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番外1734 幽世調査

「環境から感じる力と印象から言うと……この場所は幽世かな。やはり」

「此岸に対する彼岸に近いような場所、と言われているでござるな。そのものではないのでござるが」


 転送魔法陣でやってきたヨウキ帝とイチエモンが言う。俺達側の面々として、オズグリーヴが拠点防衛にやってきて、外側の後詰めやユキノの護衛にはタダクニやテスディロス達が残る形だ。

 勿論、全員封印術の魔道具や隠形符等の装備を身に着けて発見されないよう対策をしている。拠点側にアルバートの作ってくれた魔石も埋め込んで、魔法陣の隠蔽力を強化しているので、少なくとも拠点内部にいる限りはそうそう見つけられるような事もないだろう。


 それにしても……幽世か。冥府に近いように言われるが……俺の肌感覚としてはまだかなり現世側にも寄っている気がする。現世と冥府の中間、ぐらいの立ち位置だろうか?


「彼岸に近い……。私達がそっちに行くのは待った方が良さそうね」

「露見して戦いになってからなら……何か気付けることもあるかも知れないであります」


 フォレスタニアから、母さんとリヴェイラが言ってくる。


「んー。そうだね。確かに、二人なら何か気付く事もあるかも知れないけれど、それだけに感知されやすそうだ」


 冥府にしても大きな括りでは精霊界の一種なので二人の親和性は高いだろう。ただ、それだけに発見リスクが上がってしまうというのはある。

 精霊界であるから土地に住む人々の死生観の影響も大きく受けるから、この辺も確実ではないしな。現時点で発見されていない以上は、二人の援軍はもう少し頃合いを待った方が良さそうだ。


 だが、援軍として見るなら心強いのも確かだからな。情報の有無は状況の打開に直結するし、一先ずはモニター越しに見てもらってアドバイスを貰う方向で考えておこう。


 そう伝えると母さんとリヴェイラ、デュラハンは共に頷いていた。


「それじゃあ調査に出るけれど……他に現時点で気付いた事や確認しておいた方が良い事はあるかな?」

『ふむ。座標表示の魔道具なのですが外から見ると……位置表示がややおかしくなるようですな』


 ウィンベルグがそう教えてくれる。俺達は動いていないのに、領域外から見た場合光点の位置が明滅して揺らいだり、動いたりと、やや安定しないとのことである。


「内部から見る限りではこちらは安定しておりますな……。外で待っている皆の反応も……動いてはおりません」

「領域の安定性の問題なのかも知れないね。幽世の内側から見れば安定しているなら、一先ずは調査に出る事も問題なさそうだ」


 オズグリーヴの言葉に答えると、一同頷く。

 確認すべきことも確認して調査の準備もできたか。また単身での潜入となるが、出発していこう。


 バロールがいればみんなだけではなく、俺自身も転送魔法で撤退してこられるからな。予定通りこの場に残していく。現状、俺一人の方が一段上の隠密状態を維持しやすいからな。斥候、潜入役を担うのに不満はない。


「では行ってきます」

『うむ……。気を付けるのだぞ』


 御前が大きく頷いて、みんなも俺が調査に出るのを見送ってくれた。隠蔽フィールドや環境魔力に波長を合わせた魔力を纏い、仮拠点から出る。

 さて……。では気合を入れていこう。一先ずはあの鳥居や城を目指して、ユラが示してくれた方向から進んでいく、というのが良いのかな。いずれにしても、この幽世の中心地となっている城については向かう事になるのだが。

 調査の方針について伝えると、イチエモンが頷く。


『あの城は――大きさが異常というのはともかく、かなり古い時代の建築様式と見受けられるでござる』

『ああ。そういうところはやはり東国でも共通する部分があるのね』

『城にしても神殿にしても時代時代で流行り廃りはあるものよね』


 イチエモンの言葉に、ステファニアやクラウディアが反応する。


『権勢を示すためとか、出資者の要望を取り入れるためとか。そういった理由から大規模建築や邸宅だとか……そういったところに最新の流行りを取り入れるという事は多いわね。時代を跨いだ建築だと、着工開始と落成間近で様式が違っているという事もあるわ』


 ローズマリーが補足説明をしてくれる。


『そういう観点で言うと、あの城はやはり異常ではあるな。霧の上に見えている範囲だけではあるが、あの規模で一貫した一時代の様式を保っている』

「そのあたりが一貫しているというのは王城セオレムと同じではありますね」


 ヨウキ帝の分析に俺もそう応じる。


『要するに、通常の経過で建てられた城とは異なる、と』

「時間をかけたのなら造った側にそうしなければならない何かしらの意図や理由、或いは信念があるか……流行り廃りの関係がない環境……例えば情報が断絶されて更新されていないなりがある、という事になるね」


 建築方法が魔法建築に準じて、一気に形成された、という場合でもそうなるか。古い時代の建築様式を敢えて選んでそうする理由は……まあ、何かしらあるのかも知れないが。


『人の意思が介在してああした城を建てた、というのは……防衛に関わるものだけに合理性に欠けるでござるな』

『流行り廃りではあるが古い時代のものというのは兵器の進歩と共に攻略方法が広まったから廃れた、というのはありますからな』

『寧ろ、成立の来歴に関わっているからああなっている、と考える方が自然か。予断は禁物とはいえ情報が増えれば増える程、この領域の主は人外の何かである可能性が高まっているように思える』

『都に連絡をして、この時代、この近辺の資料を当たってみるというのも良さそうでござるな』

『時間がかかってしまうにせよ、損という事はない、か』


 イチエモンやタダクニ、ヨウキ帝の分析と会話を聞きながらも、崖下――眼下に広がる霧の中へとゆっくり進んでいく。話をしている間に霧の分析も行った。組成はともかく、何か奇妙な魔力を帯びていて、自然のそれではないというのは確かだ。


 害を齎してくる類ではないようだが……物理的に視界が通りにくくなる、というのはあるな。潜入捜査には追い風ではあるが、いざ向こうから発見された時に敵の領域内であるからどう変化するか分からない、というのは意識しておきたい。


「魔光水脈や大腐廃湖の対策装備を転送しておいた方がいいのかな。察知された場合に、この霧を吸い込む事も危険性が伴うかも知れない」


 一先ずは俺単独での行動であるなら精霊王の加護や風魔法、防御呪法等で対応できるな。外周部の崖上にも霧は及んでいないから中心部程影響が濃い、と見ておく方がいいか。


 霧の中をゆっくりと進んでいくと……やがて地上が見えてきた。森が広がっているようだな。

 方向感覚は――問題ない。どちらを向いているか迷わされるような事はないし、そもそも中心部の方が魔力反応も強いのだ。霧が立ち込めていても迷いようがない。


 波長を合わせた魔力の触腕を伸ばして、周囲の地形を探りながら中心部の方向を目指して進む。

 植物は……生命反応がややおかしいな。だが、ウィズの分析だと組成等には特に変わったところはない。日の光の届かない領域で育っているようだから、何かしらの影響を受けているのだとは思うが。ただ、魔界のように変異が起こる、というほどではないらしい。植生自体は……外の森と変わらない。外界から取り込まれたものが適応してか、或いは必要だから育てられているのだろうか。


 ウィズの分析を行いながら森を進んでいくと――やがて霧の中に石畳で舗装された道が見えてきた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 怪しげな雰囲気が漂う場所ですが何が出てくるやら。 ドキドキしてきました。
[良い点] 獣は危うく見つけた枇杷を食べるところであった
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