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番外1709 継承に込めた想いは

「おお、お待ちしておりました」


 転移門を潜りデボニス大公領へと移動すると、そこはもう大公の住まう居城内だ。転移門は城の一角、警備がしやすい場所を選んで作られている。俺達の訪問は事前に知らせてあるということもあり、デボニス大公本人とフィリップ夫妻やその子供達が自ら出迎えてくれた。


 訪問してくる顔触れがジョサイア王やメルヴィン公、バハルザードの面々に加えてドリスコル公爵に境界公家、ガートナー伯爵家だからな。まあ、人任せにはできない。


「ふふ。先日の戴冠式の時以来だから間は開いていないが、壮健そうで何よりだ」

「心配事がなくなったという事もありますからな。安心して後進に引き継げるというものです」


 メルヴィン公の言葉に、笑って応じるデボニス大公である。


 そんなわけでまずは手荷物を部屋に預けるという事で、挨拶をしてから城内を案内してもらう。


 ジョサイア王やメルヴィン公、ドリスコル公爵にデボニス大公といった面々とも顔を合わせて緊張していた様子のダリルであったが、そこはそれ。何度か顔を合わせているという事もあり、挨拶をする時はしっかりとしたものだった。


 オスカーやヴァネッサ、フィリップの子であるテレンスも歳が近いという事もあってか、ダリルには気軽な調子で挨拶をしていた。


「領地はそれなりに離れているけれどお互い年も近いし、将来的にはオスカーと顔を合わせる事も増えそうだものね」


 と言って、うんうんと頷くヴァネッサである。ドリスコル公爵家の後嗣はオスカーだし、フィリップの後を継ぐのはテレンスなので、将来の領主が揃い踏みということになる。

 テレンスについては大公家重鎮の家で修行を積んでいたという事で今まで大公家を訪問した際等に俺達と顔を合わせる機会にはあまり恵まれなかったが、オスカーやヴァネッサとも歳が近い。フィリップに面影が似ていて、精悍ながらも落ち着いた物腰で賢そうな印象だ。


 後嗣同士、次世代の子供達同士の付き合いというのは大事なことだ。ガートナー伯爵領とドリスコル公爵領、デボニス大公領では少し距離があるので普段あまり接点はないけれど、それはそれとして国内貴族家の子弟同士が親睦を深めて悪いということはない。


 ダリルもガートナー伯爵領はどんなところかという話題に丁寧に答えたりしていた。

 領内の事にダリルは詳しいというのがその内容からも分かるので、オスカーやテレンスのみならずジョサイア王達も感心している様子だ。


「皆聡明と聞いているが……ダリル卿も良く学んでいるな。この様子を見ていると次代も安心できる」


 そうしたやり取りを少し離れたところで見ていたジョサイア王が言って、ドリスコル公爵やデボニス大公も満足げに頷いていたりするが。まあ、そんなわけで本人はあまり意識していないが周囲からの期待度を上げているダリルである。この辺のやり取りはダリル本人に伝えると逆にプレッシャーになってしまうから黙っていた方が良さそうだな。ともあれ、ネシャート嬢もそんな様子に嬉しそうに微笑んでいた。


 そうしてまずは今日滞在する城の一室にそれぞれ案内してもらう。俺達は一家で訪問しているという事もあり、広々とした部屋を宛がってもらえている。

 大公城は総じて古風で伝統的な造りだ。謁見や儀礼に使う公的な場所は静謐で格式が高いが、客室の雰囲気は明るく、内装や調度品も華美になり過ぎず趣味が良いという印象だ。この辺は城主であるデボニス大公や後嗣であるフィリップの性格が出ている部分だろう。


 大公家に近しい貴族家も集まる。デボニス大公やフィリップは準備があるものの、引退と継承の式典やその後の挨拶までは俺達もゆっくりと過ごしていられるわけだ。オスカーやヴァネッサ、テレンスはオリヴィア達と顔合わせをしたいという事なので、招待を受けたみんなでサロンに集まって交流の時間を作る事となった。


「ああこれは……。本当、小さくて可愛らしいわ」


 ヴァネッサは子供達をあやしながらも微笑む。ヴィオレーネの肉球に触れて衝撃を受けつつもにこにことしていたが……うん。気持ちは分かる気がする。


「それ自体はきっと特別というわけではないのでしょうが、双子というのは見ていて神秘的に感じてしまいますね」


 と、テレンスが言う。カルセドネとシトリアも護衛として同行しているのだが、ルフィナやアイオルトと一緒にいる姿を見て感じ入ったものがあるようだ。当人であるカルセドネとシトリアもうんうんと目を閉じて頷いたりしており、みんなもそんな反応に笑顔になっていた。


 そうしていると大公派閥の貴族家の面々も集まってきたようだ。テラスから外を見ると、馬車の車列が大通りを通って大公城に入ってきたり、竜籠が到着しているのも見えた。


 やがて大公家の女官がやってきて、謁見の間へと案内してくれる。賓客用の参列席が用意されて、典医や女官達が近くで待機してくれているのはセオレムの戴冠式と同じだな。子供達も一緒に来ているのでその辺は参考にさせてもらうとデボニス大公達も言っていた。同様に、必要な魔道具の手配もしているとのことで。


「では、式典中はよろしく頼むわね」

「お任せください、ローズマリー様。まあまあ……これは、可愛らしい事……!」

「本当。皆ご両親譲りの部分があって、将来が楽しみな事です」


 ローズマリーが子供達の事を女官達に頼む。女官達もまたそんな風に盛り上がりながらも、子供達を大事そうに受け取って寝台に横たえさせて、その顔を覗き込んだりあやしたりしながらもにこにことしていた。うむ。


 大公家の家臣達、貴族家の面々も謁見の間に入ってきて列席し、準備も万端といったところだ。

 やがて楽士達が頃合いを見計らってファンファーレを鳴らし、謁見の間が静かになるとデボニス大公が謁見の間に姿を現す。

 爵位と共に公爵冠を引き継ぐ形になるので、やはりこれも戴冠式だ。


 謁見の間の正面までやってくると、デボニス大公は口を開く。


「今日という日を迎え、沢山の方々にご臨席賜り、誠に嬉しく思います。世代は入れ替わろうとも日々は変わらず続いていくもの。新しい生活や時代を支える礎として、後世に引き継ぐものを残せたのであれば、それこそが私にとっての喜びです。これまで積み重ねてきたものが今を生きる人々の支えやこれから育っていく子供達の助けとなることを願っておりますよ」


 デボニス大公は穏やかな表情で言う。礎や積み重ねか。デボニス大公らしい考え方ではあるかな。新しい生活や時代と言っても過去からの地続きなのだし、伝統や新しいものというのは相対的なものだ。良し悪しではなく、どちらも大事なものだと思う。今を生きる人達や子供達のためにという言葉も。俺達や子供達を招いてくれたのも、そうした想いがあるからこそなのだろう。


 ドリスコル公爵も、そうしたデボニス大公の言葉に静かに頷いていた。

 ファンファーレの音色と共に、フィリップが謁見の間に姿を見せる。厳かな音色と共に前に進み、デボニス大公の前まで来ると膝を付く。


「これよりはそなたが大公を引き継ぐ。皆と共に一歩一歩を進んでいきなさい。その為に必要な事は、全て伝えたつもりだ」

「はい、父上。父祖に恥じる事のないよう、これからも精進して参ります」


 デボニス大公はその言葉に頷くと、自身の冠をフィリップの頭へと手ずから被せる。そうして――大公位の継承は成った。

 フィリップ大公は静かに立ち上がり、謁見の間の参列者側を見て言葉を続ける。


「これほどの顔触れに祝っていただけることを嬉しく思います。父祖より連綿と受け継いだものを、より良い形で子孫に渡していく事ができるよう、努力をしていきたいと思います。ささやかながら宴の席を用意しておりますので、楽しんでいっていただけたら幸いです」


 その言葉に大きな拍手が起こる。大公家の引退と戴冠も滞りなく進んだという印象だな。デボニス前大公としても肩の荷が下りたという事なのか、穏やかな表情で一歩脇に退いてフィリップ大公に拍手を送っていた。

いつも応援していただきありがとうございます!


今月、7月25日に境界迷宮と異界の魔術師コミックス版6巻が発売予定となっております!


詳細や特典情報については活動報告でも掲載しておりますが、今回も書き下ろしを収録していますので楽しんでいただけたら幸いです!


ウェブ版、書籍版共々頑張っていきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] >「皆聡明と聞いているが……ダリル卿も良く学んでいるな。この様子を見ていると次代も安心できる」 てお「悪い奴はいねぇがぁ!?子供を泣かす奴はいねぇがぁ!?」 …
[良い点] 獣だけ砂漠に転移していたらしい
[一言] 最初、宿泊して翌日に式典かと思ってましたw 派閥の貴族たちの都合も考慮したといったところでしょうか。
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