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番外1693 時代の移り変わりと共に

「僕からも改めてお礼を言わせてください。僕自身の事もそうですが、タームウィルズにやってくる前から……グレイスの事や母さんについて気遣って下さいました。その事にはとても感謝しています」


 母さんの名誉の事。グレイスの立場に関する事。それらについてはメルヴィン公が気遣ってくれた。それに俺自身がタームウィルズに来てからもそうだ。

 母さんが死睡の王を討伐したから、ヴェルドガル王国としてはまだ被害を抑えられた方と言える。だから――メルヴィン公もそうしてくれたのだとは思うが、王侯貴族的な理由だけではない。

 初めて会った頃も取り込もうとするわけでもなく、俺の気持ちを尊重してくれたし、何かと便宜を図ってくれたからな。


「ふふ……。礼を言いたいのはこちらの方なのだがな。リサ殿とそなたには親子二代に渡って随分と世話になってしまった。前にも話をしたが……魔人への対処にあたり中心に据えてしまった事を、不甲斐なく思っておったよ。今までは王としての立場があったが、私の方こそ、そなたやリサ殿には感謝を伝えたいのだ」


 メルヴィン公が言う。……ああ。俺は俺自身のために戦ったけれど、そうやって母さんのことを考えてくれたし、力添えをしてくれたから……前だけを向いて動く事ができたのだと思う。


 母さんも今日は仮面をつけて王城に来ている。メルヴィン公から是非に、と母さんについても招待されていたからな。メルヴィン公のその言葉に、母さんは目立たないようにしながらもそっと一礼をしていた。メルヴィン公もそれを視界の端に入れたのか、顔は向けずに一瞬目を閉じて小さく頷くようにして反応を返す。母さんの事は冥府絡みなので秘密にしているし、大勢いる場だからこういったやり取りになるが……お互いに向ける感謝の気持ちをそこに見て取る事ができた。


 そうしていると、水晶板にティエーラが姿を見せる。

 ティエーラも、王城には国内の貴族や役人達が大勢いる関係で王城側に顕現することはできないまでも、聖域での儀式が済んだら連絡すると言っていたからな。


『これでもうテオドールのところに映っているのですね?』


 ティエーラが尋ねると、ティアーズがこくんと身体を傾けるようにして肯定の意を伝える。魔道具の操作を教えてもらっているティエーラは微笑ましいものがあるが。


「ああ、儀式も終わったのかな?」


 そう声をかけると、ティエーラはモニターに顔を向けてきた。コルティエーラも一緒で、こくんと頷いてくる。


『滞りなく。ジョサイア王の伝えてくる契約内容と、言葉に込められた想いに偽りはないということが迷宮を介して伝わってきました』

『手順も……迷宮側が教えてくれたから、難しい事もなかった、と思う……』


 と、ティエーラとコルティエーラが言う。コルティエーラが腕に抱えている宝珠も明滅しているな。


「それなら良かった。こっちはこの後婚礼の儀とお披露目や宴会、観劇が控えているから、フォレスタニアに戻るのは少し遅くなるかな」

『その辺は事前に話していた通りですね』

『お城のみんなに……伝えておく』


 言伝をしてくれる始原の精霊というのも冷静になると中々にすごいものがあるが……。

 ティエーラは『それから――』と言葉を続ける。


『私達はあまり人の世や特定の国、種族といったものに肩入れはしませんが、迷宮管理者の立場としてならば伝えられる事もあります。ジョサイア王の継承に言祝ぎを。伝わってきた感情は温かなものでした』


 そうか……。その言葉を聞けば、きっとジョサイア王も喜ぶのではないだろうか。ティエーラからの祝福は精霊としてのものではなく、迷宮管理者のものではあるけれど、そうだとしても幸先がいいと思う。


「分かった……。間違いなく伝えておくよ」


 俺の言葉にティエーラとコルティエーラは頷いて、そうして通信を切り上げる。

 ジョサイア王だけではなく、メルヴィン公にも今の話は伝えておこう。きっと安心してもらえると思う。


 そのメルヴィン公はと言えば、今はデボニス大公、ドリスコル公爵と話をしているようだった。二人とも穏やかに談笑しているようだ。

 契約の儀式も無事に終わったようだと伝えに行くと、二人も俺に笑顔を向けてくる。


「少しティエーラと連絡をしていました」

「おお、契約の儀も無事に進んだという事ですかな」

「そうですね。王位の継承に言祝ぎを、と。伝わってきた感情は温かなものだったと言っていましたよ」

「そうか……。ティエーラ様が」

「ジョサイア陛下の治世も楽しみですな」


 デボニス大公の言葉に答えればメルヴィン公が呟くように言い、ドリスコル公爵も顎に手をやって満足そうに頷く。


「メルヴィン公が即位した時の契約の儀でも、そうした感情は伝わってきたわ。今代はきっと大丈夫だろうと……そう思った記憶があるわね」

「それはまた……。ご期待に沿えるものだったかは分かりませぬが」


 クラウディアが目を閉じて言うと、メルヴィン公も苦笑する。

 クラウディアの場合、歴代の王の感情に関しても儀式を通して知っている分説得力があるな。実際、メルヴィン公の時代は、即位の際が急だったので大変だったと聞いているが、それは派閥の力関係の調整だとか執務に関する大変さだったようだしな。状況が落ち着いた後は三家の確執に絡んだ内的要因と、魔人関係での外的要因での混乱を除けば概ね平和で、メルヴィン公の代はクラウディアが感じた通りだったと言える。


「私も程無くして引退し、フィリップに後を引き継ぐという事をお伝えしていたのです」


 デボニス大公が言う。

 ああ、元々そういう予定だったな。メルヴィン公と引退のタイミングを合わせるというか。


「では、フィリップ卿が大公を継承した折りには、挨拶に伺います」

「ふふ。楽しみにしております」


 デボニス大公も笑って応じる。


「お二方が引退……時代の移り変わりを感じてしまいますな。私が家督を引き継いだ時から、ずっとお二方が先達としておりましたので」


 ドリスコル公爵としてはそういった感想になるわけだ。


「これからはオーウェン殿が先達ですな」

「ジョサイア陛下やフィリップ殿に恥じないように心掛けねばなりますまい」


 三家もジョサイア王、フィリップ大公にドリスコル公爵という顔ぶれになるわけだ。

 そうやって話をしているとジョサイア王が聖域から戻ってきて準備が整ったと女官が伝えてくる。続いては――ジョサイア王とフラヴィアの婚礼の儀だな。

 待機場の皆も頷き、再び謁見の間に移動する事になる。結婚式の宣誓を受ける役としてまず巫女頭のペネロープ。メルヴィン公とミレーネ夫人、グラディス夫人、それからフラヴィアの両親――ラウンズベリー家の夫妻は二人の親という事で列席以外にもすべきことがあり、皆に先行して移動していた。


 臨時の託児所の方では引き続きルシール達が待機してくれているので安心である。

 頃合いを見て女官達が謁見の間に案内してくれた。謁見の間は花で飾り付けが行われ、優雅な音楽を楽師達が奏でている。継承の儀式は厳粛な雰囲気だったが、今度は華やかな雰囲気がある。

 案内されてきた列席者も先程との空気の違いを感じ取ったのか、談笑している姿も見受けられる。


 そうやって列席者が謁見の間に揃ったところで――楽師達の奏でる音色が変わる。


「ただいまより、ヴェルドガル王国国王、ジョサイア陛下と、フラヴィア=ラウンズベリー様の婚礼の儀を執り行います!」


 そうして――役人が結婚式の始まりを宣言すると、高らかにラッパが吹き鳴らされた。

 まずは巫女頭のペネロープ。メルヴィン公や二人の夫人、ラウンズベリー夫妻が控えの間から入ってくる。玉座のある檀上の手前まで移動して控えの間に相対するようにして、ジョサイア王とフラヴィアの入場を待つのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 引退しないと言えないこともあるとは国王も大変ですねw
[良い点] 獣もスカート穿いてバグパイプで祝福している
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