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番外1692 公爵となって

 メルヴィン王は跪くジョサイア王子を見て口を開く。


「今日という日を迎える事ができたこと、嬉しく思う。長らくそなた達の成長を近くで見守り、王として相応しき資質となるように導いてきたつもりであるが、我が子らはよく期待に応えてくれてきた。余がこうして自らの責務を引き継ぐ事ができるのも、そなたがこの国に住む者達を安んずる良き王となると思えたからこそ」

「ご期待に沿い己が責務を果たし、今までこの国を守ってきた偉大なる先達と皆の忠節に恥じぬよう――これからも不断の努力を重ねていく所存です」


 ジョサイア王子が答える。メルヴィン王はそれからフラヴィアにも視線を向けて言葉をかける。


「フラヴィア。王位が継承され、婚礼も済めばそなたが国母となる。ジョサイアと共に民の希望たることを願う」

「はっ……! この身は非才なれど、ジョサイア様のお力となり、隣に寄り添い……そして民の心を安んずる事のできる王妃となれるように精進致します」


 そうしてメルヴィン王は少しの間ジョサイア王子とフラヴィアの晴れ姿を厳かな、しかし穏やかな表情で見ていたが、やがて玉座のある檀上から降りていき……跪いたままのジョサイア王子に近付く。


「汝、ジョサイア=ヴェルドガルよ。若き王となる者よ。祖より継いだこの王国の礎を守り、隣人と共に歩むがよい。努々慈しみと思慮を忘れぬよう」

「慈しみと思慮を心に刻み、我が国とここで生きるあまねく全ての者達を守り、共に歩む尊敬すべき隣人達と共に、長き平穏を築いていくことを誓います」


 誓いの言葉を聞き届けたメルヴィン王は――頭上の王冠をそっと手に取ると、自らジョサイア王子の頭上にそれを乗せる。


「王位の継承と戴冠はここに成った。引き続き、聖域にて王国を守るために契約の儀を受けられよ、ジョサイア王よ」

「はい、ヴェルドガル公」


 そこで初めてジョサイア王は立ち上がり――メルヴィン=ヴェルドガル公から王笏も受け取る。これでジョサイア王子は王太子から正統なヴェルドガル国王となり――退位した王は公爵位となる。ヴェルドガル公メルヴィン殿下、という事になるな。


「では――余には契約の儀……王としての最初の務めがある。ささやかながら一席用意しているので、皆には婚礼の儀まで王城での歓待を楽しんでもらえれば嬉しく思う」


 ジョサイア王が振り返り、フラヴィアやメルヴィン公と共に晴れやかな笑顔を列席者に向けて言う。まだ王としての口調はまだ意識しているという印象があるが、少しはにかんだように笑っていた。


「ご即位おめでとうございます、ジョサイア陛下」


 グラディス公爵夫人が祝福の言葉を口にして、ミレーネ公爵夫人と共に拍手を送る。俺達もそれに続いてジョサイア王に拍手を送った。

 そうしてジョサイア王は聖域へと契約の儀に向かった。要するに迷宮との契約の更新だな。ティエーラ側としてはクラウディアに何をすればいいのか尋ねていたが、ヴェルドガル王家との契約内容はもう決まっていて、宣誓するその心に問題や偽りがなければ了承するだけでいいと答えていた。


 契約内容を変更する事も可能だが、その場合はっきりとした形での専用の儀式での変更箇所とその理由の提示。両者の同意がその都度必要となる。現時点での問題はないのでメルヴィン公とも交わした契約がそのまま踏襲される形となるな。


 ともあれ迷宮管理者との契約更新はまだだが、これで正式にジョサイア王に王位が継承されたというわけだ。

 俺達は契約の儀も終わり、婚礼の儀が始まるまで少しの間待つ事になるが、この儀式はそれほど時間もかからないとのことだ。その間にフラヴィアも着替えたり、城で働く面々は婚礼の儀の準備を進めたりといった具合になるわけだな。


 というわけで準備室にて待っていた子供達を迎えに行き、サロンへと場所を移すこととなった。


「見守って下さってありがとうございます」

「勿体ないお言葉です。お坊ちゃまもお嬢様も、皆人見知りをせずに可愛らしくていらっしゃいますね」

「ええ。役得だとお話をしていたのです」


 準備室で子供達の事を見ていてくれた女官達に礼を言うと、笑顔でそんな風に言われてしまった。


「人見知りしないのは、人が多い事に慣れているからですね」


 グレイス達に加えてお城で働いている面々と普段から接しているからな。割と物怖じしない印象がある。コルネリウスやヴェルナー、それにルクレインも俺達と接する機会が多いからか、同じように人見知りしない。


「ルシール先生もいつもありがとうございます」

「ふふ。こちらこそありがとうございます。こういった状況ではいつも傍に控えているのが私の仕事でもありますから」


 ルシールはそう言って微笑む。式典の間は託児所代わりになっていたけれど、何かあった時に医務室代わりにも使えるようになっているようだ。診察台や普通の寝台も置いてあるしな。ロゼッタとルシールに贈った魔道具――血析鏡もしっかりと持ってきているようで、しっかり活用と研究を続けてくれているようだ。


 ちなみに今いる女官達は何かあった時にルシールの助手役もこなせる面々ということらしい。

 婚礼の儀の時は勿論、タームウィルズでのお披露目中もルシール達にはお世話になるしな。みんな信頼できそうな人達で何よりだ。

 というわけで子供達と共にサロンへと移動して、談笑しながらお茶を飲んで待たせてもらう。


「いやあ……すごい顔触れだね……。これからまだ挨拶周りだし、緊張してきたよ……」


 と、顔を合わせたダリルが少し遠い目をしながら言った。


「それでも以前より余裕が出てきたんじゃないか?」

「何回か経験しているから、流石にね。穏やかな方達だから、それだけに油断した頃合いでやらかさないかが心配だよ」


 ダリルは軽くかぶりを振っていた。


「まあ、緊張感があるなら大丈夫だと思うよ。ダリルはしっかり勉強しているし」

「そうだと良いんだけど。後、そう言ってもらえるのは普通に嬉しいな」


 苦笑しながらダリルが言った。まあ、俺のところでこっそりととは言え、肩の力を抜けるタイミングが作れるのなら適度に緊張感も解れて丁度いいだろう。

 そうして、ダリルは挨拶周りに戻っていった。婚約者であるネシャート嬢とも笑顔で言葉を交わしているので心配はなさそうだな。


「皆楽しんでくれているようで何よりだ」


 と、待機場となっているサロンに姿を現したメルヴィン公と公爵夫人である。式典用の正装から少し装いを変えて戻ってきたようだ。退位したから王ではなく公爵としての服装にしてきたという事だろう。ミレーネ公爵夫人も王妃ではなくなったのでティアラを外しているようだ。

 結婚式が終わるまではフラヴィア嬢は王妃ではないのでティアラの授受はその折に、ということになっている。


「これは殿下。素晴らしい式典でした」

「ふふ。これでようやっと肩の荷も下りたな。些か寂しいような気持ちがあることは否定せぬが、これからのジョサイア王の成長や新しい暮らしが楽しみでもある」


 メルヴィン公が俺の言葉に笑って応じる。


「父上の長きに渡る治世、本当に尊敬します」

「此度の継承の儀と新しい王の即位、おめでとうございます」


 ステファニアやローズマリー、マルレーン、アルバートにヘルフリート王子とメルヴィン公の子供達も集まり、メルヴィン公に長年の王としての務めを尊敬する言葉や式典が滞りなく進んで王位が無事に継承されたことを祝福する言葉を伝えていた。


「ずっと、守ってくださった事、も。ありがとう、お父様。それから、おめでとうございます」


 マルレーンも鈴の鳴るような声で感謝と祝福の言葉を伝える。守るというのは国と自分と。両方にかかった言葉でもあるのだろう。そんなマルレーンの言葉に、メルヴィン公は感じ入るように目を閉じるのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] メルヴィン王もついに退位ですね。 隠居後はのんびりと過ごすのか、はたまた 諸国漫遊というのもよさそうですが。 [一言] >ヴェルドガル公メルヴィン殿下、という事になるな。 てお「こちらに…
[良い点] 獣も継承の儀式したいとステフに強請ったが 石が欲しいと勘違いされた
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] >要するに迷宮との契約の更新だな。 てぃえーら「えーと、交代して初めての契約更新なので余計な事は言いません。 ただ破ったら、私より先にテオドールが笑みを浮かべ…
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