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番外1705 上映も終わって

 メギアストラと竜が空から吐息を浴びせ、ハドウルを始めとした武官達が蛮族王軍に突っ込んでいき、蛮族王を倒すためにこれまで忍耐していた分の鬱憤を晴らすかのように暴れ回る。セリア女王は戦況を見ながら遠隔から魔法で支援はしたものの、基本的には後方から戦いの行く末を見守っているだけで事足りる状態となっていた。


 元々の蛮族王軍は殆ど抵抗らしい抵抗も出来ず、壊走状態で、あちらこちらで部隊ごと全滅というケースも少なくない。勝利は誰の目にも確定的な状況となっていった。

 やがて――竜は大きく弧を描くと戦場を横切り、メギアストラやセリア女王に向かって声を響かせ、二度、三度と旋回してから何枚かの竜鱗を落として飛び去って行った。


「――礼を言っておったな」


 メギアストラもそれを見届けて戻ってくる。空中で反転すると、少女の姿になってセリア女王の前に降下してくると、そんな風に言った。


「戦いの手伝いをして竜鱗まで置いていくあたり、義理堅い事ね」

「竜らしいと言えばそうなのかも知れん」


 竜が他種族との対話やコミュニケーションを好むかどうかは個体差が大きいが、種としては総じて独立独歩で誇り高い傾向がある。セリア女王はその背を見送ってから静かに頷いた。蛮族王から奪還した宝冠をセリア女王が拾い、竜鱗も側近の一人であるファルナが回収する。


「セリアは大丈夫か?」

「ええ。怪我はしていないわ。メギアストラは大丈夫だった?」

「細かい傷は受けたがもう回復している」

「良かった……」


 戦況を見守りながらも安堵したように言うセリアにメギアストラは笑って応じ、それから少し真剣な表情になると、竜の飛び去った方向を見上げて口を開く。


「本当は――少し懸念もあったのだ。我は過去からの知識にはない方向への変化をしていた。セリアや皆との日々も心地良く……これで竜として良いのかどうか。このような半端者の力が真っ当な竜に届くのか……友の力になれるのか、とな」


 メギアストラが、胸の内をセリア女王に零す。


「加えて言うなら我から見て、最近のセリアは王として立派に成長しているように見えるからな。あの蛮族王とやらを見てしまうと、尚更そう思う。そのセリアの友であるから我も立派な竜でありたいと願っている」

「それを言うなら私の方こそ。メギアストラの友達として、魔王であることが誇れるものでありたいわ。それに……メギアストラと竜との戦い、すごかったわ。ずっと安定感があったものね」

「ふふ。竜と戦ったことでこのまま力を付けていけば良いと思えたのは収獲だな」


 そんなやり取りを交わして笑い合う二人は――戦場にあっても仲の良い友人同士という印象があった。


 幻影劇はそれから――戦後処理やセリア女王の統治の様子、海と水路の戦いでセリア女王とメギアストラの間の信頼感の更なる変遷やハドウルが騎士団長になっている事なども描きつつ、魔王国の移り変わりを描いていく。

 今でもセリア女王とメギアストラ女王の治政が続いているというナレーションを挟みつつ平和なジオヴェルムと魔王城を映す。美しい色に変化していく魔界の空の下、バルコニーでのお茶会をして微笑み合うセリア女王とメギアストラの姿を描いて幻影劇は終幕となる。


 そうして幻影劇の終わりを悟ると観客達は一人また一人と立ち上がり、大きな拍手と喝采を送ってくれた。


「いや、実に良い内容だった。偉大なる先達に学ぶべき事も多かったし、二人の友情も素晴らしい」

「幻影も素晴らしいものでしたね。飛行の場面や戦場はすごい臨場感でした」


 ジョサイア王が惜しみない称賛を送ると、フラヴィア王妃も微笑む。


「演出も色々と進化しておるな」


 と、顎に手をやって頷くイグナード王である。

 そうした反応に、サティレスは感じ入るかのように目を閉じる。


「幻術で人の心を動かすのは、私の目標にするところでもあります。防衛とは目的こそ異なりますが……何というのでしょうか。良いものですね、こういうのは」


 サティレスはそう言って微笑む。


「そうだね。これからも幻影劇作りを手伝ってもらえると嬉しい」

「勿論です。私の方からお願いしたいくらいに、楽しかったです」

「それは良かった」


 こういう事への楽しさを知ってもらうというのも、迷宮の外で過ごすのには重要だしな。ティエーラやコルティエーラ、ヴィンクル、アルクス、ユイやオウギといった面々と共に過ごしていく事になるサティレスだけに、何かしらの楽しみを知ってもらえるというのは大事な事だ。


 メギアストラ女王やボルケオール、カーラやヴェリト達といった面々もセリア女王や魔界、魔王国について扱った幻影劇が好意的に受け止められていて、機嫌が良さそうだ。特にメギアストラ女王はセリア女王に関して色々聞かせてくれたという事もあり、製作にはかなり噛んでいるからな。


「セリアの事がこうして好意的に多くの者に伝わるというのは……嬉しいものだな」


 遠くを見ながらも微笑んでいるメギアストラ女王だ。そんな風に語るメギアストラ女王もまた、尊敬の眼差しで見られていたりするが。魔王国の事に踏み込んだ内容であればメギアストラ女王についても好感度は上がるだろうなという予想は立てていたが、この辺はその通りになっている感じがする。


「いや、楽しませてもらった。戴冠式の日に相応しい内容であったな」

「そう思っていただけたのであれば何よりです」


 メルヴィン公の言葉に笑って答える。


「ん。好感触」

「楽しんでもらえて良かったです」


 と、シーラやエレナの言葉に、パルテニアラも笑って頷いていた。

 新作の封切りは魔界や魔王国、歴代魔王への好感度と共に好印象という感があるな。概ね魔界と魔王国の幻影劇の公開にあたり、伝えたいことは伝えられたし目標にしていた部分も達成できたかなとも思う。

 新作の幻影劇については明日以降、一般にも公開される。街での盛り上がりに合わせてなのでかなりの客入りが予想されるところだ。まあ、整理券等も配って混乱が起きないようにという、準備は進めているが、その様子や感想を語り合うところはサティレスにも見せてやりたい。


 中継映像で幻影劇場の前やロビー、売店等は見られるようにしておこう。


 そんなわけで幻影劇場での盛り上がりは、終わっても興奮冷めやらぬといった感じでみんな感想を語り合っていて結構なものだった。


 上映が終わった後は火精温泉へ足を運び、みんなでのんびりとさせてもらう。


「明日はともかく、明後日以降はまた忙しくなってくる。こうした時間は有難いな」


 湯に浸かって笑顔を見せつつ、寛いだ様子で大きく息をついているジョサイア王である。

 俺も演出や幻影劇の封切りがあって色々やる事があったが、ジョサイア王は当人という事でかなり忙しかったし、王位継承に伴い色々するべきことも控えているようだからな。


 入浴時はかなり寛いでいて息抜きできている様子であった。


「ふむ。明日以降はフォレスタニアに移っているが、念のため、少しの間は何か引継ぎで分からない事があれば対応はできるようにはしておく」


 メルヴィン公が言う。


「ふふ。父上も折角の新生活です。ゆっくりと馴染んでいただきたく。無理はしないようにしておりますし、側近の面々も支えてくれますからね」

「そうか。ならばよい」


 メルヴィン公もジョサイア王の返答に笑顔で頷く。当面はメルヴィン公にゆっくりしてもらいたいというのもあるし、安易に頼るのも違うという事だろう。メルヴィン公が少しの間は、と言ったのも、先王が現行の政治に影響力があるのは良くないと思っての事であるし、ジョサイア王とメルヴィン公の双方にそうした認識があるというのは見ていて安心できるところだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] いや~、とっても良い幻影劇でした。
[良い点] 戦いの手伝い(BGM)をして腹毛まで置いていくあたり、義理堅い事ね
[一言] 蛮族との戦争が終結したところで劇の区切りになるのかと思ったのですが違ったようです。
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