自身の顔のあたりに手をやって……それでも止まる事はない。激情に突き動かされてか。まだ打ち滅ぼすべき敵が残っているからか。それでも護るべき者達に今の姿を見られることが忍びなかったのか。カギリはその場から離脱するように直上へと飛翔する。

 黒い霧の渦を軌跡として残しながら、鋭角に折れ曲がるように飛んで、炎上する城に向かって突っ込んでいく。


 そこでも社と同様の蹂躙劇が繰り広げられた。咆哮を上げて当たるを幸い薙ぎ倒す。切り裂き、潰し、貫いて――。




 カギリは結局、社や城を含めた集落に侵入してきた異物全てを排除してもまだ止まらなかった。後方の拠点にいた敵勢力まで掛け値なしの鏖殺を繰り広げた。敵対勢力からしてみれば、文字通りに降りかかった災厄だっただろう。人的被害が大きすぎて、当分は里に手出しを考えられないほどには。


 視界が狭まっているためにはっきりとは分からなかったが、ウィズが計算したところによるとカギリが飛んでいった敵拠点は――建造物や道、太陽との位置関係などから里の南東方向だった、というのが分かる。


 ああ。それで、か。ユラの託宣では北西方向から幽世に侵入するのが安全ではないかという話だったが……。俺が今いる、幽世の巨大城も南東方向への警戒が最も強かったものな。カギリの心情が反映されているのなら、そうなるのも当然というか。


 ともあれ、カギリは自らの手で仇を討ったけれど……それでも敵勢力を族滅させたわけではない。同時に里が大きな被害を受けたのも、また間違いのない事なのだ。


 特に酒盛りに参加した男衆が多数呪毒と襲撃で亡くなっている。戦闘要員や働き手がかなりの数亡くなった、という事だ。


 だから――彼らはこの後、里を放棄して、もっと山の中に逃げ込む事になるのだろう。


 戦いの後……カギリの認識している里の光景はもう、途切れ途切れの断片的なものだ。それでも過去と現在を繋ぐに足る、重要な部分は垣間見る事ができた。


 イズミが意識を取り戻し、生き残った者達のまとめ役になっていたところ。

 古い若武者の面が面霊気として覚醒したのも……恐らくはその頃なのだろう。霊気を漂わせる面が宙に浮かんでイズミと共にいるところ。

 カギリの前で片膝をついて臣従の意思を示しているその姿は……もう今のテンドウの姿と変わらない。


 戦いの中で亡くなった里の死者達が幽世の住人として転じていく場面。

 そうか……。あの戦いの中で亡くなった者達を眷属として領域に招いたわけだ。子供達に親身なのも当然と言える。


 そして……それに呪いをその身に受けたカギリをイズミとテンドウが祀り、安心して眠りにつけるように封印を構築している場面。……そういった光景が、浮かんでは消えていく。


 細かな部分でどういうやり取りがあったのかまでは分からない。断片的な記憶ではあるが……それでもどうして今の形になったのかは、大まかな部分で分かった気がする。


 ゆっくりとカギリとの同調が解けて夢が遠ざかっていく。カギリの気配も、それに伴って遠くに離れていった。


 しかし……そうか。

 呪いと業を宿してしまった神霊は……自身が災厄を招きかねない存在になってしまった事を、恐らくは分かっていたのだろう。だから、まだ自分が自分でいられる内に、後の事をイズミやテンドウに託して、封印と眠りに身を任せたのだ。


 呪いも業も、どうにもならない程に根深いものになってしまったから。

 幽世と血族に仇なそうとするあの骸達も、カギリの封印や呪いと表裏一体の存在として取り込まれて、切っても切れないものとして敵対者の怨念を封印の内に内包している。


 それでも、夢を見ながらでもイズミ達の一族を守ろうとしている在り方は変わらないから、子供達の辛い思いに呼応するように自身の領域に招く。


 大人達が招かれないのは……カギリ自身も裏切りがあった事がトラウマになっているのではないだろうか。無意識的に子供達を招いているのならば、やはり無意識的に裏切りを恐れて、大人達を招くことを避けてしまう。


 だが……そうだな……。こういう成り立ちだったというのなら、外部に対して臆病になっているのも当然だ。それは現在の集落の在り方を見ても分かる。

 集落の成り立ちや外部との接触を避ける理由こそ忘れられてしまったけれど。それでも昔からの暮らしの中や、集落のしきたり、親からの教訓という形で残っているものはある。


 戦いで追われて落ち延びてきた武家の末裔、という推測も間違ってはいなかったな。


 その点は、これからテンドウと話をするにあたって念頭に置いておく必要があるだろう。俺も……俺自身の眠りから目覚めたら分かった事をみんなに伝え、しっかりとこれからの方針や、どうテンドウと話をするかも、しっかりと考えておく必要がある。


 カギリの現状はどうなっているのか分からないが、あんな過去の記憶を見てしまった以上は……な。どうしても自分自身の事や、母さんのことに重ねて見てしまう部分がある。かといって、そのままにしておくのもな。子供達を大切にしていて、同時に信仰を得るために必要としている、というのも間違いない。


 だけれど……この形は歪だ。骸達が違う動きをしてきたことからも、永遠不変ではないという事が分かる。


 とはいえ、俺もまだ眠っている最中だ。今はしっかりと身体を休めて、目を覚ましてからの事に備えよう。




 ――そうして……俺は目を覚ました。夜は無事に明けたようだ。状況にも大きな変化は……なさそうだな。

 まだ早い時間なのでコタロウ達は眠っているが、俺達の方は潜入作戦の行動中という事もあり、状況に変化がないか交代で見張りを立てて確認している。


 さて……。少なくとも……こちらが動いたとしても子供達に危害が加えられる事はない、というのが分かったのは大きい。テンドウ達は成り立ち、在り方も、それに心情、立場、実利、どの面で見ても血族の子達を大事に思っているからだ。だから……子供達を武家らしい教育方針で育てる事もしているわけだ。


 昨晩、感情の共鳴を利用してカギリの夢や記憶を見てきたこと。そこで分かった事をみんなにも通信機で伝えておく。みんなが起きてきたら情報共有をして、諸々の問題を解決するための手段と説得する方法を考える事になるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 獣覗きバレ囚われてしまう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ