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番外1691 王の想いと共に

 そのままシルヴァトリアの近況を聞いてのんびりしていると、王城に各国の面々や国内の領主、それにペネロープやアウリアといった街中の知り合いが次々と案内されてくる。

 マルレーンがペネロープと挨拶をしたり、オルディアとイグナード王が笑顔で言葉を交わしたり。大事な人達に会えてみんな嬉しそうだ。

 ドミニクとユスティアも、ヴェラやマリアンと顔を合わせて笑顔になっているな。


「ああ……。本当に可愛らしいですね」

「デイヴィッドとも良き友人になってくれそうで先々が楽しみです」


 ベシュメルクのコートニー夫人がデイヴィッド王子と子供達を引き合わせている。クェンティンもその様子を見て笑顔になっていた。デイヴィッド王子の方が少し生まれたのが早いという事もあって、こうしてみるとデイヴィッド王子の成長の度合いが良く分かるな。

 デイヴィッド王子と同じぐらいに成長しているのは、エスナトゥーラが腕に抱いているルクレインだろうか。オリヴィア達やルクレインとも顔合わせして手足をばたつかせて声を上げ、かなり上機嫌そうなデイヴィッド王子だ。


 俺からもデイヴィッド王子に挨拶をすると、嬉しそうに俺の指を握ってきたりして。


 ハーピーの少女、リリーとウィスネイア伯爵家の令嬢、オリンピアも近しい年代だが、一緒にロメリアやヴィオレーネに手を握られたりして笑顔になっている。

 子供達同士で仲良くなっているのは良いな。微笑ましいというか。


「めでたき日であるな。テオドール達も子供達も健やかそうで誠に喜ばしい事だ」

「ふっふ。家もさぞかし賑やかで楽しい事だろう」

「ありがとうございます。お陰様でみんな元気にしておりますよ」


 それを見て表情を綻ばせているファリード王やエルドレーネ女王とも挨拶を交わす。知り合いの面々は挨拶がてら子供達の成長具合を見にきてくれているという印象だな。


 父さんとも顔を合わせたが、孫の顔を見て嬉しそうにしているし結構な事だ。そんな調子で待機時間中も和やかに過ごさせてもらった。

 やがて女官達が案内にやってきて、俺達も主城へ移動する。戴冠式は謁見の間で行われる。俺達列席者は謁見の間の両脇に並んで式を見守る形だな。


 謁見の間には隣に準備室があって、そこは多目的に使われているそうなのだが……今回はそちらが臨時の託児所になっている。防犯上、準備室は扉が無くて見通しが良く、メルセディアが警備担当、ルシールとお城の女官達が世話係として配属されている。女官達はベテランを集めたという事で、王族の面々も小さな頃にお世話になった事のある顔触れらしい。


「あの人達が見てくれるなら安心だわ」

「わたくし達で実績があるものね」

「父上と兄上の気遣いは流石に細やかだね」


 ステファニアとローズマリー、アルバートが言うと、マルレーンもこくこくと頷いていた。

 確かに、俺としても顔見知りやそうした経歴の人達が子供達の事を見守ってくれているというのは安心だ。いつでも準備室の様子が見られるというのもあるし。


 各国の賓客、国内貴族、宰相を始めとした大臣達、騎士、魔術師の上層、宮廷貴族に一般招待客、列席する場所はそれぞれに分かれている。俺達境界公家は迷宮の守り手扱いという事で国内の貴族ではあっても割合特殊な立ち位置になるらしいが。


 みんなと一緒に謁見の間で少し待っていると、楽師達が高らかにラッパを吹き鳴らした。


「これよりヴェルドガル王国国王メルヴィン陛下より、王太子ジョサイア殿下への王位継承と戴冠の儀を執り行います……!」


 役人の宣言と共に、メルヴィン王達が謁見の間に現れる事を告げ、戴冠式の始まりが告げられる。

 祝福ムードで和やかな雰囲気だった列席者達も、表情を真剣なものに切り替る。城の奥に続く間より、礼装の女官達がまず姿を見せ、間仕切りとなっているカーテンを開けば、メルヴィン王とミレーネ王妃、グラディス王妃が現れた。

 王笏を手に礼装を纏ったメルヴィン王だ。王妃達も礼装を身に纏っているな。楽師達の奏でる音楽と相まって、謁見の間が一気に厳かな雰囲気に包まれた。


 メルヴィン王はゆっくりとした歩みで玉座の前まで向かい、そうして玉座を背にする位置で動きを止める。王妃達も玉座の脇を固めるように立った。

 そうして、メルヴィン王が頃合いを見計らい、空いている手で楽師達を制する。奏でられていた音楽が盛り上がりを見せてから収まる。


 目を閉じて、何かを感じ入るかのような仕草を見せるメルヴィン王だ。長らく王位についていたから王位継承する側としても感慨深いものがあるのだろう。一、二呼吸の間を置いて目蓋を開けると言葉を発する。


「――今日という日をこれほどまでに多くの大切な者達と迎えられた事を、誠に喜ばしく思う。この王国が移り変わる折りに際して、国内外より遠路遥々足を運んでくれた事に感謝の意を示したい。そして勿論、これまで王国と余の政を支えてくれた忠臣達にも。偉大なる先達より引き継いだこの王国を守ってきてくれた忠節は言葉では言い表せぬものだ。王国の今日の平穏と繁栄、民の笑顔は、そなた達の手腕と不断の努力によるものである」


 メルヴィン王が感謝と労いの言葉を口にする。その言葉に、目を閉じて感じ入る者も少なからずいた。俺も……そうだな。偉大なる先達や平穏をと言われるのは、自分に当てはめて考えてしまう部分がある。


 月の民と迷宮の事。魔人との戦いの事。メルヴィン王も若い頃に王位を継承したが、これは先王の崩御に伴うもので、権力の移譲も大変だったのだとか。少し前の代の王は迷宮との契約違反による旧坑道の迷宮拡大など、やらかした案件があって、その後始末もあったというし、三家の問題も抱えていた。近年では死睡の王の事後処理でかなり苦労している。


 ヴェルドガル王国は長らく外国との戦争はなくやってきたけれど、そうした問題はあったし、それこそ細かな問題ならもっと頻繁にあった。今でもこれから先も、きっとそうなのだろう。


「ヴェルドガル王国や世界が抱えていた問題の内、大きなものも幾つか解決した。しかし人々の営みや暮らしは続いていく。また新たな問題が持ち上がる事もあろう。余の後を引き継いだ若き王を支え、共に歩んでいってくれることを期待している」


 大きな問題――国内のいざこざや魔人の事が解決したところでの退位を考えたのは……そうした背景があるからかも知れない。若い頃に準備が整わないまま王位を継いで苦労したから、ジョサイア王子には今のような状態で後を継がせてやりたいと考えたか。王としても国の余裕がある状態なら移譲もスムーズだろうし、父親としてもという親心もあるのだろう。


 メルヴィン王は退位するといっても元気だから、何かあっても求められれば助言も可能だしな。当人は実権を持たず「一線を退いて楽隠居よな」と笑っていたから、そうした助けもあまり必要ないと判断しているのだとは思うが。


 そうやって、来賓や俺達に向けられた言葉も一段落し、メルヴィン王が目を閉じて頷くと進行役を任されている役人も式を進める。ジョサイア王子とフラヴィア嬢の入場を伝えると、楽師達が高らかにラッパを吹き鳴らしドラムロールを響かせる。

 そうして控えの間に続く扉が開かれて――そこにジョサイア王子とフラヴィアが姿を見せた。二人とも礼装だな。フラヴィア嬢はこの後またウェディングドレスに着替えたり、色々準備があるので大変そうではあるが。


 そうして、ジョサイア王子とフラヴィアは前に進む。メルヴィン王達の前までやってくると、揃って恭しく膝をつくのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 獣は式典の最中も瞑想中だ
[一言] 臨時の託児所から赤ちゃんたちの鳴き声が、なんて心配をしてしまいましたw
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] >メルヴィン王の今 転生テオドールを作り出すと決めた世界線では、 さぞや無念の中で亡くなられたのではないか。 ついそんな事を考えてしまいます。 戦闘「この世界…
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