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番外1697 魔王達の物語

 花妖精達や小さな精霊達も王城の迎賓館で寛いでいて、中々賑やかな光景が続いている。迎賓館でみんなと一緒に食事をとりながらもセイレーン達とハーピー達の歌声を聴かせてもらい、のんびりと寛がせてもらった。イルムヒルト、ドミニクやユスティアも甲板上の歌や演奏に加わったりして楽しそうに笑っている。


「ふふ。お城も街中も大分盛り上がっていますね」

「ん。あちこちで酒盛りもしてる」


 アシュレイが水晶板モニターを見て言うと、シーラもこくんと頷く。モニターの向こうでは酒杯を掲げて『ヴェルドガル王国に!』と乾杯している住民達の姿があった。


「うん。楽しんでもらえてるようで何よりだ」


 人、ドワーフ、エルフ、リザードマンに有翼種、魚人族や人魚に妖精、精霊と様々な種族が入り混じって盛り上がっている光景はタームウィルズならではだな。

 いや……魔王国あたりでも似たところがあるか。

 ともあれ以前よりも更に種族の種類が増えているタームウィルズである。


 パレードが楽しかったという感想も街角のあちこちから聞こえてきて、俺としても喜ばしい。

 ジョサイア王とフラヴィア王妃は食事と休憩をとった後は予定通り国内外の賓客と顔を合わせたりして挨拶や談笑をしていた。休憩時間以外は迎賓館に面した王の塔のバルコニーにて多くの人達に姿を見せながらではあったが、二人で寄り添っている姿は仲睦まじくて結構な事だ。


 フラヴィアとも仲の良いステファニアは、その姿にうんうんと頷いていた。


 そんなわけで昼食も済ませてから暫く王城で過ごし、その後で頃合いを見てから幻影劇場に移動することとなった。

 幻影劇の上映については鑑賞前にクリアブラッドの魔道具で酔い覚ましをする旨を通達している。幻影劇については酔っていると鑑賞中に気分が悪くなる可能性もあるしな。とはいえ新作の幻影劇をしっかり観たいという事なのか、みんなクリアブラッドを使用しての鑑賞に賛成してくれた。


 そこまで酔いが進んでいる面々もいないのは……何というか、各国からの賓客も多いからというのもあるだろう。酔いつぶれて醜態を晒してはちょっと失点として大き過ぎるからな。

 そんなわけでほろ酔い程度の上機嫌な面々が多く、これから新作の幻影劇鑑賞という事でクリアブラッドの魔道具を使用しても特に機嫌の良さは総じて変わっていない様子であった。


「楽しみですなあ」

「ご即位に合わせて新作も封切りされるという話でしたからな。併せて楽しみにしておりました」

「何でもメギアストラ陛下の故郷の様子が見られるとか――」

「おお……。魔界の事は噂に聞いております」


 と、そんな調子でドリスコル公爵とブロデリック侯爵、ウィスネイア伯爵が談笑しながらも竜篭に乗り込んだりしていた。


 今日のタームウィルズは道も結構混雑しているため、迷宮入り口前広場までは馬車ではなく竜篭やフロートポッドで移動する。そっちの方が警備もしやすいし、街中の人にまたジョサイア王とフラヴィア王妃や同盟各国の面々が移動しているところを見せる事ができるからだ。


 そうやってフォレスタニアに向かうと、あちこちからジョサイア王達やヴェルドガル王国、同盟を讃える声が聞こえる。境界公家についても讃える声が聞こえるが……まあ、うん。ジョサイア王が広場でも触れてくれていたからな。同盟と並んで声を上げてくれるあたり、方針がしっかりと伝わってくれているのは間違いないようではある。


 そんな街中の反応を確かめつつフォレスタニアへ。ちなみにフォレスタニア側でも王城側から酒と料理の提供をしてくれているので、かなり活気に溢れている。タームウィルズから直通で訪れる事ができる場所だからな。


 入口前広場から大型のフロートポッドに乗って幻影劇場前まで移動していく。


「うむ。どうなったか楽しみよな」


 メギアストラ女王当人も期待してくれているようだ。観客達も座席についていき、上映を待つばかりという状況になっていく。

 サティレスはといえば――些か緊張している様子に見える。それだけ本気で幻影劇作りに取り組んでくれたのだとは思うが。


「戦いは楽しかったのですが……こういうのは何だか落ち着かない気分になってしまいますね」


 そう言って苦笑するサティレスである。


「迷宮の守護者とは違う分野での仕事ではあるからね」


 俺の返答にこくんと頷くサティレスである。緊張しているサティレスに、みんなも少し微笑ましそうな表情を見せる。

 というわけで上映前に少し挨拶をしてくるとしよう。檀上に移動し、一礼すると拍手が起こる。


「まず――ジョサイア陛下とフラヴィア殿下におかれましてはご即位、並びにご成婚、誠におめでとうございます。このような祝いの日に、こうして新しい幻影劇の鑑賞会を日程の一つとして組んでいただけたことを、嬉しく思います」


 俺がそう言うと再び拍手が起こった。こうして幻影劇を日程に組み込む事も、ジョサイア王とフラヴィア王妃が共にかなり乗り気だったからな。かなり楽しみにしてくれているのだろう。

 一旦言葉を区切り、拍手が収まる頃合いを待ってから更に言葉を続ける。


「今回の幻影劇は魔界と先代魔王陛下に関するお話です。魔界の環境はルーンガルドとは大きく異なりますが、ヴェルドガル王国と同じく多種多様な種族をその内に抱える国。その国の志を体現する魔王陛下にまつわるお話という事で、戴冠式に合わせての封切りが出来ましたのは光栄なことです。それでは、しばし皆様のお時間を頂戴し、幻影の物語にお付き合いくださいませ」


 そう言って檀上から劇場後方の席まで戻ってくる。座席側の照明が落とされてざわめきが静かになっていったところで、幻影劇が幕を開けた。


 最初に広がったのは魔界の空だ。正面の舞台から壁、天井へと、光の波のようなものが走ると風景が一変していく。眼下――足元も普通の床だったのが魔界の森が広がる光景へと変じていった。


 景色は、ゆっくりと流れている。魔界の空や森、環境の違いをまず観客に理解してもらう必要がある。魔界の空はグラデーションがかかっていて時間帯によって色合いが変化する。遠くで稲妻も走っていたりするので実際は中々に剣呑な印象もあるのだが……幻影劇の開幕という事もあり、ルーンガルドと魔界、双方の価値観で「色合いが綺麗」と評価されるような空模様にしている。これは魔界にも実際にある色合いだ。


 魔界を初めて見る面々からも、好印象を持ってもらいたいからな。そうやって魔界の環境についてある程度観客に把握してもらえる時間を取ってから――突如座席の後方――つまり俺達の背後から大きな影が現れ、座席から前方の舞台へ向かって堂々と縦断していく。


 名もなき竜――当時のメギアストラ女王の姿だ。

 その名もなき竜の移動に合わせるようにカメラも追従。風景も動き出す。


「――逃さぬぞ。不届き者共め」


 名もなき竜が独り言ちる。何かを探すように魔界の空を旋回していたが、やがて何かを見つけた、というように鋭い視線を向けると、視線を向けた座標目掛けて一直線に突き進んでいく。カメラも竜に合わせて動く。凄まじい速度で景色が流れ、見る見る内に地表が近づいてくる。


 森の木々の中に紛れていたのは――魔界のゴブリン達だ。魔界においては蛮族とされる敵対種族。ルーンガルドのそれよりも強力に変異しているというのは間違いない。


 が、それでも竜に対抗できるほどではない。あっという間に魔界ゴブリン達は竜に間合いの内側まで入られると、鎧袖一触、文字通りに蹴散らされていた。舞台上のスクリーンの中で、名もなき竜の翼や尻尾の一撃で弾き飛ばされたゴブリン達が、客席側に吹っ飛んでくる。座席と座席の間にある通路付近へと叩き込まれる形だ。


 ゴブリン達の壊走までそれほど時間はかからない。ゴブリンシャーマンが杖を掲げて対抗しようとしたものの、竜の口から放たれる閃光の吐息の方が早い。ゴブリンシャーマンもあっさりと吹き飛ばされて、客席側の通路に転がると残った者達は悲鳴を上げながらも逃げ出す。あっという間の出来事だった。


 名もなき竜は正面のスクリーンから抜け出すようにして、転がったシャーマンに近付く。そうして――腰に吊るしていた袋に爪を引っかけ、その中から魔石を器用に摘まみ出すと満足げに頷いた。


「ふむ。盗みに入られたが、無事に取り戻す事ができたな。これでいい」


 そう言って頷く名もなき竜。


「高位の竜、とは……」


 と、声を漏らす者がいた。竜が視線を向けると、その人物がスクリーンに映される。ディアボロス族の女性――。魔王に即位する前の、セリア女王だ。

 メギアストラ女王が俺達に語ってくれたように、こうして二人の出会いから幻影劇は始まったのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 強力に変異しても相手の力量を見極められずに対抗しようとするあたりは、やはりゴブリンですねw
[良い点] 花妖精達や小さな精霊達も演習場の獣ホールから遊具を持ち出し遊んでいる
[良い点] 更新お疲れ様です。 [気になる点] >フラヴィアとも仲の良いステファニアは、その姿にうんうんと頷いていた。甲板 この後何か続くのですか? [一言] >テオドールの挨拶 石坂浩二さんの声で脳…
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