番外1695 祝福のパレード
お披露目の際の騎士団と魔術師隊の準備は既にできているが、またすぐに移動というのも忙しないからな。謁見の間にて少し時間を取って国内外の面々にしっかりと新しい国王と王妃の姿を見せ、祝福の言葉を受けてから移動していくという事になる。
「お二方とも、おめでとうございます!」
「思わず見とれてしまいましたな……!」
と、列席している面々も盛り上がっている様子だ。魔界や南方のギメル族、地底王国の面々といった顔触れは異文化における結婚式は初めてという事で、かなり興味深そうにしていたし、美しいものだったとかなり感動している様子であった。
そうした挨拶にジョサイア王とフラヴィア王妃も笑顔で応じる。
明るく応対しているが、それだけにティエーラからの言葉を伝えた際、ジョサイア王が目を閉じて、噛み締めるように感じ入っていた姿が印象的だった。
応援してくれる人がいるというのは有難いものだ。俺もみんなが支えてくれたから、その気持ちは良く分かる。特に、国王に対して人とは違う立場から祝辞を送るなんていうのは、迷宮管理者にしかできない事だろう。儀式に際して示した王としての心持ちや想いを応援してもらえたわけだから、ジョサイア王としても嬉しいのだろうと思う。
重責だけに不安だってあるとは思うけれど、王ともなると他人には中々弱音も言えないだろうし。まあ、その辺はフラヴィア王妃がいるから大丈夫だとは思うけれど、それでもだな。
しばらくそうして列席者達へのお披露目と軽い挨拶が行われるのを見てから、頃合いになったので練兵場へと移動する。
シリウス号の周辺と前方は騎士団と魔術師隊、楽士隊に兵士達が固めており、既に街中へのお披露目に向かうためのパレードの準備が整っていた。
このパレードは先触れと警備を兼ねているな。シリウス号の巡回ルートを先んじて移動し、その後を俺達がついていくという形になる。パレードの面々は馬や飛竜、地竜を含めて全員儀礼用の装備だ。晴れの日という事で少し華やかな印象のサーコートやローブ等を身に纏っている。
こうした礼装はラヴィーネやリンドブルム、コルリスやアンバー、ティールといった動物組も同じだな。晴れの日という事で少し華やかな装飾を身に着けていたりするのだ。
シリウス号の甲板にはゴンドラ型フロートポッドも既に用意されている。ドーム状のフレーム屋根と周囲を囲む手すりに柱……東屋のような印象のあるフロートポッドだ。どの角度からもしっかりとジョサイア王とフラヴィア王妃の姿を見て取る事ができるな。
屋根や柱が花で飾り付けられていて、華やかで壮麗な印象だ。そこにジョサイア王とフラヴィア王妃が乗り込めば更にそうした印象も増すだろう。
国王夫妻は始め甲板上のゴンドラに乗って移動する。俺達やメルヴィン公夫妻、ラウンズベリー夫妻に加えて、騎士団長のミルドレッド、宮廷魔術師のリカード、宰相のハワードといった重鎮が周囲を固める。
権力の移譲で地盤が盤石というのを示すためでもあるな。
ここにテスディロス達も一緒に乗るわけだ。勿論いざという時は護衛役にもなれるが、演出の手伝いという性格が強い。護衛としての役割よりも共に歩む隣人として協力している、という部分を強調したいし、そのように通達もしているわけだ。
みんなが船の甲板に乗り込んだところでいよいよお披露目の時間だ。パレードの先頭集団が音楽と共に街への出発を始める。結構盛大なパレードなので後続のシリウス号が動き始めるまで、少し時間はあるが、街中の様子は水晶板で見られるようにしている。
五感リンクで艦橋のカドケウスの視界を見せてもらうと、タームウィルズ中心部の王城前の通りは既にかなりの盛り上がりを見せている様子だ。
パレード部隊が先行して姿を見せると、大きな歓声を持って迎えられる。華やかで壮麗なイメージの音楽だが、この辺はジョサイア王とフラヴィア王妃の結婚式を想像して合いそうな物を、という事なのだろう。
同時に――早速各所に仕込んだ魔道具が、街中のあちこちに待機しているティアーズやハイダー達の手によって起動させられる。パレードの進行に合わせるように少しずつ、光の粒や花弁が風に乗ってくるようなイメージで周囲に漂い始める。最初はごくごくさりげなく。パレードの進行に合わせて段々と本格的になっていくわけだ。ティアーズやハイダー達にも演出の意図は伝えてあるからな。進行状況に応じて魔道具の調整もしてくれるので安心だ。中継映像も見られるし一石二鳥といったところか。
最初は楽士隊。旗を掲げる兵士達。馬に乗った騎士達、シールドで空中歩行する魔術師隊。地竜、飛竜と共に進む竜騎士隊と続いていく。
楽士隊の周囲にちらほらと煌めきが舞い始め、掲げられる旗の軌道に花弁が舞う。馬の周囲に風を可視化したような青や緑の流れが生まれて、魔術師隊が手を振るような仕草をみせれば沿道の人達に光の泡が降り注いだ。
飛竜と地竜はもっと分かりやすい。翼に沿うようにして花弁が降り注ぎ、地竜の空中歩行に合わせて光の粒が舞い散る。楽しそうに翼をはためかせる飛竜や、歩行の足踏みを大きくしている地竜もいるが、この辺は仮想空間の訓練で慣れているので竜達がそうした動きを見せても隊列が崩れる事はない。ジョサイア王や竜騎士達も晴れの日だからという事で、飛竜や地竜達の遊び心を認めてくれているわけだな。相談を受けたジョサイア王も「見ていて楽しくなってくるし、私は良いと思うよ」と笑っていたしな。
最初は普通にパレードを歓迎していた沿道の人々も、演出に一人また一人と気付き始めて、更に歓声が大きくなる。
『わあ……』
『これは境界公様の……?』
子供達がそうしたパレードと幻影の演出に目を瞬かせてから、笑顔になっていた。ヴェルドガル王国やジョサイア王、フラヴィア王妃を讃える声、祝福を伝える声も聞こえる。
そうして――俺達を乗せたシリウス号も、いよいよ動き出した。周囲を竜騎士隊が守り、城から飛び立ってゆっくりと動いていく。街の人々からシリウス号が見える位置になると、更に歓声が大きくなった。俺も――マルレーンのランタンを借りて、周囲に幻影を映し出していく。
シリウス号の周囲に煌めきや泡を散らし、幻影の花や鳥を随伴させる。散らしている花弁もそうだが、これらはジョサイア王やフラヴィア王妃が好きな花や動物をモチーフにしていて、礼服やウェディングドレスに施された意匠と同じものだったりする。
甲板上ではイルムヒルトとユスティア、ドミニクが楽士隊と共に演奏を行い、氏族の面々もイルムヒルト達に合わせるように楽器を奏でている。今日の日のために楽器が得意になった氏族達は練習してきたりしているのだ。少し壮麗だった音色も楽しげな音色になって、沿道の人々の盛り上がりに合わせるようにタームウィルズの街中に音色が広がっていく。
そうして二人を乗せたゴンドラ型フロートポッドが浮いて、シリウス号より少し先行する位置に移動する。にこやかに手を振るジョサイア王とフラヴィア王妃に、沿道の人々のテンションも最高潮といった様子だ。俺達も船首寄りに移動してテスディロスやオズグリーヴ、ゼルベルといった面々と共に軽く護衛役も兼ねた動きを見せる。
と、そこで変化が起こった。ティエーラやコルティエーラ、四大精霊王も祝福していたから精霊達の力が活性化しているのは分かっていたが――小さな精霊達がその精霊の力の高まりに呼応するように一時的な顕現をしてきたのだ。
花妖精達も東区から飛んできて、ゴンドラの周囲で歌に合わせて精霊達と一緒に舞う。花妖精達は参加したがっていたから演出の一環で、精霊達の飛び入り参加は想定内だから問題ない。
シリウス号やゴンドラの周囲に楽しそうに浮かんで手を振ったりしてくる精霊と花妖精である。俺やテスディロス達も手を振り返すと小さな精霊達が嬉しそうに笑う。
フラヴィア王妃がゴンドラの手すりの上に腰かけてお辞儀をするサラマンダーを軽く撫でたりして……沿道の観客達も表情を綻ばせていた。
そうして――ゆっくりとゴンドラとシリウス号とで、街中を進んでいく。パレードの進行と盛り上がりに合わせて、街中を包む幻影もどんどん賑やかな事になっていくのであった。