番外1689 礼装を纏って
「――お待たせしました」
「どうかしらね」
グレイスやステファニアの声が聞こえてくる。そちらを見るとみんなも見事なドレス姿になって部屋から出てくるところだった。
グレイスは髪を結って鮮やかな青いドレスを身に纏っている。普段とイメージが違うが……うん、こういう格好も良いな。髪飾りや首飾りもつけているけれど、華美になり過ぎている印象はなく、全体的にも上品で綺麗な印象だ。
前の王城の夜会でも青いドレスを身に着けていたがグレイスに似合う色だ。どこか神秘的な印象が増すコーディネートで、グレイスによく合っていると言えるだろう。
ステファニアは普段とは逆に、結っている髪を下ろした上でティアラを身に着けている。俺との結婚に伴って王族からは籍を抜いたけれど、メルヴィン王やジョサイア王子の肉親であることに変わりはないからな。ティアラについてはあくまで身分的なものではなく飾りではあるが、ステファニアはそういったアクセサリーも身に着けなれているというのもあって気品を感じる。
グレイスと同じく青系統のドレスであるが、明るい青で対照的というか。こちらも綺麗な発色をした見事な仕立てである。今回は列席する側でもあるから、ジョサイア王子とフラヴィア嬢に一番華があるように考えているらしいが、それでもこうして二人並んでみると華やかで綺麗なものだ。
「うん。二人ともよく似合ってると思う」
神秘性や気品。思った事をそれぞれ伝えると二人も嬉しそうに応じた。
「夜を連想するものを、という事だそうですよ。セシリアさん達からは青が良く似合っていたからと」
吸血鬼の出自も知って、グレイスはダンピーラに対しての想いも良いものになっているからな。そんな風に言うグレイスの表情は穏やかなものだ。
「ふふ。テオドールに気品なんて言われると照れてしまうわね」
ステファニアは頬に手を当てて少し照れくさそうにしているな。ステファニア自身の好みとしてはそういった王族らしい気品よりも親しみやすさを表に出したいようだが、それでも王族として身に着けたものがあるので、所謂王族としてのオーラがあるのだ。性格的にも公式の場では立派な王女であろうとしていたところもあるし。
「私達も準備できました」
「待たせたわね」
そう言いながら部屋から出てきたのはアシュレイとクラウディア、それにマルレーンだ。
アシュレイは――ポニーテールにしているな。活動的で明るい印象が出ている。ドレスについてはグラデーションの色合いが入ったオレンジのドレスだ。上半身が白い色合いでスカートの方に向かう程鮮やかな色が出ている。明るめの色合いが髪型と相まって活動的な印象をより引き立てているというか。
ここまで見ている感じだと普段のイメージと変えている部分と元々の一面を強めている部分がある気がするな。コーディネートはグレイス達とセシリア達、女性陣の主導だがそういうコンセプトがあったりするのだろうか。
俺には当日のお楽しみと言われていたが、うん。綺麗で華やかで、いいものだな。
クラウディアは――髪型をツインテールにしていて可愛らしさを引き出しているな。赤と白を基調としたドレスもクラウディアの黒髪によく合っている。
マルレーンは髪型を所謂お団子に。素直に可愛らしさを出しているが、うなじが出ていて新鮮だな。
身に着けているのはティアラと淡いベージュを基調とした明るいドレス。
年少組に関しては年齢のこともあって、ある程度目立つようにしても問題ないというコンセプトだろう。かといってグレイス達も地味にし過ぎているというわけではない。みんなのドレスは全体的に発色が良くて華やかな印象になっているな。やはりこの辺は晴れの日だし。
「ん。ドレスは少し落ち着かない」
「ふふ。でもシーラちゃんも可愛いわ」
シーラはレースやフリルのついたややゴシックな雰囲気のドレスだ。色はブラウンを基調としていて胸周りやスカートの裾にホワイトのレースが覗いている。
髪型は少しウェーブをかけているな。普段は柔らかな色のケープを羽織っているというのもあって、やはり普段とイメージを変えてきているというのは間違いない。
イルムヒルトは元々大きな三つ編みだ。髪を解くと緩いウェーブになっているが、今日は長い髪を巻き髪にしているようで、中々ゴージャスな印象に変えてきた。ドレスはネイビーブルー。落ち着いたイメージの色とデザインで、アダルトな雰囲気を強めてきているな。まあ……イルムヒルト自身はいつものほんわかとした性格と仕草なのであるが。
「普段との印象の変化というのも、中々に楽しいものね」
「マリー様は格好良いものも似合いますね」
「ありがとう。エレナも似合っているわ」
最後に出てきたのがローズマリーとエレナだ。
ローズマリーはグリーンとホワイトを基調としたもの。正装を逸脱したものではないが、比較的動きやすく活動的というか冒険者風に通じる格好良さを前面に出したデザインかも知れない。髪もサイドで結って活動的にしているからこの辺は狙ってやっているな。
エレナのドレスはバイオレットだ。エレナは本人がしっかりしているイメージがあるからか、今回は可愛らしさを前面に出しているようで。髪型はふんわりとしたウェーブをかけてリボンをつけている。
年少組は比較的明るい色を、というのはエレナも共通しているようだ。
みんなに見た印象や感じたことを伝えていくと、頬に手を当てて照れたり微笑んだり……ローズマリーは扇で表情を隠したりしていた。ドレスに合わせてか、扇も普段の羽扇ではなく色を合わせたレース入りだったりするが。
「テオドールの正装も素敵だわ」
「ん。格好いい」
「ありがとう。お仕着せになってないようなら良かった」
笑ってステファニアやシーラの言葉に答える。マルレーンもにこにこしながら大丈夫というようにシーラと一緒にサムズアップしていた。うむ。
「子供達にもお揃いの服を着せたりしているのよ」
「ああ――。それは良いね」
衣裳部屋から顔を覗かせた母さんが教えてくれた言葉に笑うと、フロートポッドに乗せられて子供達もやってくる。夏用の、やや薄手の肌着だな。
それぞれ母親達のドレスの色合いに合わせたもののようだ。それに正装をイメージしたデザインになっていて、子供達がそうした衣服を身に着けているのは中々に微笑ましい。
「見て見て!」
ドレスを纏った姿を見せると空中で両手を広げてくるりと回るセラフィナである。
「いいね。セラフィナのドレスも似合ってる」
そう答えると、嬉しそうに笑うセラフィナである。ラヴィーネやコルリス、ティールといった動物組もリボンをしたりと祭典仕様だし、セシリア達も出かけられるように準備を進めていたりして。
俺達が留守の間はアルクスやヴィアムスといったスレイブユニット持ちの面々やティアーズ達が城やフォレスタニアの警備を行ってくれるという事になっているからな。気兼ねなくみんなで結婚式のお披露目を見に行けたりする。
というわけで城の下階へと向かうと、テスディロス達も正装で準備を整えて待っていた。男性陣はサーコート。女性陣はドレス姿だな。総じて俺達よりもきっちりした正装という印象だが、お祝いの席なのでやはり色合い等は華やかなものだ。
「みんなも良いんじゃないかな」
「礼服と聞いていたからな。様にならないのではないかと心配していたところだが、まあ、問題はなさそうで良かった」
そんな風に少し冗談めかして答えるテスディロスである。
さてさて。みんなも準備できているようだし、それではまず造船所に向かい、シリウス号を王城へ動かしてから列席といくか。こうやって実際にみんなで着替えると気分も盛り上がってくるというものだ。