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237 竜鱗防具

 騎士団と兵士、それに魔術師が訓練の対象ということで人数も多いが……部隊ごとに分かれてもらい、後は対応できるだけのゴーレムを増やせば一度にそれなりの規模で回していける。

 時間が少ないので密度を濃くしたいが、ハードになり過ぎても問題がある。交代して休憩を取れる余裕も作る。訓練で体を壊しては元も子もないからだ。

 夏場なので練兵場上空を闇魔法の防護魔法でカバーし、陽光を弱めて気温を下げることで熱中症を予防する。


 後はきっちり水分や塩分を補給してもらい、ローテーションと休憩を挟みながらの訓練だ。

 休憩中であっても見学はしてもらう。他の人間の動きを見て、失敗例と成功例の両方を学んでもらうのは重要だ。成功例を見ることはイメージトレーニングにもなるし、失敗だって自分に当てはめて考えれば動きの改善や見直しにも繋がる。


「くっ!」


 ゴーレムの槍を受け損ねた騎士の1人が足を踏み外しかけてバランスを崩す。


「魔道具を操作すると思って動くのではなく、踏み込んだそこに足場があるのが当然というぐらいに感覚を馴染ませるんです」


 魔道具の操作に不慣れな者もいる。アドバイスはするが、結局のところは慣れだ。これについては反復練習するしかない。


「ぬおっ!」


 直上からゴーレムが槍を構えて降ってくる。水で形作っただけなので怪我はしないが、直撃した場合は戦闘不能扱いということで離脱する羽目になる。騎士の意地というか矜持というか。歯を食いしばり、ぎりぎりのところで身を捩ってそれを避けた。なかなか良い反応だ。


「左右だけでなく上下にも動けるということをお忘れなく。見ての通り降下が最も速く動けますが、墜落の危険がありますので慣れるまでは止めておいたほうがいいですね。足元からの攻撃はシールドで防ぎやすいので、頭上からの攻撃に意識配分をするといいですよ」

「し、しかしこれは――くっ!」


 槍衾の上から飛び出したゴーレム弓兵達が、一斉に矢弾代わりに水弾を放ってくる。手に持った盾とカットラスで払いながら、ゴーレムに向かって切り込む。

 突出した騎士に向かって槍の穂先が迫るが、同じ部隊の兵士達が後に続いて突っ込む。ゴーレムに体当たりを食らわせて怯ませ、そのまま槍を交える。

 判断力と戦意も良いな。錬度が高い。これなら、もう少し厳しい連携をゴーレムにさせてもいいかな?


 ゴーレム達を天地逆さまになるよう浮かばせると、将兵達の顔が引き攣った。攻めも守りも、それだけで勝手が変わってくるからな。

 足裏にシールドが出せるだけではあれはできない。魔道具でやろうとするなら、レビテーションとエアブラストの制御で上手く体を保持しないといけないのだが。まあ、これも今見せておけば、いずれ可能な者が出てくるだろう。


 そんな調子で夕暮れになるまで訓練を続けた。

 騎士達は最後まで付いてきたし、兵士達も終わった時には槍を支えにしている者も多かったものの、皆自分の足で立ち、真っ直ぐ前を見ていた。気合が入っていて結構なことだ。


「どうだったかな?」

「いや、実に……有意義な訓練でした」


 フォブレスター侯爵に問われた騎士団長は肩で息をしていたが呼吸を整えながらそう答えた。


「早速明日から今日学んだことを訓練に組み込んでいきたいと存じます」

「うむ。皆の者、今日はご苦労であった。教導に当たってくださった、テオドール殿に拍手を」


 将兵達から拍手が起こる。俺は一礼してそれに応えた。




 城に戻ってから晩餐の席につく。港町だけあり、出される料理には、魚介類が多い。魚貝のスープ。魚の蒸し焼き。それにロブスターのチーズ焼き。どれも美味いが、特にチーズ焼きは絶品である。


「どうでしたかな。今日の訓練は」


 と、騎士団についての感想を求められた。フォブレスター侯爵は上機嫌な様子である。


「いや、錬度が高いと思いますよ。士気も規律も十分だから脱落者もいなかったのでしょうし」

「彼らには良い刺激になったと思いますぞ。実は以前より、陸と海の間で彼らには軽い対抗意識があったのです」

「そうは見えませんでしたが……」

「問題になるほどではなかったということです。互いの切磋琢磨になる部分でもあるので険悪になるようなことさえなければ良いと、騎士団長と話をしておりましたからな」

「その点、空中戦については互いに経験も同じ。陸海問わずに重要、と」

「そういうことです。手本や理想とすべき動き、これからの目標を具体的に目の当たりにさせられて彼らも協力し、意識し合いながら一層努力に励むことでしょう」


 なるほど。互いに適度な競争心があるから多少ハードな訓練であっても向上心を煽れるだろうと。

 脱落者がいないのも、互いに見栄を張っていた部分もあったからというわけだ。フォブレスター侯爵はさすがだな。


「テオドールが訓練で操る時のゴーレムは……何というかゴーレムとは思えない動きをするわね。人間的というか何というか……わたくしの人形とはまるで異質だわ」


 ローズマリーが言う。


「ああ、ゴーレムごとに、疑似的な状況判断までの時間や、連携の遅延を作ってるからかな。そうでなきゃ集団戦を想定した訓練にならない」


 制御している俺は状況把握ができているが、あくまで当事者であるゴーレムが相手の動きを認識して動くというタイムラグを設けさせているのだ。更に仲間のゴーレムの動きを別のゴーレムが認識。それから連携を図るといった具合。

 そういった遊び(・・)を無くすと全体が1つの生物のように連携するはずだ。それはそれで別の訓練にはなるだろうけれど。


「攻撃を受けたゴーレムがよろけたりするものね」


 クラウディアが苦笑する。


「けれど、テオはそういった動きを予想してこちらが動くと、ゴーレム側に痛みを堪えさせての動きというのも再現させますからね」

「一度ゴーレムの捨て身の攻撃を受けてしまったことがある」

「……解説を聞いても冗談みたいな話だわ」


 グレイスとシーラの言葉に、ステファニア姫の笑みが若干引き攣ったものになった。


「そういうのも、みんなと訓練してゴーレムの動きに組み込んでいったところはあるよ」

「最初の頃と比べると、かなり人間らしい動きになりましたね」


 と、アシュレイ。


「なるほど……。テオドール殿と皆さんの研鑽の恩恵に与っているわけですな。改めて感謝しなければなりますまい」


 フォブレスター侯爵は目を閉じて静かに頭を下げたのであった。



「ああ、ようやく出来上がった!」


 晩餐後、貴賓室に戻ってきてしばらくしたところで、アルフレッドが嬉しそうな声を上げて、手足をソファに投げ出す。


「竜鱗の防具?」

「うん。きっちり全員分だ。とりあえず着てみて、動きにくいところがないか見てもらえるかな?」


 ビオラに手渡される形で、パーティーメンバー全員に防具が行き渡る。ビオラの手で採寸してあるので全員の体格にぴったり合った装備となるわけだ。


「私も着られるんだ!」


 セラフィナが嬉しそうな声を上げる。


「特注品だからな」


 ラヴィーネのプロテクターまで作ってあるからな。


「それじゃあ、私達は寝室で着替えてくるわね」


 イルムヒルトが言う。みんなで連れ立って寝室へと入っていった。俺も手早く着替えてしまう。

 アルケニー糸の布地はかなり手触りが良い。心臓や喉。腹部など、要所要所を竜鱗が覆う。白い竜鱗もまたすべすべしていて良い感触だ。

 喉元の部品には魔石が組み込まれている。防御魔法プロテクションのエンチャントが刻まれているはずだ。この上、火炎耐性があるのだから至れり尽くせりである。


「どうかな?」


 拳を突き出し、肘を曲げ。腰を捻ったり足を上げてみたりと、色々と身体を動かしてみる。


「いいね。軽くて竜鱗部分も動きの邪魔にならない」


 グレイス達も寝室から出てくる。寝室に入っていった時と、見た目に変化はない。服の下に着込むタイプの防具だから、動きやすいかどうかも服を着て判断しなければならない。


「動きにくいとかはない?」

「大丈夫みたいです」

「マルレーンは?」


 マルレーンに問うと、首を縦に振って胸に手を当てて笑みを浮かべる。どうやら問題なさそうだ。


「いや、良かった。今回は割とぎりぎりだったね」


 アルフレッドは一仕事終えて上機嫌である。


「お疲れ様。ともかく、これでアルフレッドとビオラも休暇に移れるわけだ」

「そうだね。しばらくオフィーリアとのんびりできそうだ」

「町の探索とかできますかね。この町の鍛冶屋を見に行きたいのですが」


 と、ビオラ。ビオラも……仕事が終わったばかりだというのに勤勉なことだ。


「オフィーリアに護衛を用意してもらえるか頼んでみようか」

「ありがとうございます」

「ふむ。となれば出立はいよいよ明日か」


 テフラが目を閉じる。そう。明日からは数日間の船旅だ。航路としては特別なところはないし、行先もジルボルト侯爵領なのだが、シルヴァトリアの近海というか勢力圏に入っていくわけだし、気を抜き過ぎてしまうのも良くないだろう。

 ともかく、向こうに渡る前に竜鱗の防具が完成したというのは心強い話だ。

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