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番外1740 仮面武者との話は

 少しすると、女官達が着替えという事なのか、新しい衣服等を持ってきてくれた。


「ええと……これに着替えればいいんです、か?」


 俺の質問に、女官達は頷いた。着替えるのを手伝おうとするかのような仕草を見せるが、遠慮がちに「その……自分でできますから。人に見られていると、落ち着かないので……」と答えると、納得したように頷いて席を外してくれる。


 まあ、一人でいる内に着替える振りをしてしまうか。服におかしなところがないかを調べた上で、キマイラコートとウィズを変形させ、デザイン、質感と模様を変化させる。

 女官達が退出してくれたのは助かったな。退出してくれない場合は一人で着替えると言って手伝いを固辞し、幻影で着替えている場面を自分の身体の上に被せて見せる事になっていたとは思うが。


 木の杖に偽装したウロボロスについては、使い慣れているし思い入れもあるからと言って手元に置かせてもらおう。


『やや時代がかっている気もするが、良い衣服だな』


 というのがヨウキ帝の意見だ。子供達が身に着けていたものと同じような仕立てだが、生地や染めもしっかりしているという印象だ。


 ……持ってきてくれた着替えは懐の魔法の鞄に隠しておくのが良さそうだ。

 俺が元々着ていた衣服がなければおかしいというのはある。元々木綿風の質感にしていたので木魔法で再現したものを即席で作り、畳んで置いておけば偽装は完了だ。

 一連の流れは魔力の隠蔽を行いながらも、見られていても大丈夫なように幻影を被せながら行った。


 やがて着替え等の偽装工作も終わって座布団に座って待っていると、テンドウが戻ってくる。その手には何やら桐の箱があるが……。


「待たせてしまいましたね。さて。では少し話をしましょうか」


 テンドウはそう言って俺の向かいに座る。桐の箱はまだ開けないらしい。脇に置いているが……。


「先程、上から手を振っていたお面の子達を見ましたね?」

「……はい」

「あの子達は貴方と同じく。外からこの幽世の主――カギリ様に招かれてここにやってきた、普通の子達です。私達も子供達も仮面や布を付けていますが、それも理由があっての事」


 仮面や顔の布に理由がある、か。


「まず話をしておくべきこととして……この幽世に食べ物の類はありません。ですが、カギリ様とその眷属たる私の力を合わせる事で、ここにいる間はお腹を空かせることや昔の出来事に悩まされる事も、歳をとることもなく、ただ穏やかに過ごしていく事ができるのです。外とは見た目がかなり違うので、貴方はここを不思議に感じたり、不安に思ったりしているかも知れませんが……暮らしてみれば良いところなのですよ」


 テンドウは子供にも分かりやすいように、簡単な言葉を選んで話をしているように思う。

 そう言ってから、テンドウは桐の箱を開く。そこには子供達がつけていたような仮面が入っていた。


「カギリ様の眷属たる私――面霊気の影響を与える面というわけですが……まあ、難しい話はさておきましょう。カギリ様のお膝元にいるだけでもお腹は減りにくくなるのですが、このお面をつけておくことで、それがもっとしっかりとしたものになる、というわけですね」

『面霊気……。妖怪というよりは付喪神……の類だったか』


 と、ヨウキ帝は小さく呟いていた。眷属であり付喪神か。

 名前の通り面自体が付喪神でありテンドウの本体というわけか。幽世にいれば。面を付けていれば空腹を感じなくなるというのは……魔力溜まりにいる魔物のような理屈かな。活動の力を外から得られるならば、日の光が届かないのに森が維持されていたことにも説明がつく。体内に魔石がなくとも同じことができるよう、眷属由来の品を身につけさせる事で影響力を増大させると。


「その……家に帰してもらう事は……?」

「それは……貴方は、帰りたいのですか?」


 ……テンドウはこちらに面を向けながら質問してくる。それは――何というか、少し引っかかりを覚える受け答えだな。普通ならまず元の場所に帰る事を考えるものだろうが。何というか俺に考える事を促すような言い方だ。


 ……テンドウが心境、と言っていたのが気になる。何か……外から招かれる条件に関わるものだったりするのか?


「それは……だって。手伝いとか、色々しなきゃいけない事が、ありますから」


 少し逡巡した後で、そう答える。テンドウの反応は、少し俺の様子を見ている様子だったが、やがて納得したように頷いて言葉を続ける。


「なるほど……。真面目であるのは良い事です。しかし、それは本当に貴方がすぐにしなければうまくいかず、他の人達が困ってしまうような事でしょうか? 霧の中を歩いて疲れているでしょうし、ここで身体を休めてから改めて考えても良いのではないですか?」


 ……そう言われれば、子供の立場としては困ってしまうな。


「カギリ様は――いえ、私達も勿論ですが、子供はもっと誰かに守られていて良い、と思っているのですよ。招かれた者達は……きっとここを気に入ると思います。貴方も色々と大変な想いをしてきたのでしょうから」


 テンドウは俺の足に一瞬視線を送ってからそう言った。

 ……恐らくは、これが招かれる条件に関わるものか。辛い境遇に置かれた……いや、何かしらの理由で辛い思いを抱えている子、かな? 当人の心境に呼応して招かれる。恐らくはカギリは夢うつつのままで縁や思念に導かれて繋がるというわけだ。


 同時に、テンドウはそれでも帰りたいと言った場合に、望み通りにしてくれるとは明言しなかった。察したとしても……いや、察してしまうからこそ子供には強くは言えまい。

 テンドウとしても、子供達を留めておきたい理由がある……とか?


「ここでの過ごし方で分からない事があれば他の子達に聞いても教えてくれるでしょう。何か……私に聞いておきたいことはありますか?」


 そう言われて、少し思案する。聞きたいこと、知りたいことはいくらでもあるが、ミカゲが知り得ていない事までは口に出せないからな。だから情報収集を兼ねて本来の目的を優先して動いていくのが良い。


「……その……コタロウ、という子はいますか?」

「ふむ。知り合い、ですか?」

「いえ……会った事があるわけでは……。ええと、なんていえば良いのか。仕事の手伝いをしている時に、遠い親戚が住んでいるっていう村から来た人が来て……コタロウっていう弟さんが神隠しにあったとかそんな話を聞いたので……。今の僕も、もしかしたら他の人から見たらそうなのかなって」


 そう伝えると、テンドウは顎に手をやって思案しながらも頷く。


「なるほど……。過去に外に出た集落の血縁者も……いるのでしょうね。そういった経緯で知る事で、改めて縁が結ばれ招かれた、と。ええ。お察しの通りです。コタロウという名の少年はこちらに来ていますし、ミカゲ少年も傍から見たらそうなのでしょう」


 テンドウは隠す事でもないというように肯定し、言葉を続ける。


「身体をしっかりと休めた後で、彼らと顔を合わせて話をしてみるのが良いかと思いますよ。幽世に来て日が浅いのはコタロウ少年達も同じですし、近い年代や立場の子がいるという事は、貴方の安心にも繋がるかと思います。コタロウ少年達から色々と話を聞いてみるのも良いことでしょう」


 それは……願ってもない。テンドウには直接聞きにくい事だってあるし、コタロウ達に限らず、幽世にいる子供達の視点や考え、与えられている情報等を比較して考えたい。内側に入り込んだ以上は、スムーズな救出計画を練る事もできるだろう。


「分かり……ました。休んでから、色々考えたいと思います」

「それが良いでしょう。私もする事がありますので、また後で話を聞きに来ますよ」


 そう言ってテンドウは立ち上がる。では、しばらく大人しくしながら相談と情報収集をしつつ、コタロウ達との面会を待つ、ということになるな。

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[良い点] 一連の流れは魔力の隠蔽を行いながらも、見られていても大丈夫なように獣が釣り得だ
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