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番外1711 新大公と領民と

「今日、私は大公位を父より引き継ぐこととなった。新たな門出に期待してくれている者もいよう。これまでの父の治政を振り返り、新しい日々がどう変化するのかに注視する者もだ。領地を預かる身として、可能な限り多くの者達に笑顔でいてもらえるよう尽力するつもりだ」


 一休みしたところでフィリップ大公は城前の広場にて領民への演説を行っていた。魔道具によって声や姿を拡大し、身振り手振りを交えて、領民達や訪問している面々を前に言葉を続けていく。


「ジョサイア陛下やバハルザード王国のエルハーム殿下。メルヴィン公とドリスコル公爵、フォレスタニア境界公を始めとして名立たる方々もこの日に合わせて領地を訪れて下さり、継承に祝福をして下さった。我が家に名を連ねる者達と共に団結や絆を確認もできたという事も皆に伝えておこう。私もまた、祝福に訪れてくれた皆々や父、父祖達に恥じぬよう精進していきたいとも思う。新たな門出の始まりの一歩としてはささやかではあるが、祝いの料理と酒を用意している。是非楽しんでいって欲しい」


 元々フィリップ大公は後嗣としても評判が良く、領民にも親しまれていたという事もあり、大きな歓声と拍手が起こっていた。

 ヴェルドガル王国や新大公、大公家を讃える声が響いて、街中もすっかりお祝いムードだ。城から見てもタームウィルズでのお祝いに引き続いてという事で商人達も訪れてきて賑わっているという印象である。

 団結と絆を確認できた、というのは領民にとっても安心できる内容ではあるな。国内の三家の事、派閥の貴族達との関係もそうだが、バハルザードからも祝福に訪問してきているというのは良い話だ。国境を接しているだけに、隣国との友好関係というのは民としては気になるところだろうしな。


「いやはや、めでたい事ですな!」

「全くです。バハルザード王国との関係も安泰という事で私達も安心して商売できるというものです」

「嬉しい事です。フィリップ大公もお父君も、私達との関係も重視していてくださいましたから」


 実際ヴェルドガル王国とバハルザード王国それぞれの行商人や旅人、国境の山岳地帯の遊牧民も直轄地に訪問してきている。一緒に酒盛りをしようという事で盛り上がっているようで、ハイダー達からの中継映像を見てエルハーム姫やデボニス前大公、テレンスといった面々も上機嫌といった様子だ。


「どうやら演説は皆に喜んでもらえたようですな」


 演説を終えたフィリップ大公も城内に戻ってくると中継映像を見て、嬉しそうに目を細めていた。


「そうですね。かなり盛り上がっていますが、国内外の事で安心できたからこそという部分も大きいのだと思います」

「ふふ。皆の期待に応えていきたいものです」


 そう言って俺の言葉に頷くフィリップ大公である。


 そんなわけで街中の様子を見せてもらいながら過ごさせてもらった。今日はバルトウィッスル城に一泊して、のんびりとしていくという事になっている。

 フィリップ大公も今日はのんびりするとのことではあるが、明日はまず直轄地を視察。それ以降は領内を竜籠で巡って視察をしていくとのことで、少し忙しくなるそうだ。


 領主となったばかりではあるが、精力的に動いていくというわけだ。祝いだからとあまり休養を挟んだりしないのは継承前から実務に携わっていて体制が確立しているからというのもあるか。継承は既定路線であって、状況に応じて対応しても大きくは変わっていない、という事なのだろう。

 派閥の貴族家や領内の情勢も含めて大公領は全体的に安定している感があるが、こうしたフィリップ大公やデボニス前大公の細やかな対応があるからこそなのだと思う。


 フィリップ大公は今日するべきことは終わっているからという事で、演説の後は肩の力を抜いて家族との夕食を楽しんだり子供達と触れ合い、夫人やテレンスと共に表情を緩めていたりした。

 テレンスも大きくなっているので小さな子を抱いたりあやしたりするのは久しぶり、とのことで。オリヴィアやコルネリウスを撫でたり腕に抱かせてもらって楽しそうにしていた。


「ふふ。子供達もご機嫌のようでいい事です」


 グレイスがにこにことしているオリヴィアを腕に抱いて微笑む。


「子供達も人見知りしないからね。色んな人と触れ合えるのは楽しいみたいだ」


 そう言うとみんなも頷いていた。フィリップ大公も明日から視察が控えているから、こうやってのんびりできるのは良い事だな。

 そんな調子でサロンでの時間は過ぎていき、交代で風呂に入りながらも夜が過ぎていったのであった。




 そしてバルトウィッスル城での一夜が明ける。

 朝食を取って少しサロンで過ごした後で、俺達も直轄地の視察に同行させてもらう事になった。


「確かに、余らが同行した方が皆安心するであろうからな」

「そうですな。三家の事もそうですが、陛下とフラヴィア殿下のお姿はきっと一目見たいという領民も多いでしょう」


 と、ジョサイア王が言うとドリスコル公爵も頷く。王家や公爵家の護衛もいるし、俺達も一緒だから警備体制に関しては大丈夫だろう。


「では、私達は街中での護衛を務めさせていただきます」

「私達も」

「うん」


 ライブラの言葉にカルセドネとシトリアも顔を見合わせて頷く。召喚による防衛能力や二人の連係による対応力は相当なものだからな。諸々安心である。


「ん。よろしく」


 そう言うと、ライブラ達は頷く。

 というわけで馬車に乗り込んで街中への視察に出かけた。


 街中はまだまだお祝いムードが続いていて賑わっている。フィリップ大公が視察をするという事で人出も多く、ジョサイア王やフラヴィア王妃、ドリスコル公爵家の面々やエルハーム姫、俺達もいるという事に気付くと、沿道の人達は大分テンションが上がって、嬉しそうに手を振っていた。


 ジョサイア王達も手を振って、大分街の人達も盛り上がっている。

 視察については市場や商人ギルド、冒険者ギルドに足を運んだり、兵士達の詰め所を見に行ったりといった具合だ。


「りょうしゅさまー!」


 と、馬車に並走してくる小さな子供達に手を振られて、表情を綻ばせつつも「ちゃんと前を見て、転ばぬようにな!」と、声をかけているフィリップ大公である。子供達も笑顔で頷いてその場に立ち止まり、飛び跳ねながらも大きく手を振っていた。うん。

 街並みや領民達の様子を見れば、こういうところからもフィリップ大公が領民達に慕われていて、生活も安定しているという事が伺える。


 俺も……フィリップ大公やドリスコル公爵を始めとして参考にすべき人達と知り合いなのだし、領主として学べる部分は学んでおかないとな。フォレスタニアは特殊な街だから他所の手法にしてもフォレスタニアに合わせて工夫する必要があるけれど。


 そうしてフィリップ大公と共に街中をあちこち見せてもらって、視察も無事に進んでいった。


「――それではまた何時でも遊びに来てください」

「はい。大公も視察の際はお気をつけて」


 やがて視察も終わり、城で昼食を取ってから転移門で帰還する。デボニス前大公や領地の武官、文官の主だった者達も顔を出して結構盛大な見送りだ。


「私もまた近い内にタームウィルズやフォレスタニアを訪れるかも知れません。歴史書を書くにあたって、色々と調べたい事、聞き取りをしたい事もあります故」

「分かりました。転移門は勿論、フォレスタニアの書庫も必要でしたら活用して頂ければ幸いです。歴史書については、出来上がりを楽しみにしていますよ」


 そう答えると、デボニス前大公は目を細めて頷いていた。

 フォレスタニア城の書庫は迷宮が蓄積していたデータから形成されているので変わった資料もあるからな。

 仮に俺達が不在の折りでもデボニス前大公には資料を活用してもらえるように手配はしておこうと思う。

いつも応援して頂き、誠にありがとうございます!


本日、7月25日はコミック版境界迷宮と異界の魔術師6巻の発売日となっております!


無事発売日を迎える事ができましたのも、ひとえに関係者各位の皆様、そして何より、読者の皆様の応援のお陰です! 改めて感謝申し上げます!


また、今回も書き下ろしを収録しております! 詳細は活動報告にて告知しておりますので、そちらも合わせて楽しんで頂けたら幸いです!


また、書籍版境界迷宮と異界の魔術師15巻についてですが、来月8月25日発売予定となっております!

予約開始日や特典情報などにつきましては、今しばらくお待ちいただければと思います!


ウェブ版、書籍版、コミック版共々頑張っていきたいと思いますので、今後ともどうぞよろしくお願い致します!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 獣は何故か馬車牽いていた、本人はボルナレ○状態らしい
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